ステーブルコインは日本を豊かにする手段。みんなの銀行がパブリック・ブロックチェーンでの発行を目指す理由(みんなの銀行 渋谷定則)

みんなの銀行がパブリックチェーンでの発行を目指す理由

福岡県未来ITイニシアティブが、福岡県を拠点にWeb3を活用し事業を行う企業へインタビューをお届けする連載企画。今回はふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)「みんなの銀行」CXOオフィス Web3.0開発グループ 渋谷定則氏を取材。同社が先日発表したソラナでのステーブルコイン発行検討の状況や、ステーブルコインの可能性などについて訊いた。

インタビュー:みんなの銀行 渋谷定則

── 「みんなの銀行」がどんな銀行事業を展開されているのか教えてください。

「みんなの銀行」は、日本初のデジタルバンクとして、全国のデジタルネイティブ世代をターゲットに2021年に営業を開始したふくおかフィナンシャルグループ傘下の銀行です。

個人向け(B2C)事業ではスマホで完結する金融サービスを提供し、また法人向けにはBaaS(Banking as a Service)事業として金融・非金融事業者へのAPIやバンキングシステムの提供をしています。

グローバルの大手テック企業らにあらゆる事業がディスラプトされていく中で、銀行という事業も決して他人事ではないんです。特に若い世代の銀行離れにどう対処していくか? 若いユーザーが離れていくのは、事業者が悪い。だからデジタルネイティブ世代も高齢化していく未来を見据えて、自らディスラプターになろうと。それで当時、「チャレンジャーバンク」戦略と位置付けて立ち上げた銀行です。おかげさまで今年10月には140万口座を突破し、そのうち15〜39歳のデジタルネイティブ世代が約7割という顧客属性となっています。

私は福岡銀行で事務管理部、リスク統括部、融資統括部、また福岡県庁内支店などを経て、2019年に「みんなの銀行」立ち上げのプロジェクトに参画しました。そして「みんなの銀行」内にWeb3開発グループを今年4月に立ち上げて、そのグループリーダーを務めています。

── Web3開発グループはどのような事業を実施しているのですか?

メインはステーブルコインの構築です。広義のステーブルコインであって電子決済手段ではなく、預金型トークンを検討しています。今年7月に、私たちとSolana Japan、Fireblocks、TISの4社でステーブルコインおよびweb3ウォレットの事業化に向けた共同検討を開始したことを発表しました。

またそれ以外にもNTT Digitalと博報堂が立ち上げた「web3 Jam」の「はぴウェル応援団」というSBTを活用したウェルネスキャンペーンへの参画や、ソニーグループのコーギアとのRWAトークン×ステーブルコインを軸にした新しい事業モデルづくり、また国産チェーンの「Japan Smart Chain」との取り組みなど、幅広くブロックチェーンに関する事業を展開しています。

── 前述の4社共同でのステーブルコイン発行検討について、どのような取り組みか教えてください。

この共同検討では、レイヤー1ブロックチェーンであるソラナ上でのステーブルコイン発行に向けた技術的な検証を行うとともに、個人(B2C)および法人(B2B)を問わず幅広いユースケースにおける実用性を検討しています。

銀行ではプライベートチェーンでステーブルコイン発行を検討しているところが多いと思うんですが、私たちはやはりパブリック・ブロックチェーンで挑戦したいんです。

ステーブルコインではないですが、2019年にFFGではブロックチェーン「Hyperledger Fabric」を活用してプライベートチェーンを構築し、「myCoin」というポイントサービスを始めました。ユーザーが貯めた「myCoin(1myCoinは1円換算)を銀行の貯蓄預金口座へのキャッシュバック、地域特産品や他社ポイントへの交換、ポイント投資など、様々な用途に利用できるサービスで、現在も展開中です。ポイントを動かすデータベースとして、ブロックチェーンを使っています。またその中でスマートコントラクトで自動化している部分もあります。

「myCoin」は5年以上稼働しており、現在10億円相当の「myCoin」が流通しています。だから私たちはブロックチェーンで実現できることの手触り感を、すでに持っているんですよ。

そんな経験をもとに、これから取り組むステーブルコインをパブリックチェーンで発行することで、可能性がより広げられると考えています。福岡から生まれたステーブルコインが、パブリックチェーンでグローバルでさまざまなエコシステムと繋がって使われるようになる方が、福岡県はもっと豊かになる。これは間違いないと考えています。

ただ一方で、当然ですがステーブルコインが金融犯罪に使われてはいけない。パブリックチェーンであり、かつデジタル通貨の要件としてのパーミッションドにする必要があります。私たちが目指すのは、ホワイトリストで制御されて、KYCに紐づいた形のパブリックチェーン上のデジタルマネーを作ることです。

── 日本の多くの銀行がプライベートで検討をしている中、パブリックで進めるのは素晴らしいですね。世界標準だと思います。そして今回、数多くのパブリックチェーンの中で、ソラナを選んだ理由は何なのでしょうか?

