日本のweb3の未来のために今から何をすべき?(神田潤一 / 近藤秀和 / 柏木崇志 / 稲葉大明 / 設楽悠介)

有識者/プレイヤーが集った「Japan Open Chain」イベント

国内の大手企業らがバリデータに参加し共同運営する、国産ブロックチェーン「Japan Open Chain」。このチェーンのコンソーシアム管理会社である日本ブロックチェーン基盤が主催したクローズドイベントが先日開催された。イベントには「Japan Open Chain」バリデータ企業に加え、多くの国内企業のweb3担当者や有識者が集った。

そしてイベント内のトークセッションには、自民党の衆議院議員 神田潤一氏、日本ブロックチェーン基盤 代表取締役 近藤秀和氏、Kudasai 代表取締役 柏木崇志氏、G.U.Technologies 共同代表の稲葉大明氏、幻冬舎 あたらしい経済編集長 設楽悠介が登壇。これからのweb3業界の展望について語り合った。この記事ではそのトークセッションの様子をお届けする。

トークセッション「web3業界の今後の展望」

稲葉:まず設楽さんにメディアの立場から、これからweb3がどうなっていくか、どうなって欲しいかなど、この先を占ったお話をお伺いしたいです。

設楽:ここ2年ぐらい、暗号資産(仮想通貨)市場は冬相場でしたが、日本では自民党web3PTさんの取り組みなどもあり、「日本のweb3は盛り上がっている」という雰囲気を作ることがでいた時期だったと思います。私にも「今盛り上がっている日本に進出したい」と海外プロジェクトからの問い合わせも増えました。

でも実際、現状を冷静にみると、例えば暗号資産の時価総額ランキングのベスト100に、ほとんど日本関連のプロジェクトは入っていないわけです。また海外のメディアが日本のプロジェクトを紹介していることも少ない。もちろん日本のプレイヤーも頑張ってはるんですが、やはりここ1、2年で海外が注目してきたほどの結果はまだ出ていないわけです。

だからこれからの1年は、日本にとって本当に勝負になると思っています。国内の法整備などのも整いつつあり、さらに市場が回復した今、どれだけ日本のプロジェクトが世界に出ていけるか。逆にここで結果を出せないと、冬の時期に向けられていた日本への注目は、そのうちどこかに消えてしまうと思うんですよね。

柏木:僕も日々クリプトを触っているユーザー、そして事業者側としても、この1、2年が本当に勝負だと思います。ただ日本がグローバルで立場を確立するには、現状のままではちょっと苦しいとも考えています。

いきなり日本のプロダクトを海外へ持っていって勝負するよりは、まず国内でしっかり足場を固め、マスアダプションを進めることも大事です。

ブロックチェーンゲームの領域でも、ブロックチェーンが裏側で動いていて、ただプレイした感覚は普通のゲームと区別がつかないようなプロダクトが今流行っています。例えばGoogleアカウントなど登録すると、裏側にweb3ウォレットが作成されるような。

一般のユーザーに、あえてブロックチェーンを感じさせない体験を提供することが、マスアダプションに重要です。ゲームだけではなく、ブロックチェーンを使ったあらゆるプロダクトにとってもです。web3のUI/UXを充実させていき、どんどん新しいユーザーを増やしていかなければいけない。

そのためには現在のWeb3系の企業だけではなく、例えば国内で「Japan Open Chain」のバリデータに参加しているようなノウハウのある企業の力が必要です。それらの企業さんはこれまでのビジネス知見や技術力も持っていますよね。そういう意味でも「Japan Open Chain」の今後の取り組みに期待しています。

稲葉:ありがとうございます、がんばります。つづいて神田先生には、政治の側面からこの1年をどう捉えているか、そして民間の企業にどんな期待をされるかお伺いしたいです。

神田:私が2021年10月に衆議院議員になって、すぐに平井卓也先生と平将明先生から「NFTのプロジェクトチームを作るから入って」と声をかけていただきました。

そこから物凄い勢いでプロジェクトチームの会合が何度も実施され、2022年3月に「NFTホワイトペーパー」 を公開しました。その英語版も出し、おかげさまで海外からもご評価いただけました。

そこから法人のトークンの期末課税の問題の解決や、ステーブルコインの法制化、また2年目のホワイトペーパーの公開など、次々に進めてきました。そして昨年後半から今年にかけては、積極的にDAO(自律分散型組織)に関する法制化も進めています。

このように政府が一生懸命に動いている流れの中で、ぜひとも皆さんには、どんどんweb3のユースケースを作っていってほしいです。例えばDAOの活用に意義があることが世の中に伝わっていけば、暗号資産はマネーゲームだけではない、社会にも役立つものだという意見がもっと生まれてくるはず。そのような反応を今年はもっと広げていきたいと思っています。

設楽:今のDAOの話、すごく興味あるんですけれども、DAOで今現実的にお金が集まっているのが、ほとんどDeFi(分散型金融)プロジェクトだと思うんです。DAO法制化とDeFiは繋がってくると思うんですが、神田先生はその辺りどう捉えていますか?

