セキュリティトークン、STO市場は拡大するか?〜国内各社動向と事例から考察〜

はじめに

昨年5月1日に施行された金融商品取引法の改正により、セキュリティトークンに関する規制の整備が行われSTO(Security Token Offering/セキュリティ・トークン・オファリング)に関するルールが定められた。

またこれにより昨年10月にはSecuritize Japan株式会社とLIFULLが提供するSTOスキームによって国内初のSTOが一般個人投資家向けに実施され、SBIホールディングス株式会社も同月にSTOビジネスの開始を発表した。いくつかの業界団体なども組成されており、STとそれを活用したSTOは金融業界でも注目のキーワードの1つになるだろう。

この記事ではセキュリティトークンとSTOとは何か、それらを活用した事例や企業の動き、そして今後の可能性について紹介していく。

セキュリティトークン(ST:Security Token)とは

セキュリティトークンとは、ブロックチェーン等の電子的技術を使用してデジタル化し発行される法令上の有価証券のことを指す(Securities=有価証券)。株や債券などといった有価証券と同等の法規制が適用されるものだ。このことからセキュリティートークンはデジタル証券とも呼ばれている。

日本では昨年5月施行の改正金融商品取引法によりセキュリティトークンは「電子記録移転権利」と規定され(金商法2条3項)、金融機関での取り扱いが可能になった。なお「暗号資産(仮想通貨)」とは区別されている。また金商法に該当しないセキュリティトークンとして、「不動産特定共同事業法に基づく出資持分をトークン化したもの」や会員権などの「アセットの権利をトークン化したもの」も定義されている。

セキュリティトークンの主なメリットは以下の通りだ。

(1)24時間可能な取引と即時決済
主な証券取引所は取引時間が決められているが、ブロックチェーン技術を利用したセキュリティトークンにおいては取引を24時間365日稼動させられるため、証券の売買がいつでも可能になる。また現状の証券取引では受渡しが行われる決済日は売買が成立した約定日から3営業日後となるが、セキュリティトークンでは即時決済が可能になる。

(2)取引コストの低減
ブロックチェーンの応用技術であるスマートコントラクトをセキュリティトークンに利用することで配当の支払いや証券取引に伴う、株主名簿、社債原簿などの更新を自動化でき、また株主優待の付与も同じプラットフォーム上にて行うことも出来る。これにより仲介者による手数料や市場参加者による作業時間が無くなることで大幅なコストの削減が実現する。またコスト削減により利回りの向上も期待される他、新たな投資商品の開発や提供への動きを各証券会社が展開することで、従来の市場構造ではなしえなかった新たな可能性の追求が期待されている。

(3)所有権の細分化
金融資産の分割は管理コストが上がる為、従来行われるケースは少ない。しかしデジタル化されたセキュリティトークンを用いることで、小さな単位の所有権の分割が行えるようになる。こういった分割は不動産やアートの分野で注目を集めており、所有権の分割を視野に入れたSTOの活用が期待されている。また一般投資家も参加がしやすい最低投資金額の設定も可能になり、新たな資金の流入やこれまでカバーされていなかった投資家ニーズへの対応が実現する。

STOのメリットとは

そんなセキュリティートークンを活用した資金調達方法として注目が集まるのが、STO、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)だ。

STOは暗号資産の新規発行による資金調達方法の一つであるICO(イニシャル・コイン・オファリング: Initial Coin offering)と比較されることもあるが、STOはそれとは異なり、各国の証券取引委員会や金融庁等の下で監視され、証券取引などと同様に金融商品取引法が適用されるのが特徴だ。

そのためSTOは資金調達後に事業そのものが失敗し消失したり、詐欺まがいの事案が多数発生したICOよりも安全かつ厳格に資金調達を実施できるメリットがある。

STOは伝統的なエクイティファイナンス、デットファイナンスさらにはクラウドファンディングに次ぐ新たな資金調達の手法として事業主からの期待されている。さらにSTOによって株式や社債に変わる新しい金融商品を生み出せられれば、投資家に対して新たな投資機会を創出することも可能だ。。

国内のSTOに関する状況

ここからは日本国内におけるセキュリティトークン及びSTOを取り巻く状況を紹介していく。

昨年4月30日に一般社団法人日本STO協会が金融庁より「認定金融商品取引業協会」として認定された。これによって日本STO協会によるが定める自主規制ルールは法令に準じた権威を持つものとして認識されるようになった。

なお日本国内には一般社団法人日本セキュリティトークン協会(JSTA)もあり、非営利団体としてセキュリティトークンの知見を集約し、セキュリティトークンエコシステムの健全な発展を推進する活動を行っている。

なお日本STO協会はSBIホールディングス株式会社の代表取締役社長である北尾吉孝氏が代表理事を務めている。

SBIホールディングス株式会社の取り組み

そんな日本STO協会を主導する立場であるSBIホールディングスは、昨年10月9日に国内初となるSTOに関連するビジネスをSBIグループとして開始することを発表した。