まずソラナのブロックチェーンの速さ、ガス代の安価さ、そしてDeFiアプリの収益が今一番大きい、つまり多く使われているという点です。

そして今年ソラナ上でトランプコインがローンチしたのを覚えている方も多いと思います。あの時にものすごいトランザクションが発生したのに、ちゃんと止まらず処理ができたのがソラナです。理論値ではなく実際の大きな負荷にも耐えた経験があることを評価しています。

また技術的な部分では、ソラナの「トークンエクステンションズ」が魅力的です。パブリックチェーンでステーブルコインを出す上で、送金先を制限しましょう、接続先を制限しましょう、金額を制限しましょう、といったようなパーミッション要件があるわけです。それを制御するのがプログラム、つまりスマートコントラクトなんですが、それらが第三者によって監査された状態で一通り全部そろっているのが「トークンエクステンションズ」だと思うんですよ。

もちろんウォレット側やアプリケーションレイヤー、他のチェーンであればL2で制御することもできる。ただソラナでは「トークンエクステンションズ」でレイヤー1でそれらのプログラムが実装できる。レイヤー1で完結して、一通りの制御機能が監査された状態で揃っている。これはソラナを金融で使う上で、かなり大きなメリットだと感じています。

── そもそもなぜ銀行として、今ステーブルコインに取り組むべきだと考えていますか?

現在、米国のマネーサプライの3%ぐらいがステーブルコインになっていると言われています。今後増加して10%ぐらいになると予想しています。

日本のマネーサプライは約1,600兆円です。なので日本でもその10%ぐらい、160兆円はステーブルコインになっていくと考えています。ステーブルコインなどオンチェーンのアセットが今すぐに既存金融をディスラプトすることはないと思いますが、ここ何年かで10%ぐらいはオンチェーンになるのは非現実的な話ではないと思っています。

仮にそうなったとして、では日本の場合、その160兆円はどこにいくのか? このまま日本の銀行がオンチェーンに対応していかなければ、海外サービスやDeFiに行ってしまうことが予想されます。そうなると当然、日本国内には、お金は回らなくなります。

FFGは企業の存在意義として、「一歩先を行く発想で、地域に真のゆたかさを。」という言葉を掲げています。まさに私たちは「一歩先を行く発想」としてステーブルコインを実現し、「地域に真のゆたかさ」をもたらしたい。この地域というのは福岡に限らず、日本の各地域、つまり日本全体を考えています。海外にお金を逃さず、日本を豊かにするために、世界に遅れをとるわけにはいかないのが今だと思っています。

── 現在世界のステーブルコインのボリュームの9割以上が米ドルペッグのものです。大手の寡占状態でもある。そんな中で日本円のステーブルコインにどのようなユースケースがあると考えていますか?

以下は社内資料ですが、このように様々なユースケースがあると考えています。

日本国内では、日本円のステーブルコインのユースケースはあるのか?といった議論がよく見られます。それを議論することは重要ですが、私個人的にユースケースは後から付いてくる、だからまずは基盤を作るのが大切と考えているんです。

基盤が整えばいくらでもユースケースはついてくる。福岡県の経済力、ひいては日本の経済力を舐めてはいけないです。

そしてステーブルコインの大きなメリットの1つは、プログラマブルなことです。だからWeb3ならではのユースケースを私たちは探していきたいと思っています。仮にですが、既存の仕組みがなくて今からゼロイチで全銀ネットや銀行勘定システムを作るとしたら、絶対にブロックチェーンを使うと思うんです。ジョン・レノンではないですけれど、プログラマブルなお金が世界に流通できるとしたら、銀行のシステムがブロックチェーンだったら、どんな世界になるか「想像してごらん(Imagine)」と。

よく日本では、ステーブルコインをペイメントアプリより使いやすいのかという議論がありますよね。もちろんステーブルコインはそのような個人決済にも使えますが、ユースケースはそこだけではない。私たち銀行が作れば、企業間の決済はもちろん、例えば融資事業もアップデートできます。これまで銀行と企業と個人が行なっていたことが、プログラムができてその瞬間瞬間に動かしていけるとなったらどうなるか。そうすればユースケースは山のようにあると思っています。

── ソラナ上のステーブルコイン発行、4社間で検討開始が発表されましたが、その後現在の進捗はいかがですか?

