ECB理事が欧州におけるデジタル通貨発行の可能性について言及

ECB理事が欧州におけるデジタル通貨発行の可能性について言及

ヨーロッパ中央銀行(ECB)の理事であるイブ・メルシュ(Yves Mersch)氏が11日に開催されたCoinDesk主催のバーチャルイベント「コンセンサス・ディストリビューテッド」にて欧州の中央銀行デジタル通貨(CBDC)の可能性について語った。

同氏によれば、ECBはデジタルユーロの発行に関して慎重に研究を続けているが、今はまだデジタルユーロに対する需要はないと判断しているという。

その一方で「現在CBDCの具体的なビジネス活用方法がないからといって、万が一私たちがデジタルユーロを発行する政策決定をした場合に準備されているようにCBDCの最適設計を深く探求すべきです。」とも発言しており、今後もCBDCについて積極的に調査を続ける姿勢を見せた。

同氏は、ヨーロッパ全体で小売り取引の76%を現金で行っていることや現金需要の伸びがGDPの伸びを上回っていることなどを挙げ、市民のデジタル通貨への需要が見られないことを説明した。

また、同氏は今年初めにECBが立ち上げたCBDCに関する特別組織でなされた調査のプレビューをイベントで行った。

CBDCの特別組織では、金融機関向けのホールセール型ではなく個人向けのリテール型CBDCについて焦点を当て調査が行われているという。

リテール型CBDCに焦点を当てている理由について、「現在中央銀行が発行している通貨はほとんどデジタル化されている。これはホールセール向けに発行される大部分のお金に当てはまる。つまり、すでに中央銀行のバランスシートにアクセスしてデジタル通貨を利用することは可能である。したがってCBDCによって大きく変わるのは中央銀行のバランスシートにアクセスできる当事者の範囲である。」と述べ、リテール型のCBDCがゲームチェンジャーになりうることを説明した。

また特別組織では、主に「CBDCは法定通貨として認められるか」と「ECBはCBDCを発行する独占的な権利を持っているのか」という2つの法的問題が取り上げられた。

前者については、法定通貨として認められるためにはどこにいてもオフラインであっても使用できる必要があるとし、もし法定通貨でないのであればデジタルユーロの位置づけを明確にする必要があると述べた。

後者については「ECBは紙幣や硬貨に関して排他的な通貨発行権を持っている。しかし私(弁護士資格も持つ)の意見では、通貨発行権がデジタル通貨の発行には適用されるべきだろうと思われていないと感じている。しかし、まだこの意見を裏付ける法的な根拠はないです。」と述べている。

編集部のコメント

CBDCについては技術的な問題について焦点を当てられがちですが、EUに関しては複数の国が共通して一つの通貨を利用しているため、権利などの法的な問題が他の国々よりも一層大きいようです。

現状では、紙幣の発行権はECBが持っているものの、硬貨の発行はEU各国が行っているため、CBDCが紙幣と硬貨のどちらとして認められるかという疑問も議論の的となっています。これは法的解釈次第ではEU各国がそれぞれCBDCを発行できる可能性があることを意味します。

EUはCBDCの研究を進めている他の国々とは少し状況が違うため、今後の動向や結果の差異はデジタル通貨普及への有益なトピックとなると考えられます。

コメント:小俣淳平(あたらしい経済)

イメージ:antoniokhr

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あたらしい経済 編集部

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