またSBIホールディングスは同社子会社であるSBI e-Sports株式会社が昨年10月30日にSBIホールディングス株式会社を引受人としてSTOを用いた第三者割当増資を行う予定であることも併せて発表をしている。

この第三者割当増資は5,000万円の資金調達を普通株式1,000株をデジタル株式として発行することで行われ、SBI証券のユーザーが第三者割当増資に参加できるとのことだ(なおこちらは後述するが予定通り昨年10月30日にSTOの実施がされている)。

またSBI証券では信託法や資産流動化法等に基づくファンド形式のSTOの公募の取扱いに関する業務を検討しており、取り扱うファンド型STOの投資先は、不動産、美術品、ゲームや映画の版権などの知的財産権等の資産を想定しているという。

なお新たに発行するデジタル株式の管理を株式会社BOOSTRYが提供するSTOプラットフォーム「ibet」を用いて発行、管理、デジタル株式の権利の移転・株式名簿の更新が行われるとのことだ。

株式会社BOOSTRYの取り組み

STOプラットフォーム「ibet」を提供する株式会社BOOSTRYは、2019年9月に野村ホールディングス株式会社と株式会社野村総合研究所(NRI)がブロックチェーン技術を活用した有価証券等の権利を交換する基盤の開発・提供を行う合弁会社として設立した企業だ。昨年12月にはSBIホールディングスも出資参加している


BOOSTRYは昨年5月に富士通株式会社と共に、ブロックチェーン上で管理する有価証券、バウチャー、会員権などのデジタルアセット(セキュリティトークンなど)取引の本格化を見据えた円滑かつ安全な権利移転モデルの確立を目指し、複数の取引サービスを相互に接続するプラットフォームサービス提供に向けたビジネスモデル検討を開始を発表している。

これにより両社はデジタルアセットの普及、農業分野や不動産、エンターテインメント・スポーツなどのファンビジネスといった新規取り扱い商品創出を促進するDX時代の金融システムとして、昨年度下期中に富士通のクロスチェーン技術「コネクションチェーン」とBOOSTRYの「ibet」を活用した相互接続プラットフォームサービスの提供により、権利取引と決済の実現を目指すとのことだ。

またBOOSTRYは昨年7月にもケネディクス株式会社、三井住友信託銀行株式会社と共に「デジタル証券」の発行においての協業を発表している。

この3社の協業ではセキュリティートークンの発行を、日本の不動産証券化において一般的なスキームである特定目的会社制度の下、不動産関連資産を裏付けとする優先出資証券を活用し、「ibet」にて台帳管理するとのことだ。 

このようにBOOSTRYではSTO実施の為に着々と準備を進めている印象があり、2021年は新たな発表が期待できるかもしれない。

株式会社LayerXの取り組み

昨年3月、株式会社LayerXが三井物産株式会社、SMBC日興証券株式会社、三井住友信託銀行株式会社と合同でブロックチェーン技術を活用した次世代アセットマネジメント事業分野での協業開始を発表し、4社合同で新会社「三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社」を設立した。

そして同年4月、三井物産デジタル・アセットマネジメントはセキュリティトークンの実証と実証ファンドの開始を発表している。

この実証ファンドでは、三井物産デジタル・アセットマネジメントとLayerXが全体コンセプト、セキュリティ・トークン発行のシステムを企画・開発する。三井物産リアルティ・マネジメント株式会社はアセットマネジメント会社として運用業務を担うという。さらに三井物産株式会社とLayerXを投資家とする私募取扱業務には三井物産オルタナティブインベストメンツが関わり、投資持分の売買プロセスに関する実証において媒介者としての役割を果たす予定とのことだ。

また株式会社LayerXは中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」を提供する株式会社ツクルバとフィンテックアセットマネジメントが協業する不動産ファンドの運用自動化検討に参画することも昨年3月13日に発表している。

Securitize Japan株式会社の取り組み

BOOSTRY・LayerXの他にも日本国内ではSTOに関する取り組みを積極的に進めている企業がある。Securitize Japan株式会社だ。

同社の親会社であるブロックチェーン企業「Securitize」は、すでに米国にて10社以上のSTOを実施しており、2019年12月に日本企業「BUIDL」を買収し100%子会社化。これにより日本市場への進出を足がかりにしてアジア市場におけるSTOの普及を目指しているようだ。なお昨年4月に「BUIDL」は「Securitize Japan株式会社」に社名変更を行っている。

その後Securitize Japanは昨年8月に不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」等の住生活関連サービスを提供する株式会社LIFULL(ライフル)と業務提携を行い、不動産特定共同事業者(不特法事業者)向けのSTOスキームの提供開始を発表した。

