米検察当局、FTX元CEOに50年の懲役刑と約110億ドルの罰金求める

証明された罪以外の不正行為にも言及

米検察当局が、破綻した暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの元CEOで、複数の詐欺罪で有罪判決を受けたサム・バンクマンフリード(Samuel Bankman-Fried:SBF)氏に対し、40~50年の懲役刑と110億2,000万ドル(約1兆6,452億円)の罰金を求めている。3月15日付けの政府の量刑求刑書にて明らかとなった。

SBF氏は、7つの罪で有罪判決を受けている。具体的には、FTXの顧客およびアラメダ・リサーチ(Alameda Research)の貸し手に対する電信詐欺および電信詐欺の共謀、FTXの投資家に対する証券詐欺および商品詐欺の共謀、マネーロンダリングの共謀だ。

同氏の判決日は3月28日予定で、最長115年の懲役刑を受ける可能性がある。

ルイス・カプラン(Lewis Kaplan)判事に提出された量刑求刑書では、裁判所で証明された犯罪行為の他に、複数のSBF氏の不正行為について言及された。

具体的には、「違法な政治献金計画」、「中国政府高官への賄賂の試み」、「銀行取引における不正行為」、「責任逃れの試み」、「様々な司法妨害」についてだ。

また検察当局は、SBF氏に求める110億2,000万ドルの罰金の内訳を次のとおりとした。

SBF氏がFTX顧客に行った電信詐欺に関連する一連の行為の罰金として80億ドル、アラメダリサーチの貸金業者に対しSBF氏が行った電信詐欺および電信詐欺の共謀の収益として130万ドル、SBF氏による証券詐欺の収益に相当する17億2,000万ドルである。

検察は、政府がすでにSBF氏より10億ドル以上の資産を押収していることを報告し、110億2,000万ドルの罰金を「控えめな金額」と表現した。

「本当のサム」

また検察当局は、量刑求刑書の中でSBF氏の弁護士による反論をことごとく退けている。

SBF氏の弁護側は、同氏の人格を証明するため、家族や精神科医からの手紙を裁判所に複数提出。その手紙では裁判の証拠は「本当のサム」を示すものではなく、同氏が強欲さに突き動かされているわけではないことが主張されたという。

しかし検察当局は、公判で示されたSBF氏の人物像が家族や友人にとって信じられないものであったとしても、同氏が故意に甚大な損害を与える行為に及ばなかったということにはならないと一蹴。

量刑求刑書は「SBF氏は、自分の事業の収益と自分の富を最大化するために、無数の不正行為に関与した」と指摘し、「SBF氏は全財産を寄付するつもりだったと主張したかもしれないが、裁判の証拠は、同氏が高価なペントハウスのアパートに住み、複数の不動産を所有し、両親に家と数百万ドルを贈与し、マイアミ・ヒートのスポーツ・アリーナにFTXにちなんだ名前を付けたり、スーパーボールの広告費を支払い、有名人とつながるために数百万ドルを支払ったことや、ハイリスクなベンチャー投資や多額の政治献金をしたことが示された」と述べた。

またSBF氏が行ったと主張する慈善寄付については、「他人の金を使った慈善活動」だと当局は指摘した。

FTX基金への寄付や、SBF氏の兄が設立したパンデミック予防の非営利団体「ガーディング・アゲンスト・パンデミック(Guarding Against Pandemics)」への寄付は、子会社のアラメダ・リサーチを経由した顧客の資金で支払われたものであると当局は述べている。

過去の大規模詐欺事件との比較

量刑求刑書では過去に起きた複数の大規模詐欺事件とFTX事件が比較された。

SBF氏の弁護士は、過去に大規模な詐欺事件で起訴された人物らとSBF氏を比較の上区別し、反論材料とした。

具体的には、史上最大のネズミ講詐欺を首謀したバーナード・L・マドフ(Bernard Lawrence Madoff)氏や、医療ベンチャー「セラノス」の詐欺と共謀罪に問われた同社創業者のエリザベス・ホームズ(Elizabeth Anne Holmes)氏などである。

しかし当局は、マドフ氏のケースが、同氏が年上である点、最初から詐欺に関与している点、盗んだ資金を何百万ドルも私的利用した点等でSBF氏のケースとは異なることは認めるが、マドフ氏の判決を判断基準としないことは理にかなわないとした。

SBF氏はマドフ氏同様、数十億ドルの顧客の資金を不正流用し、数年にわたり、その多くを自らの事業に費やし、被害者に甚大な損害を与えた。しかしSBF氏はマドフ氏と違い、責任を認めていないどころか偽証し、司法を妨害したと当局は指摘している。

刑期について

また当局は刑期に関して、SBF氏の年齢が比較的若いことを考慮することはない姿勢を示している。

当局は、そのような理由で刑期が短くなると釈放された後に再び詐欺を働く機会があると見ており、「年齢を理由に刑期が短くなるということは、これから詐欺を行うかもしれない若者たちに、大規模な詐欺を試みる価値があるというシグナルを送ることになり、一般的な抑止力を損なうことにもなる」と主張した。

これらの理由から当局は、SBF氏の年齢はマドフ氏の量刑を参考にしない理由にはならないとしている。

ちなみにマドフ氏は2009年に禁固150年を求刑されており、2021年に82歳で獄中死している。

被害やトラウマの規模の甚大さ

さらに当局はSBF氏とエリザベス・ホームズ氏の「類似点は表面的なもの」だと指摘した。

ホームズ氏のケースでの被害額は1億5,000万ドル未満であり、その被害は一般大衆ではなく個人投資家が対象であったが、SBF氏の件は、同氏を信頼した顧客から数十億ドルを盗んでいると量刑求刑書は述べている。

またSBF氏の弁護士は「ホームズ氏の詐欺により当事者は不正確な医療情報を受け取ることになったため、(FTX事件に比べて)より悪いものだ」と主張したが、当局はSBF氏が与えた被害やトラウマの規模の方がはるかに大きいと指摘。

「不正確な医療結果を得て心に傷を負ったセラノスの患者のように、FTXの顧客も被告(SBF氏)の詐欺行為によって壊滅的な精神的・心理的傷を負ったのだ。しかし、セラノスの患者たちは、最終的にその検査が不正なものであることを知り、人生をやり直すことができた。同様のことはFTXの顧客には当てはまらず、彼らはお金を取り戻せていない」と当局は述べている。

「強力なシグナル」送る量刑に

当局はこれらの事実や要因を考慮し、「SBF氏は、この歴史的詐欺行為における役割に見合った厳しい制裁を受けるに値する」との見解を示した。

当局は「(SBF氏が)100年を超える事実上の終身刑となる刑期は必要ない」としたが、「政府は裁判所に対し、数千人の被害者を出した極めて深刻な性質を強調し、被告人(SBF氏)が二度と詐欺行為を行わないようにし、金融不正行為に手を染める可能性のある他の人々に、その結果が厳しいものであるという強力なシグナルを送るような量刑を課すよう求める」と結んでいる。

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参考:裁判資料
images:Reuters

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

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