銀行業界との攻防続く
米上院銀行委員会のティム・スコット(Tim Scott)委員長が、暗号資産(仮想通貨)市場構造法案「クラリティ法案(CLARITY Act)」の最新代替修正テキスト(309ページ)を5月12日に公開した。同委員会は5月14日(木)午前10時30分(米東部時間)に同法案のマークアップ(委員会採決)を予定している。
今回公開された文書は、スコット委員長、シンシア・ルミス上院議員(Cynthia Lummis)、トム・ティリス(Thom Tillis)上院議員が連名で提出した代替修正案だ。
今回のテキスト公開は、長期にわたった大きな懸案の一つが整理されたことを受けたものだ。
「パンチボウル・ニュース」は5月1日、ティリス上院議員とアンジェラ・アルソブルックス(Angela Alsobrooks)上院議員の主導による妥協案の合意を報じた。新たな文言の核心は、暗号資産企業がステーブルコインに関して「銀行預金の利息または利回りと経済的または機能的に同等」とみなされる支払いを広く禁止する一方で、「正当な活動・取引」に連動した報酬については引き続き認めるという整理だ。
このニュースを受け、米暗号資産取引所コインベース(Coinbase)CEOのブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏はXに「Mark it up(審議せよ)」と投稿し、この法案への支持を改めて明示した。これを受けて予測市場ポリマーケット(Polymarket)での2026年中の成立確率は46%から64%へと跳ね上がった。
アームストロング氏は今年1月、ステーブルコイン利回りへの対応や分散型金融(DeFi)関連の規定を巡る不満から、マークアップ直前に公式の支持を撤回していた。これを受け、マークアップは延期となった経緯がある。ちなみにコインベースにとってステーブルコイン関連の収益は2025年通年で13億5,000万ドル(約2128億円)に上っている。
一方で、妥協案成立後も反発は続いた。5月6日、暗号資産政策関連のジャーナリストであるエレノア・テネット(Eleanor Terrett)氏は、一部の銀行業界団体がこの妥協案に強く反発していると報じた。米銀行業界団体のバンク・ポリシー・インスティテュート(Bank Policy Institute)、アメリカ銀行協会(American Bankers Association)、消費者銀行協会(Consumer Bankers Association)、金融サービス・フォーラム(Financial Services Forum)、独立系コミュニティ銀行協会(Independent Community Bankers of America:ICBA)などは「今回の文言では暗号資産企業による実質的な利回り提供を十分に防げない」との立場を表明した。
さらにマークアップを数日後に控えた5月10日、アメリカ銀行協会のCEOであるロブ・ニコルズ(Rob Nichols)氏は加盟行の幹部宛てに書簡を送付し、「皆様の即時の関与を必要とする緊急のロビー活動」に直面していると警告。各行のCEOに対し、担当上院議員への直接連絡を促した。ニコルズ氏は書簡の中で、現行の法案テキストは暗号資産企業がステーブルコインに「利息のような報酬」を提供することを阻止するには不十分だと主張した。
これに対し、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)やBNYなど一部の大手金融機関は比較的受け入れる姿勢を示した。これらの金融機関は、クラリティ法によって暗号資産取引やレンディングへのアクセス拡大が期待できる点を重視しているとされる。銀行業界内でも大手と地方・コミュニティバンク系との間で評価が分かれた格好だ。
今回公開された309ページのテキストは全9タイトルで構成されている。主な内容は以下のとおりだ。
まず、「ネットワークトークンの証券該当性」では、一定条件を満たすネットワークトークンを連邦証券法上「非証券」として扱い、発行者はSECへの認証手続きを通じてその地位を確認できる。認証書を提出して60日間SECから異議が出なければ、自動的に有効となる。
次に「ステーブルコインへの利息・利回りの禁止(第404条)」では、デジタル資産サービスプロバイダーが米国ユーザーに対し、ステーブルコイン残高に基づいて「銀行預金と経済的に同等」な対価を支払うことを禁止する。ただし、取引・送金・ステーキング・ガバナンス参加など「正当な活動」に連動した報酬は認められる。米証券取引委員会(SEC)・米証券取引委員会(CFTC)・財務長官は1年以内に認められる活動の一覧を規則として定めることが求められる。
「銀行・金融機関によるデジタル資産業務の許可」では、国法銀行や金融持株会社などが、カストディ・ローン担保・マーケットメイクなどのデジタル資産業務を行うことを明示的に認める。
「DeFiプロトコルとソフトウェア開発者の保護」では、真に分散したプロトコルの開発者・検証者・ノード運営者は証券法の規制対象外とすることを明確化。セルフカストディウォレットの権利も保護される。
「NFTのセーフハーバー」では、個別性の高い非代替性トークン(NFT)は、投資契約の要素をすべて備えない限り証券とはみなされない。
「マネーロンダリング対策の強化」では、暗号資産ATM(キオスク)や一部のDeFi関連サービスへのAML/CFT規制を拡大。新規顧客の24時間取引上限を3,500ドルに設定し、取引から72時間の保留期間を義務づける。
なお、今回のテキストには民主党が要求していたドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領らの暗号資産投資に関する利益相反条項(倫理条項)は含まれていない。これが委員会採決で民主党票を取り込めるかどうかの焦点の一つとなっている。
この法案は2025年7月に下院を294対134の賛成多数で通過していた。その後、上院銀行委員会と上院農業委員会がそれぞれ独自の草案を策定してきた経緯がある。今回のテキストが5月14日のマークアップを通過すれば、次は上院農業委員会版との調整・統合作業に移行し、さらに全上院の採決、下院版との整合という段階を踏むことになる。
ホワイトハウスは建国250周年にあたる7月4日を成立・大統領署名に向けた目標時期としている。財務長官のスコット・ベッセント(Scott Bessent)氏、SECのポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長、ホワイトハウスの暗号資産顧問パトリック・ウィット(Patrick Witt)氏がいずれも積極支持を表明しており、行政府の協調態勢としては異例の結束とされる。
ポリマーケットでの成立確率は前述の通りだが、リップルのブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏は「今後2週間で動かなければ確率は急落する」と述べており、5月14日の採決が事実上のヤマ場となると見られる。
この法案の根底にある問題意識は、SECとCFTCの管轄が曖昧なまま「執行による規制」が続いてきた現状の打破にある。デジタルコモディティはCFTCの管轄、投資契約的な要素を持つトークンはSECの管轄と明確に線引きすることで、米国内での暗号資産事業の制度的な基盤を整備することが狙いだ。
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— Brian Armstrong (@brian_armstrong) May 1, 2026
参考:最新代替修正テキスト・ABA CEOの書簡
画像:PIXTA