なぜペイパル「PYUSD」はフェイスブックのリブラが失敗した分野で成功しそうなのか?=ロイター

政治家らの理解向上が追い風に

米決済大手ペイパル(Paypal)発行のステーブルコインは、フェイスブック(Facebook)が挫折した分野で成功する可能性が高い。これは、ペイパルのワシントンにおける地位の高さと、過去3年間で政治家がこの課題への理解を深めたおかげだ。

ペイパルは今月、米ドルにペッグされた暗号資産(仮想通貨)である「PayPal USD(PYUSD)」をローンチすると発表。現在はメタプラットフォーム(Meta Platforms)のフェイスブック(Facebook)が2019年6月にリブラ(Libra)をお披露目したのに続き、ステーブルコインをローンチする2番目の主要グローバル企業となった。

8月14日に発表されたペイパルの新たなCEOへの体制移行に伴うこの動きは、フェイスブックのステーブルコインが政治的反対によって潰されたり、いくつかの金融破綻のが起きた後、規制当局が暗号資産分野への監視を徹底的に強める中においては、一見リスクが高いように思える。

ちなみにペイパルは今年2月に退任を発表したCEOダン・シュルマン(Dan Schulman)氏の後任として、個人向け資産管理ソフト提供の米イントゥイット(Intuit)の幹部であるアレックス・クリス(Alex Chriss)氏を任命。同氏は9月27日よりCEOに就任する。なおシュルマン氏は来年5月の年次株主総会まで取締役に留まる予定だ。

しかしペイパルはフェイスブックよりも強い立場にある、と元政府高官、幹部、アナリストは語る。政治家らは一般的に法定通貨にペッグされる暗号資産であるステーブルコインについて、2019年当時よりも詳しくなっている。連邦政府によるステーブルコイン規制の策定を推進する動きも、議員の目から見たステーブルコインの正当性を後押ししている。

米商品先物取引委員会(CFTC)の元委員長であるクリストファー・ジャンカルロ(Christopher Giancarlo)氏は「フェイスブックのリブラプロジェクト以来、世界は劇的に変化した。当時はステーブルコインに全くなじみはなかった」と述べている。

また「それ以来、政権、議会、連邦準備制度理事会(FRB)は、ステーブルコインとステーブルコイン規制について理解を深める時間があり、多くのロビー活動を含め、業界による非常に広範な広報活動が行われた」とジャンカルロ氏は続けた。

プライバシーの問題やロシアの大統領選挙への干渉をめぐって監視の目を向けられていたソーシャルメディアの巨人フェイスブックとは対照的に、ペイパルはワシントンでは定評のある金融業者だ。

選挙資金とロビー活動に関するデータを追跡する非営利団体「オープンシークレット(OpenSecrets)」によると、ペイパルは昨年、連邦政府へのロビー活動に113万ドル(約1.6億円)を費やしており、暗号資産に関するロビー活動を数年間続けていることが記録で明らかになっている。

投資銀行業務などの金融サービス会社BTIGの政策調査ディレクターであるアイザック・ボルタンスキー(Isaac Boltansky)氏によれば、政策的な観点から見ると、フェイスブックのリブラとペイパルのステーブルコインには大きな違いがあるという。

「銀行と商業の間にはまだ壁があり、ペイパルがその壁の片側にいることは明らかだ」とボルタンスキー氏は語る。

なおペイパルとメタはコメントを控えている。

「PYUSD」は、米ドルの価格に1:1でペッグ(固定)されたステーブルコインで、その価値は米ドル預金・短期米国債・同様の現金相当物に100%裏付けられているという。「PYUSD」およびその準備金は、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の規制監督対象になるとのこと。なお発行元は「パクソストラストカンパニー(Paxos Trust Company)」だ。

ペイパルがステーブルコインを立ち上げたのは、ペイメント・イノベーションのリーダーとしての自負があるからだと、この計画に詳しい人物は語っている。ペイパルの現CEOシュルマン氏は、最終的にはペイメントに使われることを想定していると述べている。しかし関係者によると、「PYUSD」は主に米国の顧客が同社のプラットフォームで他の暗号資産を売買するために使われるだろうとペイパルは予想しているという。

