米財務省とIRS、暗号資産ステーキングの税務ルールを明確化

税務上の不確実性を解消へ

米財務省が、暗号資産(仮想通貨)をステーキングする信託および一部の上場投資商品(ETP)向けの新たなガイダンスを11月10日に発表した。米国内国歳入庁(IRS)が発行した文書「Revenue Procedure 2025-31」により、信託が一定の条件を満たせば、暗号資産をステーキングし、その報酬を投資家に分配できるようになる。

IRSは声明で、特定の信託やETPが暗号資産をステーキングすることが「連邦所得税法上の適格性」にどのように影響するかについて、多くの問い合わせを受けていたと説明している。今回のガイダンスは、これまで不明確だったステーキングの税務上の扱いに一定の明確性を与えるものであり、関係者の間で長年指摘されてきた税務上の不確実性を解消する狙いがある。

スコット・ベッセント(Scott Bessent)財務長官はXで「このガイダンスは、ETPが暗号資産をステーキングし、リテール投資家と報酬を共有するための明確な道筋を示すものだ」と述べ、「今回の措置は投資家の利益を拡大し、イノベーションを促進し、アメリカがデジタル資産とブロックチェーン技術の分野で世界をリードし続けることを支える」と強調した。

今回の発表は、米証券取引委員会(SEC)の下部組織である企業財務部門(Division of Corporation Finance)が今年5月29日に「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)型ネットワーク上のステーキング活動は有価証券取引には該当しない」という見解を示したことを受けた動きだ。これにより、ステーキングをめぐる税務および規制上の不確実性が大きく解消されるとみられている。

今回発表された18ページのガイダンスでは、一定の条件を満たす場合にステーキングを認めるセーフハーバー(safe harbor)規定が新たに設けられている。

具体的には、対象となる信託やETPは、まず1種類のデジタル資産と現金のみを保有しなければならず、そのうえで秘密鍵の管理やステーキングの実行を適格カストディアンに委託することが求められる。また、ステーキング中であっても償還に対応できるよう、SECの承認を受けた流動性ポリシーを維持する必要があり、独立したステーキング事業者との間では利益相反のない取引関係を保つことも条件となる。さらに、活動内容は資産の保有、ステーキング、償還に限定され、裁量的なトレーディングを行わないことが求められている。

IRSは、こうした要件を満たすことで、信託がステーキングを行っても税務上の信託資格を維持できると明記しており、報酬の分配も適格な投資行為として扱われることになる。今回のガイダンスは、これまで曖昧だったステーキングの税務処理に明確なルールを示すものであり、機関投資家やETP事業者がより安心してステーキングに参加できる環境を整える狙いがある。

暗号資産企業コンセンシス(Consensys)の上級法律顧問ビル・ヒューズ(Bill Hughes)氏はXにて、「この安全港により、暗号資産ETFや信託などの機関投資家向けビークルが、コンプライアンスを維持しながらステーキングに参加できるようになる」と述べた。また、「Revenue Procedure 2025-31は、ステーキングをコンプライアンスリスクから税制上認められた制度的に実行可能な活動へと変え、PoSブロックチェーン全体での本格採用を加速させるだろう」とコメントしている。

参考:ガイダンス
画像:iStock/designer491

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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