なぜ大手クリプトファンドは「Open Finance」と「Web3」に賭けるのか

はじめに

パブリックブロックチェーンがもたらしたエコシステムの中でも、「Open Finance(又はDeFi)」と「Web3.0」と称される2つのムーブメントが大きな注目を集めています。

Open Finance及びDeFi(Decentralized Finance)とは、主にEthereumブロックチェーンを取り巻く金融エコシステムの総称で、透明性やパーミッションレスなどの特徴をもつ新しい金融のあり方です。

一方でWeb3.0とは、Web1.0や2.0に続く、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)の次の形を表す概念で、データを個人のもとに取り戻し、より分散的に管理することを志向しています。

Web3のプロジェクトの多くはこれまでICOで巨額の資金を調達し、Open Financeのスマートコントラクトには計4500万ドル(約500億円分)以上がデポジットされるなど、注目に値する動きを見せています。

そして時に、これらのムーブメントは現在の既得権益(GAFAや金融機関)を凌ぎ、代替するとさえ言われています。

しかし、これまで多くの技術者・起業家を虜にしてきたこれらの概念は、本当に信じて良いものなのでしょうか。過去から長い時間をかけてGAFAや既存の銀行や証券会社が構築してきたエコシステムに対抗し、パラダイムシフトを起こすことは本当に可能なのでしょうか。

この疑問を解消するために最も有効な方法は、これらの最新のムーブメントに誰よりも精通する、VC(ベンチャーキャピタル)やヘッジファンドの見解・投資動向に着目することだと考えています。

彼らの投資理論や投資状況を学び・観察することで、数年先のクリプト市場の景色をより鮮明に見通すことができるかもしれません。

著名クリプトファンドがdefiとweb3に賭ける理由

ここからは、世界の著名なクリプトファンドの事例を紹介しながら、彼らがなぜdefiとweb3にかけるのか、その理由を紐解いていきたいと思います。

Multicoincapital

Multicoin Capitalは、2017年に設立されたクリプトファンドで、数ある中でも好成績を収めています。

同ファンドの代表が先日公開したブログポストには、上述した疑問に対するアンサーが書かれていると感じました。以下にその要約した翻訳を掲載します。

Open Finance

Open Financeの鍵となるイノベーションは、金融取引を実行する様々なスマートコントラクトをモジュール化した点です。

これまで数々の金融プロトコルがデプロイされましたが、その全てがモジュラーであり、より上位のアプリケーションによって利用されており、プロトコル自体はエンドユーザーに使われることがありません。

(※モジュールとは、ソフトウエアを構成する部分のうち、独立性が高く、追加や交換が容易にできるように設計された部品を表す専門用語です。モジュラーはその組み合わせ・連結を表します)

例えば、BritzPredict(BP)Augur0xという2つのプロトコルを利用した分散型予測市場アプリケーションです。Augurには市場の作成・利益分配・約定を、0xには決済部分を依存しています。またMakerDAOのDaiはトレードに利用されるトークンの大半を占めています。

これらのプロトコルはモジュールと定義することができ、それ自体で独立しています。BPはそれらを組み合わせ、アプリケーションインターフェイスだけを用意し、これまでにない、信頼を最小限にしたユーザー体験を提供することができています。

以下の図式は、Maker, 0x, Augurをモジュールとし作られたアプリケーションの例です。

出典:https://multicoin.capital/2019/04/24/multicoin-investment-thesis/

このブレイクスルーは凄まじいものです。グローバルにパーミッションレスで、かつカウンターパーティーリスクのない様々なコントラクトを基盤とした今までにない金融システムです。

グローバル金融市場のインフラは、じきに数百万のビジネススタックを搭載するOpen Financeへと変貌します。そして国際・ローカルなどのスケールに問わず、トラストレスな金融プロダクトを人々に届けます。

Web3

Open Financeが金融サービスをモジュール化することを前提にしているのと同様に、Web3はデータの所有権とアプリケーションロジックを分離することを前提にしています。

既存のWeb2アプリケーションにおいては、ユーザーは自身のデータとアプリケーションロジックをサービス運営者にまとめて依存していました。しかし、これを分割し、データを個人に取り戻させることで、ユーザーはサービス運営者を信頼する必要がなくなります。

つまり、Web3とはデータ所有・コントロールに関する自己主権化です。Web2とWeb3の違いを具体的に述べるのであれば、Web2では会社がユーザーのデータをクローズドに保存していた(技術的・法的にも)のに対し、Web3ではユーザーがIpfsや暗号署名付きのスマートコントラクトを利用し、オープンなネットワークのなかで、暗号化された自身のデータを所有することができます。

以上のMulticoin Capital代表のコメントから、Multicoin Capitalは上記2つの領域に対し非常に肯定的で、確信に近い展望を描いていることが分かります。

個人的に、Open Financeは透明性やパーミッションレスという特徴が注目されがちですが、モジュール化という観点を最も強調しているのは斬新だと感じました。

そして今後ビッグデータ化が進み、ますますデータセキュリティのリスクや、人々のデータ・プライバシーに対する危機感が高まることを想定すると、Web3というのは不可欠なアプローチであると感じさせられます。

