既存の金融システムと仮想通貨はどのように新しい金融を作るのか?マネーフォワードフィナンシャル神田潤一の挑戦(後編)

マネーフォワードフィナンシャルの神田潤一氏のインタビュー前編23年勤めた日銀からフィンテック・仮想通貨業界へ転身した理由。では、なぜ神田氏が日銀からFintech業界へ転身したのか、その理由や日銀時代の仕事について語っていただきました。後編の本記事は、Fintech企業・暗号通貨・ブロックチェーンが生み出す「あたらしい金融の形」についてお話いただきました。

既存の金融システムの評価と改善点について

—既存の金融システムをどのように評価されていますか?

日本の銀行・金融システムが築いてきた安定感や信頼感は、世界的に見ても卓越したブランドになっていると思います。さらに日本国内でも銀行や金融庁に対する国民の信頼は本当にすごいものがあります。海外の状況をみると、本当にそう実感します。

何しろ、私も日銀からマネーフォワードに転職する時、「なぜ日銀や金融機関を辞めてITに行くのか?」と随分とみんなに止められたぐらいでした(笑)。

そして地方に行けば行くほど、金融機関のステータスや信頼度、現金に対する信仰のようなものも強くなるように感じます。例えば、私たちは日本全国どこにいても綺麗なお札をATMや銀行の支店で手にいれることができます。そのように、金融サービスを日々受けていてストレスが無いですよね。それは日本の金融業界が今まで築いてきた、これからも大事にすべきブランドだと思います。

一方で、海外の方の話を聞くと、海外の人が日本に来た時に電子マネーが使えないこと、つまりキャッシュレスではないことに非常にがっかりされるみたいです。特に地方に行くと、いっそう現金がないと何もできないくらい、キャッシュレス化はまだまだ進んでいないですよね。

世界では日本よりキャッシュレス化が進んでいる国がどんどん出てきています。キャッシュレス社会が浸透すれば、スマホでピッとやるだけで決済は終わりです。中国をはじめ多くの諸外国ではそういう生活になりつつあります。

そういった国の人々が日本に来ると、みんなその部分にはがっかりしています。一旦キャッシュレスな生活に慣れると、現金を使うのがすごく面倒に感じるものなのです。

ある外国人旅行者の方は、日光東照宮に行ってすごく楽しめたのだけれど、キャッシュレス決済をできるお店がほとんどなくて、そこでATMを探すのにすごく苦労したと言っていました。

日本人が当たり前と思っていてストレスを感じていなくても、グローバルスタンダードのキャッシュレスな国の人たちが日本に来ると、すごくストレスを感じたり、遅れていると思われる状況に日本はなりつつあるのです。

2年後の東京オリンピックではこのままだと、がっかりしてみんな帰ることになりそうですので、なんとかしないといけないですね。

マネーフォワードフィナンシャルの構想

—マネーフォワードフィナンシャルは具体的にどのように事業を展開していくのでしょうか

まずは昨年9月に仮想通貨メディア「Onbit」を立ち上げました。仮想通貨に関する基本的な情報を公正で中立的な立場で提供し、仮想通貨取引の経験がない人にもわかりやすく伝えることを目指すメディアです。仮想通貨取引への理解を深めることで不安を緩和し、仮想通貨取引がより身近となる社会をメディアの情報発信を通じて実現していきたいと思っています。

そして、現在は仮想通貨交換所を立ち上げる準備をしています。仮想通貨交換業者の登録をして取引所を立ち上げるためには、その体制づくりや金融庁の審査など、多くの時間もコストもかかりますが、今まさにそれを推し進めています。昨年12月には元金融庁検査局統括検査官の山根秀郎が入社し、内部管理統括部長に着任しました。

そして、今年2月1日には、一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)に第二種会員として加入もしています。

早期の仮想通貨交換所の開設を目指して邁進していきます。

—どういう仮想通貨交換所を目指していますか?

