米SEC、コインベース提出の暗号資産規制の制定請願を拒否、各所から批判の声

SECが請願書を拒否

米証券取引委員会(SEC)が、米国最大の暗号資産(仮想通貨)取引所コインベース(Coinbase)の提出していた「デジタル資産証券規制に関する規則制定を求める請願書」を拒否した。SECのゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)委員長の声明として12月15日発表された。

ゲンスラー委員長は、SECがこの請願を拒否する理由として「暗号資産市場には既存の法規制が適用される」こと、「SECは暗号資産市場についても規則制定を通じて対応している」こと、「ルール作りの優先順位をSECが決めるという裁量権を維持することが重要であるため」という3つを挙げている。

この請願は、昨年7月21日にコインベースがSECへ提出していたものだ。この請願書でコインベースは、デジタル資産証券に関する規則を提示して採択するようSECに要求していたが、SECは対応しない姿勢を続けていた。そのためコインベースはSECに対して請願書への回答を行わせるために行政手続法を発動するよう、法的措置をとったが、裁判所命令が出たあともSECは回答を先送りにしてきた。

ゲンスラー委員長はまた、ハウィー判例法を引き合いに出し、暗号資産が投資契約の形態で提供・販売され、事業体が暗号資産証券の取引を仲介する限り、連邦証券法が適用されると強調した。

なおハウィー判例法は、1946年に起きたSEC対W. J. Howey社事件の際に裁判所が「投資契約」の判断基準として定めたもの。後年「ハウィーテスト(Howey test)」と呼ばれるようになった。「ハウィーテスト」は、米国において特定の取引が、証券取引の定義の一つである「投資契約」に該当するかどうかを判定するテストである。

CoinbaseはSECに異議申し立ての姿勢

SECによる請願書への対応拒否を受けて、コインベースの最高法務責任者であるポール・グレワル(Paul Grewal)氏は自身のX(旧Twitter)にて12月16日、「私たちの請願に対するSECの恣意的かつ気まぐれな却下に異議を申し立てるため、第3巡回区に申請中」であると報告している。

業界から反対意見も

また今回のSECの対応に対し、親暗号資産派として知られるSECのコミッショナーのへスター・パース(Hester Peirce)氏とSEC委員のマーク・ウェダ(Mark Uyeda)氏が、反対を表明している。

両氏は、「SECが規則制定課題に関する時期と優先順位を決定する広範な裁量権を持っていることを認める」としながらも、「このような問題の検討には、公開の円卓会議、コンセプト・リリース、意見募集が含まれるべきであり、それによって、幅広い市場参加者やその他の利害関係者の意見を聞く機会が得られる」と述べた。

そうすればSECは、それらの機会から得た知見をもとに必要に応じてガイダンスを発表したり、ルール作りに関与したりすることができるとも両氏は主張している。

また、XRP支持派のジョン・ディートン(John E Deaton)弁護士も、今回のゲンスラー委員長の考えに反対した。

ディートン氏は12月15日のXにて、ゲンスラー委員長が声明にて「暗号資産には独自性も新しさもなく、既存の法律が暗号資産にも簡単に適用できる」と述べたことについて、同氏の過去の発言から翻意していると指摘。

コインベースの請願書は、「ゲンスラー委員長とSECのリーダーらがかつて信じていたことを確認したにすぎない」とし、ゲンスラー委員長が政治的理由から態度を180度変えたことを批判している。

SECは請願書対応への回答を延期している間の今年6月に、コインベースを証券法違反で提訴していた。

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参考:ゲンスラー氏声明SECヘスター・パース氏らの声明
images:iStock/Nerthuz・bakhtiar_zein・Igor-Korchak

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

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