神田:DeFiは、まだちょっと難しいんですよね。今の金融の制度をガラっと変えていく必要があるので。既存の金融システムとDeFiをどうに位置付けるのかは、まだ整理し切れていないと思います。

ただ、これからDAOを進めていくにあたって、どうしてもDeFiをちゃんと法制化してくれないとDAOが伸びていけないという現実がはっきりと見えてきたら、動いていく方向になると思います。

まずこれまでのようにweb3領域の様々なものを同時並行で動かし、動きの悪いところを次に手をつけていく。例えば「DAOを法制化したのはいいけれど、DeFiにもちゃんと対応しなければ本当にやりにくい」というような声、具体的な提案をいただくことが重要です。

稲葉:ちなみに日本のように政権与党からweb3に関するホワイトペーパーが出ている国は、他にあるんでしょうか?

神田:少なくともこのスピード感では、他国では無いと思います。僕自身、以前暗号資産取引所を作ろうとしていた経験もあります。また法律関係の議員もプロジェクトに入ってきていますし、これだけ議員にweb3業界のことをよく分かっていて、そんな議員らが先頭に立って引っ張っている国は、たぶん無いでしょう。

そして繰り返しますが、やっぱりこれからユースケースが沢山生まれ、どんどんやるべきという雰囲気が盛り上がってくると、もっと日本のweb3関連の政策はスピードが上がってくるはずです。

稲葉:ありがとうございます。近藤さんはいかがですか?

近藤:今の皆さんのお話、非常に共感するところがありました。私たちも創業当時、ブロックチェーンを作るにあたって責任の所在、つまり誰が責任を持つのかということが今後課題になると考えていました。DAOの思想も素晴らしいんですが、国それぞれに法律があり、それを無視するわけにはいきません。

だからこそ日本の法制の上で扱いやすいブロックチェーンを作れないだろうか。そう考えてまずは日本企業のみが運営する「Japan Open Chain」を立ち上げたわけです。

あと、神田先生、もう一点だけよろしいでしょうか。暗号資産に関する分離課税についてお聞きしたいです。これは本当にこの業界の願いだと思うんですけれども、いかがでしょうか?

神田:はい、その話にもなるかと思って、覚悟はしてきました。それを進めるにもやはりユースケース、使われ方が大切だと思っています。

今、私たちも一生懸命動いていますが、他の議員には「やっぱり暗号資産って危ないんじゃないの?」や「マネーゲームでしょう?」と思っている人が、まだまだ沢山いるんです。

その考えを払拭できるようなプロジェクトを日本からもっと生んで、議論が進む雰囲気を作っていきたいですね。そんな雰囲気が広がれば、議論がもっと進むはずです。それと並行して、分離課税にしたらもっと日本の市場が伸びるという議論も必要かもしれません。その両方を進めて行かなければいけないと思っています。

近藤:ありがとうございます。でもいっそうのこと、ここで一気に暗号資産から出た利益の税率をゼロにしてしまうっていうの、いかがでしょうか(笑)?

設楽:いいですね。近藤さんおっしゃるとおり、FXも分離課税にして、今やグローバルで日本が一番の取引高があるわけですよね。クリプトもそうなれば伸びると思います。

近藤:上場株式だって、税率が高い時期がありましたもんね。その意味でもマーケット自体をまず育てて、あとから刈り取るっていう発想もしていただきたいと思っています。

神田:はい、今後の議論の参考にします。

そういう考え方があるのは私たちも分かっていますから、うまくタイミングを見て、あるいはうまく風を読みながら、そういう議論ができるときに大きく動かしていきたいですね。

柏木:税の改正については、僕個人としても、とても期待しています。

また今年、米国でビットコインの現物ETFが承認されたことは、大袈裟に言えば米国国民の全員がビットコイン投資していく状況になるとも言えなくはないですよね。そんな中、日本が置き去りにされるわけにはいかない。

また今話題になっているRWA(現実資産)、現実の資産をブロックチェーン上に持ってこようとするマーケットもある。RWAの市場規模は、去年は20兆円ぐらいでしたが、2030年には1500兆円ぐらいに成長するとも予測されています。

そのようなとんでもない爆発力を秘めた市場が、まだまだweb3上にはあります。

だからこういったweb3の可能性を、政府のほうからももっと見ていただけたら嬉しいです。そうすれば僕たちも、明るい未来をより想像できるんじゃないかなと思います。

設楽:あと日本では、ここまで話題に出なかったステーブルコインも大きなテーマになってくると思います。「Japan Open Chain」さんでもそのような取り組み準備されていますよね。そう考えると色々と出揃ってきましたね。

神田:みなさん、色々ご意見ありがとうございます。

これまでフィンテック領域は、お堅いと思われていた金融庁や金融機関と、民間のスタートアップの人たちが、一緒に同じ方向を向き、それぞれの強みを持ち寄って業界全体の制度作りをしてきました。それを私は素晴らしいと思っています。そしてその伝統が、今、web3/クリプトの世界に脈々と受け継がれています。

だから政治家や役人が遠い存在だと思わずに、どんどん飛び込んできて「自分たちは、こんな凄いことをやろうとしているから支援してほしい」、「事業を進める上でこんな困り事があるんです」というような発信をしていただきたいと思っています。

皆さんの発信が強ければ強いほど、私たちも頑張っていけますんで、ぜひともみんなで盛り上がって、みんなでweb3の明るい未来を作っていきたいです。

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取材日:2024/1/25
編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:大津賀新也(あたらしい経済)

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あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。

これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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