Portfolio

出典:https://multicoin.capital/portfolio/

上記の図はMulticoinCapitalのポートフォリオです。分散型予測市場「Augur」や分散型ID&クレジットスコアリング「Springs Lab」、決済プラットホーム「Bakkt」などのファイナンス系プロジェクトや、「Tari」や「Livepeer」などのWeb3系プロジェクトに対し投資を行なっており、上述のブログポストで述べた仮説の実証を試みていることがわかります。

またそれだけでなく、Layer1ブロックチェーン(DfinitySolana), スケーリング技術(SKALEKadena)、プライバシー技術(MobileCoinKeep)など、基盤となるプロトコル分野にまで幅広く投資を行なっています。

→各プロジェクトの一覧・詳細はこちら

その他VC・ファンドの見解・アプローチ

ここからは、著名VCであるPolychain CapitalとFabric Venturesを参考に、Open FinanceとWeb3の未来像を考察していきます。

Polychain Capital

Polychain Capitalはサンフランシスコに拠点を置く、クリプト特化のVCで、Andreessen Horowitz、Union Square Venturesなどの著名VCから出資を受けて事業を展開しています。

創業した2016年からこれまで30件以上の投資を行っており、業界でも比較的存在感のあるVCとなっています。

以下はPolychainのポートフォリオです。分かりやすくOpen FinanceとWeb3、それ以外で分類してあります。

出典:https://www.crunchbase.com/organization/polychain-capital

上記のポートフォリオで注目すべき点は、特にOpen Financeの領域で、現在最も注目されるMakerDAOを筆頭に、分散型レンディング及びステーブルコインのエコシステムに対し積極的に投資を実行しているという点です。

顕著な例はBloqboardへの投資です。BloqboardはMakerCompoundDharmaという3つのレンディングプロトコルを1つのインターフェイスの中に集約したアプリケーションです。

これはまさに上述したモジュールとしてのプロトコルとそれらを組み合わせるアプリケーションの関係性ですが、Polychainは以上4つ全てに投資を実行しています。

つまりPolychainはOpen Financeの各プロジェクトは単独で成長するようなものでなく、相乗効果を持ち成長していくという点を踏まえ投資を実行しているということです。

これは実際に立証されていることで、ここ1年でDAIが急速に流通し始めると同時にCompoundやDharmaのUXは劇的に向上し、流動性を増加させることができています。

→各プロジェクトの一覧・詳細はこちら

●Fabric Ventures

Fabric Venturesはロンドンに拠点をおく、クリプト特化のVCです。創業した2017年から、Web3領域をメインに19件の投資を行なってきています。

以下はHPの画像ですが、しっかりと「私たちは人間中心主義コンピューティングへのシフトを後押しするWeb3.0に投資する」と理念を示しています。

出典:https://www.fabric.vc/

以下の画像はFabric Venturesのポートフォリオです。何をWeb3プロジェクトと定義するのかは難しいのですが、「自己主権型のデータ活用」という理念に直接的に結びつくプロジェクトをWeb3に分類しました。

こうしてみると、Fabric VenturesがどれほどWeb3に大きな期待を寄せているかが一目瞭然です。Web3 Foundationのプロジェクト「Polkadot」や、個人のデータを個人に帰属するdapps開発プラットホーム「Blockstack」などは、Web3の概念を具現化したような代表的プロジェクトです。

出典:https://www.crunchbase.com/organization/fabric-ventures

そして、Fabric Venturesはその独自の投資理論に関する非常に興味深いブログポストを公開しています。なぜブロックチェーン及びWeb3へのパラダイムシフトが起こるのか?ということに対し、テクノロジーの歴史を遡りつつ解説しています。興味のある方はぜひ一読することをお勧めします。

→各プロジェクトの一覧・詳細はこちら

さいごに

もちろん、いくら著名なVCと言えど、その理論と投資動向がクリプトの未来を全て決定するとは限りません。

ですが、VCというのは単にお金を出すことが仕事ではなく、様々な学問的知見を備え、業界を広く見渡し、誰よりもプロジェクトに対し調査・研究を実施し、リスクテイクを行う数少ない主体です。

したがって、彼らが示す理論や投資動向に一見の価値があることは明らかであり、本記事はその点を考慮して執筆しました。

 

 

この記事の著者・インタビューイ

渡邊草太

99年生まれ(20歳)、法政大学(休学中)と放送大学に在籍中。現在は主にクリプト業界のリサーチャーとして活動。The BridgeやLonghashでリサーチ記事の執筆を行う。2019年後半は東南アジア・インドにて活動。インターン歴: Omisego Neutrino, Consensus Base, Longhash。過去の寄稿先クリプトメディア・オンラインサロン:d10n Lab, Stir lab, Token Lab。

99年生まれ(20歳)、法政大学(休学中)と放送大学に在籍中。現在は主にクリプト業界のリサーチャーとして活動。The BridgeやLonghashでリサーチ記事の執筆を行う。2019年後半は東南アジア・インドにて活動。インターン歴: Omisego Neutrino, Consensus Base, Longhash。過去の寄稿先クリプトメディア・オンラインサロン:d10n Lab, Stir lab, Token Lab。

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