イーサリアムの段階的なガス制限引き上げ計画
イーサリアム財団(Ethereum Foundation:EF)の研究者であるダンクラッド・ファイスト(Dankrad Feist)氏が、イーサリアムのガスリミットを4年間で段階的に100倍に引き上げる新たな改善提案「EIP-9698」を4月27日に発表した。
この提案は、ガスリミットを現在の3,600万から最終的に36億まで増加させるために、2025年6月1日頃(エポック369,017)から開始する「確定的ガスリミット成長スケジュール」を導入するというものだ。このスケジュールは、約2年(164,250エポック)ごとにガスリミットを10倍ずつ増加させるというものだ。
ガスリミットとは、イーサリアム上の単一ブロックに含められる計算作業(ガス単位で測定)の上限のことで、これを引き上げるとより多くのトランザクションや複雑なスマートコントラクト実行をブロックに含めることが可能になる。
またエポックとは、イーサリアムで用いられる時間単位のこと。またスロットは12秒ごとに区切られた時間単位のこと。32個のスロットを1つの区切りとする単位をエポックと呼ぶ。各スロットごとにブロックを提案する単一のバリデータが選ばれ、ブロックを1つ生成する。
イーサリアムエコシステム開発者のファブリス・チェン(Fabrice Cheng)氏によると、もし「EIP-9698」が実装されれば理論上イーサリアムのベースレイヤーで処理できるトランザクション数は現在の毎秒約15~30件から最大で毎秒約2,000件まで向上する可能性があるとのこと。
ファイスト氏は今回の提案の中で「予測可能な指数関数的成長パターンをクライアントの標準機能として導入することで、ハードウェアとプロトコル効率の予想される進歩に合わせた持続可能で透明性のあるガスリミットの軌道を促進する」と述べている。
この提案は、最適化が不十分なノードへの負荷増大やブロック伝播時間の増加といった課題をもたらす可能性があるが、段階的な増加により運用者や開発者が適応・最適化する時間を確保できるとファイスト氏は主張している。
なおファイスト氏らイーサリアム研究者チームは、今回の「EIP-9698」の他にも今年後半に実施予定の「フサカ(Fusaka)」ハードフォークでガスリミットを1億5,000万まで引き上げる別提案「EIP-7935」を最近公開している。
イーサリアムのガスリミットは2015年の立ち上げ時には1ブロックあたり約5,000だったが、2021年には約1,500万に増加し、2022年の「マージ(The Merge)」後は約3,000万で安定していた。しかし今年に入って3,600万まで引き上げられている。
イーサリアムはこれまでスケーラビリティの課題に対処するため、オプティミズム(Optimism)やアービトラム(Arbitrum)、ベース(Base)などのレイヤー2ソリューションによる「ロールアップ中心のスケーリング」に焦点を当ててきた。今回の提案は、ベースレイヤーの処理能力を向上させるものであるため、トランザクション処理をレイヤー2に依存する現在の戦略を見直す動きとなる。
参考:EIP-9698
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