イタリア中銀、ステーブルコイン「USDC」の送金効率を実取引で検証=レポート

コスト優位は「ルート次第」

イタリア銀行(バンカ・ディタリア)が、ステーブルコインを使った国際送金の実態を検証したレポート「Are Stablecoins Efficient for Remittances? Evidence from a Mystery Shopping Exercise」を7月30日に公表した。

レポートによれば、研究者が一般利用者として200USDCを実際に送金し、イタリアとアルゼンチン、ブラジル、南アフリカ、アラブ首長国連邦(UAE)、日本を結ぶ10ルートで、コストと所要時間を調べた。

ただし、イタリア発UAE行きでは銀行口座への出金を完了できず、出金費用と所要時間は取引所の資料から推計された。また、イタリア発日本行きも現地通貨への換金と銀行口座への出金を完了しておらず、10ルートすべてが完全なエンド・ツー・エンド取引ではない。

また、今回の調査は、著者らが知る限り、主要中央銀行が複数の国際送金ルートを対象に実施した、初の実証的な覆面調査になるという。

調査の結果、総コストは送金額の0.30%から約9%まで大きく分散した。ステーブルコイン送金には、従来の国際送金に対する一貫したコスト優位は確認できなかった。

国連の持続可能な開発目標(SDG10.c)は、2030年までに送金コストを平均3%未満に引き下げ、5%を超える送金ルートをなくすことを目標としている。また世界銀行の2025年第3四半期データでは、200ドル送金の世界平均コストは6.4%だった。

調査では送金を、入金、USDC購入、ブロックチェーン送金、現地通貨への売却、銀行口座への出金の5段階に分解した。

日本を除く8ルートではイーサリアムを利用し、オンチェーン送金の平均コストは送金額の約0.4%だった。イタリア発日本行きではソラナ(Solana)が利用されたが、同ルートは現地通貨への換金と銀行口座への出金を完了しておらず、他のルートとは直接比較できない。

総コストを大きく左右したのは、法定通貨と暗号資産を交換するオンランプとオフランプだった。

UAEからイタリアへの送金では、銀行振込も入金手段として用意されていたが、調査担当者が当時利用可能な銀行口座を持っていなかったため、実際に利用できたのはクレジットカードだった。カード利用には3.8%の追加手数料が発生し、入金とUSDC購入だけで6.17%かかり、総コストは8.95%となった。

一方、イタリアからアルゼンチンへの送金は0.30%と最も低かった。ただし、公式為替レートと暗号資産市場の実勢レートの差がコストを押し下げており、技術そのものの効率性だけを示す数値ではないとレポートは指摘している。

また、所要時間もルートによって異なる結果となった。

ブラジルのPIX、アルゼンチンのTransferencias 3.0、イタリアで利用されるユーロシステムの即時決済基盤TIPSなどを通じ、法定通貨側の入金と出金を即時に処理できたルートでは20分未満で完了した。

一方で、通常の銀行振込に依存する南アフリカのルートでは1〜2営業日を要した。

レポートは、オンチェーン送金よりも各国の国内決済インフラが、着金速度を左右していると分析している。

レポートは、世界銀行の「Remittance Prices Worldwide」における2025年第1四半期の送金元国別平均や、送金サービスのワイズ(Wise)の試算とも比較した。世界銀行との比較では、ブラジル、南アフリカ、イタリア発のステーブルコイン送金が送金元国別平均を下回った一方、UAE発は上回った。

ただし、世界銀行の数値は各送金元国から複数の送金先へ送る場合の平均で、ステーブルコインの数値は特定の対イタリアルートを基にしているため、厳密な同条件比較ではない。

ワイズと比較可能だった7ルートでは、ステーブルコイン送金が安かったのは3ルート、高かったのは4ルートだった。なお、南アフリカ発イタリア行きはワイズで利用できず、アルゼンチン発についても実際の提供状況には留保がある。

また、ステーブルコインの送金とワイズの試算は異なる日に実施されており、市場環境の違いが結果に影響した可能性もある。

レポートは、ステーブルコインの効率性は送金ルート、取引所、入出金手段によって大きく異なると結論づけた。

なおレポートは、対象国が限られ、検証対象もUSDCのみであるほか、主要8ルートの取引時にはイーサリアムの混雑が低水準だったため、結果をステーブルコイン送金全般へ容易に一般化できないとしている。

また、レポート掲載の見解は著者らのものであり、必ずしもイタリア銀行の公式見解を示すものではないと注記されている。

日本は規制・サービス制約が障壁に

調査時点の日本では、個人向けに米ドル連動型ステーブルコインを扱う国内登録業者が1社に限られ、同事業者から海外取引所への直接送付も認められていなかった。

このため調査では、自己管理型ウォレットを経由する必要があった。

日本発イタリア行きの総コストは1.6%と比較的低かったが、厳しい取引上限により送金を複数回に分割する必要があり、エンド・ツー・エンドの所要時間を有意に計測できず、通常の小口利用には適さない結果となった。

また、イタリア発日本行きではソラナを利用し、総コストは1.3%、うちオンチェーン送金は0.15%だった。ただし、現地通貨への換金と銀行口座への出金を完了していないため、他のルートとは直接比較できない。

またレポートは、過度に制約的な規制要件が、利用者を海外事業者や分散型金融(DeFi)に向かわせる可能性にも言及している。

さらにレポートでは、各国の規制枠組みを整理するなかで、中国やエジプトなどの禁止的な規制についても分析された。

既存研究を踏まえ、暗号資産の需要を完全には抑えられず、非公式なP2P取引や国外プラットフォームの利用を増やし、マネーロンダリング対策上のリスクを高める可能性があるとした。

また業界側の参考情報として、ボーダレス(Borderless.xyz)は2026年第2四半期に、108カ国・59通貨を対象とする260のステーブルコイン受渡ルートを追跡した。57通貨について同日インターバンクレートと比較した受渡価格差「パリティ・ギャップ(Parity Gap)」の中央値はマイナス3.2bpとなり、わずかにインターバンクレートを下回った。

ただし、これは総送金コストそのものを示す指標ではない。また、同社の分析は事業者の提示レートや手数料データを基にしたもので、200USDCを実際に個人間送金した今回の調査とは条件が異なる。

イタリア銀行のファビオ・パネッタ(Fabio Panetta)総裁は5月の講演で、ステーブルコインの効率性を巡る証拠はなお決定的ではなく、同行の予備分析でも一貫したコスト優位は確認されなかったと説明。その一方、健全な規制が整備された環境では、特定の送金ルートで役割を果たすとの見方を示していた。

今回の調査も、ステーブルコイン自体より、法定通貨との交換手段や国内決済インフラが送金効率を左右することを示している。

参考:発表
画像:iStocks/PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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