日銀とECBが分散台帳技術に関する最新の調査報告書を公表

日銀とECBが分散台帳技術に関する最新の調査報告書を公表

日本銀行と欧州中央銀行が、分散型台帳技術に関する共同調査プロジェクト「プロジェクト・ステラ」の第4フェーズの調査結果を、報告書「分散型台帳環境における取引情報の秘匿とその管理の両立」(原題:Balancing confidentiality and auditability in a distributed ledger environment)として2月12日に公表した。

「プロジェクト・ステラ」は、概念整理と実機検証を通して、DLTが金融市場インフラに対してもたらしうる潜在的な利点や課題を洗い出し、議論を促進することを目的としている。同プロジェクトの研究成果として、これまでフェーズ1(DLTを用いた大口資金決済、2017年9月)、フェーズ2(DLT環境における資金と証券のDVP決済、2018年3月)フェーズ3(DLT関連技術を用いることでクロスボーダー送金の安全性等を改善しうるかの検証、2019年6月)を公表している。

フェーズ4では、分散型台帳環境において、いかにして取引情報の秘匿化と確認可能性を両立するかという問題に取り組まれている。そして取引情報の秘匿化と確認可能性を両立のため、概念整理と実機検証を通して、DLTに基づく金融市場インフラの取引を「プライバシ強化技術 privacy-enhancing technologies/techniques (PET)」で秘匿化する方法とその確認可能性を確保する仕組みについて調査されている。

結果としてフェーズ4では、PETの基本的な特徴を説明し、秘匿化された取引が実効的に確認可能かを評価するための観点が提案された。これらは取引情報の秘匿化に用いるPETを選択したり、取引確認プロセスを考案したりする際の出発点として参照できるとした。

取引情報を秘匿化する手法のアプローチの違いに基づき、PETを「共有先制御型PET」「非可読化型PET」「関係性隠匿型PET」の3分類に整理がされた。

そして各PETによって秘匿化された取引情報の確認可能性を評価するために「必要情報の取得の確実性」「取得情報の信頼性」「取引確認プロセスの効率性」の3観点が提案されている。

以上の提案から同報告書では、確認者が必要情報を参加者から取得し、取引情報を確認するプロセスが3つの観点をいずれも満たすよう行われれば、実効的な取引確認が可能になると結論づけられた。

ネットワーク上に必要情報を集中的に保管している、信用できる主体が存在する場合には、当該主体から情報提供を受けることが想定される。こうすることで、参加者からの協力がなくとも3観点を満たすことが可能になり、実効的な取引確認を実現しやすくなるという。ただし、そうした主体は、ネットワークに単一障害点リスクをもたらしうるとの課題も説明した。

編集部のコメント

PETは、プライバシを確保するために取引当事者ではない第三者の取引情報へのアクセスを制限する等の技術です。DLTネットワークにおける取引では、参加主体が各自のDLTノードを運用し、これを通して取引情報を共有します。そのためプライバシの確保が課題となったため、同技術は登場しました。また、これと同時にDLTに基づく決済システムを信頼されるかたちで運営するためには、取引の事後確認を行う第三者(確認者)を置くなどの仕組みが必要になります。しかし、PETを用いて取引情報が秘匿化されると、確認者による取引確認が難しくなります。このためフェーズ4では、秘匿化と確認可能性の両立を調査したということです。

なお各PETについて説明しておきます。
「共有先制御型PET」は、各参加者がネットワーク上の全取引の一部にしかアクセスできないようにする手法です。Corda、Hyperledger Fabricやペイメントチャネルが例として挙がっています。
「非可読化型PET」は、暗号化技術を用いることで、第三者が取引情報を解釈できないようにする手法です。 Quorum、ゼロ知識証明、暗号化の要素技術の1つであるPedersen commitmentが例として挙がっています。
「関係性隠匿型PET」は、台帳に記録された送金者・受領者情報から、第三者が取引当事者を特定することを困難にする手法です。こちらではワンタイムアドレス、ミキシング、リング署名の技術が例として挙がっています。


コメント:大津賀 新也(あたらしい経済)

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あたらしい経済 編集部

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