私たちは仮想通貨交換所を作るのが最終目的ではありません。私たちの取引所を通して仮想通貨を持っていただいて、そのお客様にその仮想通貨を保有したり使うことのメリットを、当社が提供する他のサービスと併せて実感してもらえるような仕組みを構築することです。

それが、マネーフォワードの既存のユーザーや仮想通貨に興味ある人に対して、私たちが提供できる価値だと思っています。

昨年は、いろんな事件もありましたので、一般の方々の中には仮想通貨は怪しい、興味はあるけれど自分がそれを持って大丈夫だろうかという不安を持つ方が多いと思います。

そんな中で、マネーフォワードはきちんとしたサービスを提供して、仮想通貨は危なくないもの、むしろ便利なものであるということを広く伝えていきたいです。

安心で安全に保有してもらい、更にお客様が自然に仮想通貨を使えるようなUIを持ったアプリを提供していくことを検討しています。そうした便利なサービスが広がっていくことで、仮想通貨が再評価されていくことになると信じています。

ゲーム内通貨から着想を得た仮想通貨の面白さ

—神田さんは仮想通貨にはどのようなメリットがあると考えていますか?

仮想通貨は、「時間や場所やデバイスを選ばない」、「国境やイデオロギーを選ばない」「価格が変動しうる」「マイクロペイメント」という4つのメリットを持っています。

このようなメリットのおかげで、様々な取引や活動のコストが安くなる社会が実現できると考えています。

そして、それらのメリットを生かした仮想通貨による地域通貨が実現すれば、面白いことになるのではないかと思っています。たとえば、北海道通貨や九州通貨が発行された時に、北海道の人たちが農産物を本州に対して出荷する場合は、北海道通貨のレートが変われば貿易のような形で機能しうるわけです。

北海道通貨が割安であれば、北海道から本州に対する輸出が伸びるということもある。仮想通貨を地域通貨として導入することで本州と北海道の地域格差・経済格差が埋まっていくような作用を及ぼすかもしれません。

—神田さん自身は仮想通貨に面白さを感じたのはどこですか?

日本銀行券、つまり日本円は、国や中央銀行である日銀がその信頼をしっかり守らないと、あっという間に価値が崩れてしまうものです。私はそういう意識を持って日銀で仕事をしてきました。

一方、仮想通貨は中央に発行体や信用の源がなくても、通用して流通することができます。みんなで価値を認めることができます。まさにビットコインはそうした仕組みです。私はその概念がすごく面白いと思いました。

ゲーム内のポイントやコインみたいなものを想像してもらえればイメージしやすいと思います。ゲーム内ではそのコインがあるから、アイテムが手に入ってゲームを先に進めることができます。

実は私はゲームが大好きなのですが、同じゲームをやっている人たちの中では、そのコインは一つの価値観や重さを持って認識されています。しかし、そのコインはそのゲームに興味のない人には、まったく価値がないものです。

ゲームの世界のコインのようなものが、現実の世界で発行されて通用・流通しうることが仮想通貨の面白いところです。

そしてもうひとつ、私が仮想通貨の面白さを感じるきっかけとなった話があります。

日銀時代に親しくさせていただいていた外資系金融機関のトレーダーの方がいました。その方から数年前に退職するという連絡があり、詳しく話しているうちに、「退職金の半分をオーストラリア国債に投資しようと思っている」と私に打ち明けてくれました。

私はすぐに「オーストラリアの国債って大丈夫ですか?金利は高いけれども、為替レートは変動しますよ」と質問しました。しかし、彼はあっさりと「オーストラリアの通貨が下がったらオーストラリアに住めばいいんですよ、オーストラリアのドルで生活すればいい」と返答しました。この考え方には本当に驚きました。

多くの人が、仮想通貨の価格変動は法定通貨の為替レートの変動と比べて、ボラティリティがすごく高いと感じていると思います。

これは極論ですが、最終的に仮想通貨で生活できるようになるのだったら、全然気にする必要がないですよね。あるいは、仮想通貨が将来的にいろんなところで使えるようになると思っているなら、今下がっても気にしないで持ち続ければいいという考え方もあると思っています。

