リスク志向のスタートアップや暗号資産企業を支援
ピーター・ティール(Peter Thiel)氏、パルマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏、ジョー・ロンズデール(Joe Lonsdale)氏などの著名テック投資家らが支援する新たなスタートアップ支援銀行「エレボール(Erebor)」が、米国で設立準備中であると報じられた。英フィナンシャル・タイムズ(FT)が関係者の話として7月2日に報じた。
この動きは、2023年3月に経営破綻したシリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank:SVB)の空白を埋める狙いがあるという。
SVBは2023年3月10日、米国史上2番目の規模で破綻。主な要因は、金利上昇に伴う保有債券の含み損と、それに伴う資本増強発表をきっかけとしたスタートアップ企業の預金大量引き出しだ。さらに、顧客層の偏りやリスク管理の不備も破綻を招いたとされる。破綻後は米連邦預金保険公社(FDIC)が管財人となり、資産の一部はファースト・シチズンズ銀行(First Citizens Bank)に売却され、ブランドも再起されたが、スタートアップ業界における主要銀行の崩壊は大きな衝撃を与えた。
「指輪物語」にちなんで名付けられた「エレボール」は、従来の銀行が融資を敬遠しがちなリスクの高い企業や暗号資産関連企業に対し、かつてのSVBのような貸し手の役割を担うことを目的としている。
共同創業者たちは、SVB破綻後に銀行設立の議論を開始したとされる。
「エレボール」は現在、米国の全国銀行免許(national bank charter)を申請中だ。申請書には「当行は国立銀行として、企業および個人に対して、従来の銀行商品に加えて暗号資産関連のサービスも提供する」と記されているという。
対象とする市場は、米国の「イノベーション経済」に属する企業で、特に暗号資産、人工知能(AI)、国防、製造に注力するテック企業。その従業員や投資家個人も対象とする。また、米国外企業の米国銀行システムへのアクセス支援も計画されている。
「エレボール」は、従来型および革新的な金融機関のいずれからも十分なサービスを受けていない顧客、特に信用アクセスが不十分な層と連携することで「差別化を図る」としている。
さらに、同社は「ステーブルコイン取引の執行および促進を行う中で、最も規制順守の進んだ主体となることを目指す」と申請書で明記している。
なお、ラッキー氏とロンズデール氏は、日常的な経営には関与しないという。
銀行の運営は、暗号資産企業サークル(Circle)の元アドバイザーであるジェイコブ・ヒルシュマン(Jacob Hirshman)氏と、デジタル資産ソフトウェア企業Aer Complianceの共同創業者兼CEOであるオーウェン・ラパポート(Owen Rapaport)氏が共同CEOとして指揮する。また、マイク・ハゲドーン(Mike Hagedorn)氏(バレー・ナショナル・バンク元幹部)が社長を務める。
本社はオハイオ州コロンバスに設置され、ニューヨークにもオフィスが追加される予定。ただし、サービス提供はすべてスマートフォンアプリとウェブサイトによるデジタル対応で完結する見込みだ。
参考:FT
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