基盤の検証も終わっており、システム構築には「レディー」の状態と言っていいかもしれません。ここから先も色々経なければいけないことがあるので、今の時点でいつ発行するか明言することは難しいんですが、少なくともまだ仕様を検討していますというような段階ではないです。

── 「みんなの銀行」さんは福岡を拠点に日本全国に銀行サービスを提供しています。最後に福岡の魅力について教えてください。

私が歴史好きなので、歴史から振り返ると、福岡は古来、鎖国時代も世界と繋がっている感覚がある地域なんですよね。世界に開かれて新しいことをする地域だった。

また福岡は石炭で栄えて最先端だったんですが、昭和20年の石炭ショックで、福岡の経済がボロボロになった歴史もある。その際に私たちのグループ銀行である福岡銀行は、財政再建団体になったんですよ。貸し剥がしも貸し渋りもしなくて、福岡とともに沈んでいった歴史がある。

その後の平成金融危機の際は、さらに大きな試練が訪れました。当時、多くの都市銀行が公的資金注入を受けて、メガバンクへと再編されていきました。しかし、福岡銀行は自力での引当を積んで多額の赤字を出し、地元大手企業への債券放棄や事業再生を断行しました。国に先駆けて、自らの力で、不良債権処理をやり遂げたのです。

なぜ、このような厳しい道を選べたのかと考えると、それは、かつて石炭ショックで地域とともに沈み、そして這い上がってきた「福岡と一心同体である」という当社のDNAがそうさせたのだと思います。

そんな歴史があるから、福岡の金融機関は、福岡県や福岡市の行政と、九電、西鉄や西部ガスなど地域の企業同士の仲がすごくいい。官民連携の模範みたいな地域だと思います。

歴史の中でも暴れん坊集団と言いましょうか、福岡は昔から世界に開かれていて、新しいことを求める気質があります。石炭とともに最先端を行き、一時沈んだ時期はあったものの、今また盛り上がりを見せつつあるというような歴史を辿ってきた地域。そう考えると福岡がグローバルのテクノロジーと金融のトレンドであるWeb3において存在感を発揮するポテンシャルは十分にあると思っています。

だから私たち「みんなの銀行」も未来を見据えて、この福岡という地域から、ステーブルコインの発行を目指し、そして日本中に広げられればと思っています。

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「みんなの銀行」公式サイト

「福岡県ブロックチェーンフォーラム2025」12/22開催

福岡県および福岡県未来ITイニシアティブ主催のイベント「福岡県ブロックチェーンフォーラム2025」が、12月22日(月)に福岡市のONE FUKUOKA BLDG.で開催される。イベント当日はブロックチェーンや暗号資産などWeb3領域のトップランナーが福岡県に集結する。大阪・関西万博で人気を博したパビリオンの裏側や今話題のステーブルコイン、自動車業界でのトレーサビリティ、スポーツ業界でのコミュニティなどをテーマに、登壇者らがブロックチェーンの最前線と未来について語り合う。またFUKUOKA学生ビジコン2025の優勝者のプレゼンや、県内企業らのピッチ登壇、さらにネットワーキングも開催される。なお「福岡県ブロックチェーンフォーラム2025」はリアル会場およびオンライン配信のハイブリッド開催となる。参加費は無料。是非ともご興味ある方はチェックいただきたい。

「福岡県ブロックチェーンフォーラム2025」の詳細とお申し込みはこちら

福岡県未来ITイニシアティブについて

福岡県未来ITイニシアティブは、「新しいITを生み出す人やITを活用する人とともに、より豊かに生活できる未来を創造する」を理念としています。福岡県には、ITを活用した製品・サービスの研究・開発を行う企業・エンジニア・大学等が多数集積しています。これらのITに関わるすべての人とともに、新しいITの創出と活用の促進、起業家やエンジニアが協力して挑戦を続ける環境づくり、未来のIT産業を支える人材の育成を行い、県内のIT産業の持続的な発展を目指します。

あたらしい経済内の特設ページでは、ブロックチェーン関連を中心とした福岡県未来ITイニシアティブの取組みや福岡県内のブロックチェーン関連企業のご紹介などを掲載していきます。

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取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:堅田ひとみ
取材場所:福岡県未来ITセンター

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福岡県未来ITイニシアティブ

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これらのITに関わるすべての人とともに、新しいITの創出と活用の促進、起業家やエンジニアが協力して挑戦を続ける環境づくり、未来のIT産業を支える人材の育成を行い、県内のIT産業の持続的な発展を目指します。

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