ブロックチェーン協会がSECカストディルールの改正案に意見、コインベースやa16zらも難色示す

SECによるカストディ新ルールへ意見

米ブロックチェーン協会(Blockchain Association)は、米証券取引委員会(SEC)が提案しているカストディに関する規則の改正に反対する姿勢だ。ブロックチェーン協会がSECのカストディ・ルールに対するコメントレター(書簡)を5月8日提出した。

カストディに関する規則改正は、SECが2月15日に提案したもので、登録投資アドバイザーに対し、暗号資産を適格カストディアンで保管することを義務付けるというものだ。この改正によりルールの適用範囲が顧客の資金や証券だけでなく、投資顧問会社傘下の顧客資産にも拡大されることになるという。SECはこの規制案を「適格なカストディアンが維持できない特定の証券および物的資産に対する保護を強化する」ものだと説明している。

今回ブロックチェーン協会が提出した書簡では、「(規制案の)特に適格カストディアンの要件は、デジタル資産ネイティブのカストディアンがサービスを提供し続けることを抑制し、顧問顧客の保護は高まるどころか、むしろ減少する」と主張されている。

また同協会は、デジタル資産の特徴を「適切に考慮」するために、現状の規則では修正が必要との考えも示している。同協会はSECに対し、「特定の高度な管理を条件として、適格なカストディアンと提携している取引プラットフォームを利用することをアドバイザーに許可する」ことを提案。また「内部統制報告書の義務化に加え、提案された規則では、提携する取引所プラットフォームを持つ適格カストディアンに対し、より頻繁な抜き打ち検査・定期的な独立サイバーセキュリティ監査・リスク評価・事故対応・修復に関する定期的なSEC報告義務を課すことができる」と続けた。

また同協会は、SECが「ほとんどのデジタル資産は現在、カストディ・ルールの[ファンドまたは証券]である」と示唆する声明に対し、行政手続法(APA)と矛盾しているとの考えを示している。その理由は規則が、1940年に制定された「米国投資顧問法」のもとで確立されているためだ。同法は証券乱用を防止・撲滅するための法律である。

同協会は書簡の中で「(SECによる)これら声明は、これまでの解釈的立場からの逸脱を意味し、行政手続法に準拠した適切な通知と意見によるルールメイキングが行われていない市場参加者に束縛的規範を課している」と指摘した。

a16zらも難色示す

大手暗号資産取引所のコインベース(Coinbase)、大手VCアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz:a16z)、そして「クリプト・ママ」としても知られるSECのへスター・パース(Hester Peirce)氏でさえも規則改定に懸念を示している。3者はそれぞれに、SECに対し書簡を送り、潜在的な不具合等を指摘した。

コインベースは、「(カストディ業務に関する)これらの仮定は必要でも適切でもなく、暗号資産を含む他の資産クラス(証券であるかどうかにかかわらず)の消費者保護に悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘。また、州規制の信託会社が適格カストディアンとしてカウントされることを今後も認識するようにと念押し。「州の金融規制当局は、技術や経済の変化に対応するために、連邦政府よりも機敏であることが多い。したがって、州金融規制当局を適格カストディアンの一種として含めることは、競争、効率、投資家保護を促進することになる」との考えを示している。また、SECが行おうとしている規則改正は「暗号資産取引に対する制限」であり「暗号資産取引所が取引をプレファンドする理由やリアルタイム決済などのプレファンドの利点を考慮していない 」とも述べている。

アンドリーセン・ホロウィッツは、SECは「RIA(登録投資顧問)による暗号資産やその他の資産の自己保管のための広範かつ堅牢な体制」を構築する必要があると述べている。またアンドリーセン・ホロウィッツは、SECが「この深刻な懸念」に対処し、規則案を「クリプトに有効な」ものにするための例外規定を設けなければ、同規制案を支持することはできないという考えも表明した。

なおRIA(登録投資顧問)とは、米国において銀行やブローカー・ディーラーなどの適格なカストディアンに資産を預けることを義務付けるカストディ・ルールの適用を受ける企業のこと。SECや各州の証券管理当局に登録し、クライアントに証券投資についての助言やポートフォリオ管理を提供している。またRIAには、クライアントの利益を最優先するという受託者責任が課せられている。

また「より広範な自己監査体制を支持する上で、委員会が、ステーキングや投票などの参加型機能を持つ暗号資産に対してセーフガード・ルールが機能するかどうか、またその方法を十分に検討しているかどうか疑問」と懸念を示し、「RIAが中央集権的なプラットフォームで暗号資産を取引することを妨げることは、RIAの顧客からこれらの資産の最も流動的な取引場所を奪う可能性が高い」とし、「(そのことにより)RIAは[最良の執行という受託者の義務を果たす]ことに苦労することになるだろう」と述べている。

アンドリーセン・ホロウィッツは、「暗号資産市場とマーケットメーカーに関するデータ収集と分析の欠如は、規則の経済的影響を考慮することを要求する委員会自身の表明した最善の慣行に反するものであり、顧問法に違反する恐れがある」と主張している。

今年2月に提案された規則改正へのパブリックコメントの受付期間は「連邦官報への提案リリースの掲載」から60日間とされていた。

現在SECのウェブサイトでは、上記以外にも多くの企業や法律顧問がこの規則案に対してコメントを提出していることが確認できる。

SECのへスター・パース氏も、すぐにこの規則案提案に対する反対意見を表明。懸念材料のひとつに暗号資産への影響の可能性を挙げ、改定後の規則は「適格カストディアンの数を減らす」ことになり、暗号資産投資家が盗難・詐欺に遭うリスクが高まる恐れがあると指摘していた。

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参考:ブロックチェーン協会コインベースa16zSEC
images:iStocks/taa22

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

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