米メタがステーブルコイン導入を再検討か、Diem撤退から3年=フォーチュン

米メタがステーブルコイン導入を再検討か

2019年、米メタ(Meta)は大胆なプロジェクトを発表した。フェイスブック(Facebook)、ワッツアップ(WhatsApp)など複数のデジタルプラットフォームで利用可能な新たな暗号資産(仮想通貨)を創設する計画であった。しかし、米国議会および議員らから激しい反対を受け、同社はその計画を断念した。

そして現在、メタは再び暗号資産分野への挑戦を試みている。事情に詳しい5人の関係者によると、同社は支払い処理手段としてステーブルコインの導入を検討するため、暗号資産企業との協議を行っており、暗号資産分野での経験を持つプロダクト部門のヴァイスプレジデントも新たに採用したという。なお、この5人はすべて米フォーチュン(Fortune)誌が身元を確認しているが、匿名を条件に非公開のビジネス交渉について語った。メタはコメントを拒否している。

ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨に価値を連動させた価格変動の少ない暗号資産の一形態であり、ブロックチェーン業界では長らく注目を集めてきた。しかし、バイデン政権下での厳格な反暗号資産政策により、その普及は制限されてきた。

だが、2024年11月にドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が大統領に再選したことや、決済大手ストライプ(Stripe)によるステーブルコイン企業ブリッジ(Bridge)の11億ドル(約1,579億4,900万円)での買収を受け、ステーブルコインは国際送金手段として金融業界で再び注目を集めている。

過去1カ月間では、ビザ(Visa)がステーブルコイン基盤インフラを提供するブリッジと提携したほか、資産運用会社フィデリティ(Fidelity)が独自のステーブルコインを開発中であることを明らかにし、ストライプはステーブルコインによる新たな金融アカウントを発表した。

メタの関心は、ステーブルコインに対する非暗号資産系企業の関心の高まりを反映している。米議会では現在、長年の規制の不透明性を経てステーブルコインを規制する2本の法案が審議されている。

メタの暗号資産計画において、2025年1月に同社のプロダクト担当ヴァイスプレジデントとして着任したジンジャー・ベイカー(Ginger Baker)氏が中心的な役割を担っている。ベイカー氏のリンクトイン(LinkedIn)によると、同氏はフィンテックと決済分野の専門家であり、以前はフィンテック企業プラッド(Plaid)で役員を務め、現在も暗号資産企業ステラ開発財団(Stellar Development Foundation)の理事を務めている。関係者によれば、ベイカー氏はメタのステーブルコイン関連の取り組みを主導しているという。

なおメタはベイカー氏のコメント提供にも応じていない。

3人の関係者によれば、メタは今年初めに暗号資産基盤インフラ企業に接触していた。現在も協議は初期段階にあるが、議論の焦点はステーブルコインが法定通貨と比較して持つ重要な利点、すなわち送金手数料を抑えつつ地域を超えて個人への支払いが可能になる点にある。

ある暗号資産インフラ企業の幹部は、メタ傘下のインスタグラム(Instagram)が、100ドル(約1万4,359円)程度の少額報酬をクリエイターに支払う手段としてステーブルコインを統合する可能性を示唆した。この方法であれば、法定通貨での支払いよりも手数料が安く抑えられるという。

同幹部は、メタは現在「学習モード」にあると述べ、どのステーブルコインを利用するかについては特定の発行者、たとえばサークル(Circle)の米ドル建てステーブルコイン「USDC」に限定せず、中立的な立場を取るだろうと付け加えた。他の暗号資産企業の幹部2名も、フォーチュン誌に対し、メタと初期段階の協議を行っていると証言している。

一方、サークルは2025年3月に、ゲーム系ブロックチェーン企業イミュータブル(Immutable)からマット・キャビン(Matt Cavin)氏を採用した。同氏がメタを含む複数の大手テック企業との協議を主導していると、事情に詳しい関係者は語っている。

キャビン氏のリンクトインによれば、彼の現在の肩書は「Tier-1戦略的パートナーシップの責任者」となっているが、具体的な協業先企業の名称は明記されていない。サークルもコメントを拒否している。

ステーブルコインの急成長

メタのステーブルコイン再検討は、同社がかつて暗号資産分野で最も注目された大手テック企業だったことから、特に注目されている。

2019年、メタはブロックチェーン構想を発表し、複数の法定通貨に裏付けられたステーブルコインを立ち上げる企業連合「リブラ(Libra)」を構想した。この連合にはウーバー(Uber)やペイパル(PayPal)なども参加予定だった。

その後、プロジェクト名は「ディエム(Diem)」に変更されたが、規制当局の監視の中、メタは2022年初頭にプロジェクトを断念し、暗号資産に好意的な銀行シルバーゲート(Silvergate)にディエムの資産を売却した。

リブラに関与していた社員の一部はその後、独自の暗号資産企業を立ち上げた。たとえばデイビッド・マーカス(David Marcus)氏は、ビットコイン決済インフラ企業ライトスパーク(Lightspark)を創設している。また他の元社員も、メタの技術を再利用して独自のブロックチェーンを立ち上げており、最も著名なのがアプトス(Aptos)とスイ(Sui)である。これらのチェーンは、メタが開発した独自のプログラミング言語「Move」を基盤としている。

5月6日、フェイスブック創業者であり最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏が、ストライプのカンファレンスに登壇し、ステージ上で同社共同創業者のジョン・コリソン(John Collison)氏との対談において「ディエムは失敗だった」と発言したことが、フォーチュン誌に提供された映像により明らかになった。

ザッカーバーグ氏は「それ(ディエム)はもう終わった」と述べた。また、メタが技術トレンドに対して先んじる傾向があることについて尋ねられると、「早く始める方が楽しいのは確かだ」と語りつつ、「しかし、私たちが出遅れた分野でも、そこから巻き返すのは得意だとも思っている」とも述べた。

※この記事は「あたらしい経済」がロイター経由でフォーチュンからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Exclusive: Meta in talks to deploy stablecoins three years after giving up on landmark crypto project
(Reporting By Leo Schwartz, Ben Weiss)
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
画像:Reuters

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大津賀新也

「あたらしい経済」編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

「あたらしい経済」編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

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