Tetherがローカル実行型AI基盤を近日公開へ
米ドル建てステーブルコインUSDT等のステーブルコインを発行するテザー(Tether)社が、中央集権的なクラウドに依存せずローカルデバイス上でAI(人工知能)を実行できる開発基盤「クォンタムバースオートマティックコンピューター(QuantumVerse Automatic Computer:QVAC)」を近日公開予定であると5月14日に発表した。
「QVAC」では、スマートフォンやノートPC、メインフレーム、組み込みシステム、ブレイン・コンピューター・インターフェースなど、様々なハードウェア上でAI推論やエージェントの構築・展開が可能とのこと。
また同プラットフォームは、ネットワークに接続されているかどうかにかかわらず、AIアプリケーションが安全かつ独立して動作できるよう設計されているという。これによりAIモデルがユーザーのデバイス上で完全に実行され、クラウドへの接続が不要となり、プライバシーや自律性、そしてレジリエンス(回復力)の向上が可能になるとされている。
さらに「QVAC」は、小さな構成要素を組み合わせて柔軟に構築・拡張できるモジュール式アーキテクチャと、中央サーバーに依存しないピアツーピア(P2P)通信により、デバイス間での直接的な通信および連携を可能にするとのこと。これによって「QVAC」エコシステムは単一障害点のない構造となり、何兆ものAIエージェントやアプリケーションへとスケーラブルに展開できると説明されている。
また「QVAC」には、テザー社の開発者向けツールキット「ウォレットデベロップメントキット(Wallet Development Kit:WDK)」を通じた統合支払い機能が備わっており、AIエージェントはビットコイン(BTC)やUSDTで自律的に取引を行うことが可能になるとのこと。
今後テザー社は、「QVAC」を活用した初のAIアプリケーションとして、「QVAC/トランスレート(QVAC/Translate)」および「QVAC/ヘルス(QVAC/Health)」の展開を予定しているという。
「QVAC/トランスレート」は、テキストやドキュメント、画像、音声のオンデバイスでの高速な文字起こしと翻訳を可能にし、クラウドに一切依存しない設計となっている。また「QVAC/ヘルス」は、センシティブな健康データを完全にローカル環境で保持するプライバシー重視型のウェルネストラッカーとして開発されている。
さらにテザー社は、今後数カ月以内に「QVAC」向けの包括的なソフトウェア開発キット(SDK)をオープンソースとして公開する計画であり、開発者があらゆるデバイス上でエージェントやアプリケーションを容易に構築・展開・拡張できる環境を提供するとしている。
テザー社のCEOであるパオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)氏は「QVAC」の展開について、「AIを使うのにAPIキーが必要なら、それは本当の意味で自分のAIとは言えない」と述べている。
そのうえで同氏は「QVACはこうした構造を転換するために設計されており、AIをローカルファースト、プライベート、そして独立したものにする。ユーザーが自分自身のデータや計算、そして自律性を取り戻せるようにするのが目的だ」と発表にて語っている。
テザー社による今回の取り組みは、同社が掲げる分散型AIへの長期ビジョンの一環とのことだ。
また同社は過去にAI関連企業への投資も行っている。2023年9月には高性能コンピューティングと分散型データストレージに取り組むノーザンデータグループ(Northern Data Group)に出資。なお出資額は明かされなかった。
さらに2024年4月には、ブレインコンピュータインターフェース(BCI)技術の先駆者とされるブラックロックニューロテック(Blackrock Neurotech)に2億ドル(約292億円)を出資し、テザー社は筆頭株主となっている。
参考:テザー
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