またSecuritize Japanは昨年12月18日にSBIグループのデジタルアセット統括部門であるSBIデジタルアセットホールディングス株式会社とのパートナーシップ締結を発表し、Securitizeのデジタル証券発行・管理プラットフォームとSBIの投資家向けウォレット、カストディソリューション「sbiwallet」を統合し、日本市場向けにワンストップで提供する計画を明らかにした。

さらにSecuritize Japanは昨年12月22日に株式会社NTTデータと、日本市場向けセキュリティトークンプラットフォームの実現に向けた協業を10月より開始していたこと明らかにしており、その協業の第一段階として同プラットフォームに関する共同研究を完了したことを発表している。

そんなSecuritize Japan株式会社とLIFULLが提供するSTOスキームが、国内初のSTO案件に利用されることになる。

【国内事例1】株式会社エンジョイワークス「葉山の古民家宿づくりファンド」

昨年10月20日にSecuritize JapanとLIFULLが株式会社エンジョイワークスの「葉山の古民家宿づくりファンド」を国内初の一般個人投資家向け不動産STOとして実施するを発表した。

「葉山の古民家宿づくりファンド」は株式会社エンジョイワークスが運営するクラウドファンディングサイト「ハロー!RENOVATION」にて募集されていた案件で、昨年10月20日よりSTOプラットフォームが導入された形となる。

この案件は1口あたり5万円で投資が可能で目標募集額の1,500万円は調達済み。ファンド組成は完了している。

なおファンド運用開始後は、ファンド出資者からの持分譲渡がブロックチェーン上で可能となり、イーサリアム(Ethereum)パブリックブロックチェーン上に記録されるとのこと。事前に投資家登録を済ませた持分譲渡を希望する第三者が現れた場合に、出資持分の譲渡が成立するとのことだ。

なおこの案件の実際の運用は2021年1月29日より開始している。

【国内事例2】株式会社グローベルス「Foresight(フォーサイト)南麻布」

続いての事例として、昨年12月11日国内不動産業者である株式会社プロスペクトが、LIFULLとSecuritize Japan提供のSTOスキーム導入を発表した。

STOスキームの導入は株式会社プロスペクトの連結子会社である株式会社グローベルス運営の不動産投資型クラウドファンディング「大家.com」の第1号案件「Foresight(フォーサイト)南麻布」において行われた。

リリースによるとこの不動産特定共同事業者向けSTOスキームは「大家.com」に投資した投資家が持つ出資持分を投資家同士で売買できる仕組みとのこと。

今までは投資商品に一度出資を行うと運用期間中は出資金はロックされてしまうため、運用期間終了まで出資持分を保有し続けなければならなかったが、このスキームの導入によって運用期間中であっても出資持分を譲渡することが可能となり、投資家の資金流動性リスクの軽減につながるとのことだ。

なおこの案件は満額成立したことが昨年12月22日に発表されている。

【国内事例3】SBI e-SportsによるSBIホールディングスを引受先としたSTO

また昨年10月にはSBI e-Sports株式会社はSBIホールディングス株式会社を引受先としたSTOによる第三者割当増資により、5千万円の資金調達を実施したことを発表した。なおSTOによる第三者割当増資は国内初の事例とされている。

STOの今後と課題

このように日本国内でもSTOの事例がいくつか生まれてきているが、もちろん課題もある。

その課題としては「仕組みのプラットフォーム化」「オープン化・グローバル化」「2次流通」などが挙げられる。

現状のSTOは証券がデジタル化したのみで、STOにおける資金調達の独自性を発揮するための二次流通市場が未だ無く、既存の商品との違いが少ない。またSTOの仕組みの問題だけでなく、投資家が資金を投じたくなるような魅力ある商品が出てくることも求められるだろう。投資家の認知度はまだ低い状況だ。

そんな中1月29日にSBIホールディングス株式会社と株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が株式とセキュリティトークンを取り扱うPTS(私設取引システム)の運営を目指す「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)」を2021年3月に共同で設立すること発表した。2022年春を目処にまずは株式を取り扱い、その後セキュリティトークンの取り扱いを開始する予定とのことだ。

以下追記
(4月1日にSBIホールディングス株式会社と株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)」を共同で設立したことを発表した。)

これが実現すれば、STOにとって大きな機会創出につながるだろう。

セキュリティートークンは、現在の規制にそって管理できるため、ビットコインのような暗号資産と比べれある意味で派手さはないものの、その分金融のデジタル化、DXを進める上では大きなキーファクターになる可能性を秘めている。今後の各社の動きには注目だ。

【参考URL】
・ BUSINESS LAWYERS:2020年5月1日施行 改正金商法上のセキュリティトークンとは

・デロイトトーマツ:2020年注目の「STO」。新たな資金調達手段として確立するか

・Consensus Base:セキュリティトークンで何が可能となるのか?

・一般社団法人日本セキュリティトークン協会:STの定義とJSTAのガバレッジ

(images:iStocks/marchello74)

この記事の著者・インタビューイ

大津賀新也

あたらしい経済編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

あたらしい経済編集部
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ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。