みずほ証券のシニアアナリストであるダン・ドレブ(Dan Dolev)氏は、ペイパルの投資家にとって「PYUSD」は画期的なものではないとの見方を示した。同氏は「それはポジティブなノイズだ」と付け加えている。

壮大な野望

確かに、一部政治家は懸念を抱いている。下院金融サービス委員会の民主党トップであるマキシン・ウォーターズ(Maxine Waters)下院議員は、ペイパルが消費者と金融の安定を守るための連邦政府の監視なしにステーブルコインを立ち上げようとしていることに警戒感を示した。しかし、ワシントンでの反応は穏やかだ。

フェイスブックがスイスを拠点とし、法定通貨バスケット方式のステーブルコインであるリブラを発表したとき、経営陣はその野心を隠すことはなかった。世界の金融システムに革命を起こしたい、と。

このプロジェクトは、リブラがフェイスブックにマネーシステムを過度にコントロールさせ、ユーザーのプライバシーを侵害する可能性があると警戒する政治家らからの激しい反対に遭った。不意を突かれた規制当局は、誰がステーブルコインを監督すべきか混乱した。

フェイスブックはリブラを「ディエム(Diem)」へとリブランディングし、規模を縮小し、米国の規制当局の承認を得るためにプロジェクトを米国に移した。

この問題を詳しく知る元政府関係者によると、リブラの承認決定は2021年1月のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領への政権移行と重なった。米国連邦準備制度理事会(FRB)は以前からこの問題に取り組んでいたが、最終的にはジャネット・イエレン(Janet Yellen)新財務長官に決定が委ねられた。彼女は問題を十分に分析する時間が欲しかったのだ、とこの人物は語っている。

結局、待ちくたびれたフェイスブックは2022年1月にプロジェクトを主導するディエム協会(Diem Association)の運営会社であるディエム・ネットワークス(Diem Networks)を、シルバーゲートキャピタル(SilvergateCapital Corporation)へ売却した。

ホワイトハウスとFRBはコメントを拒否した。財務省の広報担当者は、「イエレン財務長官は、ステーブルコインのための包括的な規制の枠組みを作るよう繰り返し議会に求めている 」とコメントしている。

財務省は過去2年間、ステーブルコインを研究してきた。昨年テラUSDが破綻した後、イエレン財務長官はステーブルコインはシステミック・リスクをもたらすものではないと述べた。それ以来、ステーブルコインが伝統的な貨幣に取って代わられてしまうのではないかという懸念は沈静化し、財務省と議会は、規制当局がステーブルコインを監督すべきだという点で大筋合意している。

ブロックチェーン企業R3の政策・政府関係責任者であるジャック・フレッチャー(Jack Fletcher)氏は「こうしたものの比例リスクを理解するために…非常に多くの作業が行われてきた」と語った。

FRBは今月、州立銀行がステーブルコインの取引を行うためのプロセスを説明。また先月、下院金融サービス委員会は、州の規制当局の権限を維持しつつ、FRBにステーブルコインを監督する権限を与える法案を提出した。

同委員会の共和党委員長であるパトリック・マクヘンリー(Patrick McHenry)氏は、「PYUSD」に関する声明の中で、議会はその法案を可決するために迅速に動くべきであり、「ステーブルコインがその可能性を最大限に発揮できるようにする 」と述べている。

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※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Analysis-Why PayPal’s stablecoin is likely to succeed where Facebook’s Libra failed By Hannah Lang
Reporting by Hannah Lang in Washington; Additional reporting by Andrea Shalal and Pete Schroeder in Washington, and Niket Nishant in Bengaluru; Editing by Michelle Price and Matthew Lewis
翻訳:髙橋知里(あたらしい経済)

参考:ペイパル
images:Reuters

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髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

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