米SECが「プロジェクト・クリプト」開始。現代型規制に転換へ

「米国をイノベーションのリーダーへ」

米証券取引委員会(SEC)のポール・アトキンス(Paul S. Atkins)委員長が、「プロジェクト・クリプト(Project Crypto)」を開始すると宣言し、米国における暗号資産(仮想通貨)のイノベーションを推進するため、規制の見直しに着手する姿勢を7月31日に示した。 

プロジェクト・クリプトは、証券規則を現代化し、米国金融市場のオンチェーン化を推進するもの。

設立の背景には、先日米国で成立したGENIUS法があるという。同法は、金本位制を基盤としたステーブルコイン規制を整備し、米国が国際決済分野でリーダーシップを維持することを目指すものだ。

また大統領のデジタル資産市場作業部会(PWG)は、米国がブロックチェーンと暗号技術で世界の中心となるための枠組み構築へ向けた報告書を7月30日に発表。PWG報告書には、規制の明確化と国内産業の競争力強化を目的とした具体的な提言が記されている。

アトキンス委員長はプロジェクト・クリプトにより、SEC政策部門がヘスター・パース(Hester Peirce)委員率いるクリプト・タスクフォースと連携し、PWG提言の迅速な実行にあたると説明。これにより、米国から撤退した暗号資産企業の呼び戻しや、新規参入企業への支援が進むという。

またアトキンス委員長は、「米国が最先端技術の開発と資本市場参加の拠点であり続けるため、すべての市場参加者を歓迎する」と強調。前政権下で進められた「規制執行による抑圧」や「オペレーション・チョークポイント2.0」による打撃を受けた企業も対象とし、イノベーション推進に向けた包括的な環境整備を進める方針を示している。

なおプロジェクト・クリプトには幅広いイニシアチブが含まれる。

アトキンス氏は、SECの従来の立場を覆し「大半の暗号資産は有価証券ではない」と明言。いわゆる「ハウイー・テスト(Howey Test)」の曖昧さを明確化し、流通市場の法的不確実性を排除する方針を打ち出した。なおハウイー・テストとは、米国において特定の取引が、証券取引の定義の一つである「投資契約」に該当するかどうかを判定するテストである。

さらにアトキンス委員長は、暗号資産をデジタルコレクティブル、デジタル商品、ステーブルコインといったカテゴリーごとに整理し、証券法が適用される取引には目的適合型の開示、安全港(セーフ・ハーバー・ルール)、免除措置を導入するとした。これにより、ICOやエアドロップ、ネットワーク報酬といった取引にも、米国人が法的リスクを恐れず参加できる環境を整える方針だ。

加えて、トークン化証券の普及支援も推進する姿勢も示された。ウォール街の大手からシリコンバレーのユニコーンまで、米国外で進むトークン化の流れに米国人が取り残されないために、委員長はSEC職員に対し、企業との協力体制を指示したという。

また、保管機関や取引所の選択肢拡大も進める。自己保管型ウォレットの利用権利を重視しつつ、登録業者に対しても現代的なカストディ要件を策定。過去の「オペレーション・チョークポイント2.0」によって制約された市場環境を改善し、より柔軟な規制を導入する方針だ。

さらにアトキンス委員長は「スーパーアプリ」構想を掲げ、単一ライセンス下で証券、暗号資産、ステーキング、レンディングなど多様なサービスを一元提供できる体制を推進すると表明。過度な重複規制を排除し、イノベーションが阻害されない環境を整える方針を示した。

また、オンチェーンソフトウェアシステムや分散型金融(DeFi)の位置づけにも同委員長は言及。仲介者を介さない分散型モデルを証券市場に適切に組み込む規制改正を目指すとした。さらに、規制を迅速に適用できるイノベーション免除の導入も検討し、新たなビジネスモデルの市場参入を呼び込むとした。

アトキンス委員長は最後に、「米国は傍観者ではなく、イノベーションのリーダーとして次の金融の章を書き進める」と強調。今回の包括的改革を推進する中で、米国を世界の暗号資産の拠点とすることを目指すとした。

参考:声明
画像:Reuters

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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