今、私たちはまさにこの領域で事業を作ろうとしていますし、いろんな人たちが様々な仮想通貨やブロックチェーンを使って事業を立ち上げようとしています。

そのような動きがこれからどんどん増えていけば、3年後、5年後、あるいは10年後には確実に仮想通貨でも生活できる範囲が広がっていくと私は思っています。

私はもちろん将来、法定通貨がまったくなくなるとは思ってはいません。ただ仮想通貨で生活できる、あるいは取引できる範囲は確実に広がっていくはずです。

だから、できるだけ早く仮想通貨事業を進めて、仮想通貨を少しずつ便利に使えるようにしていく社会を作っていきたいと思っています。そういう変化が起こることを受け入れることが大切です。そして私は、自分がそうした変化に合わせるのではなく、自分から変化を作っていきたいと考えます。

個人や企業がオリジナルの通貨を作れる時代へ

—仮想通貨は私たちの生活の中でどのような使われ方をしていくと思いますか?

個人や企業がそれぞれオリジナルの仮想通貨を持って、その通貨の価値が自分たちの活動によって変動する、究極的にはそんな社会になると思っています。通貨の価値が変動するものを交換しながら、お互いの知見やノウハウを共有したりする。それは、経済の効率性が高まっていく世界です。

VALUというサービスがありますが、それは、その第一歩かもしれないですね。このサービスではVALUという自分の通貨のようなものを発行できます。そしてそのVALUをみんなが売買でき、価値が変動していきます。努力すれば自分のVALUの価格は上がって、それを持っている人たちにメリットが出ますが、もちろん逆もあります。将来的にそういう世界になっていく可能性がある、と考えています。

私もVALUに登録しましたが、発行しようと思ったらやっぱりいろいろなことが怖くなりました。私のVALUを買ってくれた人に対して、自分は何ができるのだろうか、自分のVALUが下がった時に、その人たちに申し訳ないことになるのではないかと。

自分がその通貨を発行するということは、持ってくれている人に対してメリットを常に与え続けなきゃならない、つまり自分の価値を高め続けなければならないということです。

通貨を発行するということは、そういうプレッシャーに置かれることなのだと思いました。本来通貨を発行することはものすごく難しいことです。

昨年は、仮想通貨の発行で資金を調達するICOという仕組みを利用して、多くの詐欺的な事案があるということが話題になっていましたが、本来は、仮想通貨を発行する事業者の責任として、その仮想通貨を持っている人に対してきちんとメリットを提供していかなければいけないと思います。

地域通貨であれば、その地域の魅力を高めていく努力を常にしていかないといけない。そうすることによって、ますますその地域通貨を持ちたいという人が出てくる可能性がある。それによって、さらに人気が出れば次の資金調達に繋がり、地域の魅力も一段と高まっていく。

そういうポジティブなループがきちんと回るように、仮想通貨で地域通貨を発行するという発想は、これから出てきてもいいのではないかと思っています。

鶏が先か、卵が先か、という議論に似ていますが、今、仮想通貨を持つことでこんな良いことがあるよ、というのが分かるとみんなが持つようになります。そうするともっとみんなが仮想通貨を発行しやすい環境になる。

だからこそ、仮想通貨を発行する会社や個人は、そのサービスの魅力を高める努力をすることが一番大切です。それをみんなが意識することが、仮想通貨が普及するための、遠いようで近道だと思っています。

—5年以内にマネーフォワードフィナンシャルはどんな未来を作りたいですか?

今までマネーフォワードが実現してきたのは、いろいろと散らばっている個人の金融活動や、中小企業の金融活動をインターネットで分かりやすいように「見える化」することでした。

マネーフォワードフィナンシャルがこれから実現したいと考えていることは、マネーフォワードが見える化をした価値を、最適な場所に動かすこと、あるいは環境が変わったら、その環境に合わせて動かすことです。

時代の流れとしても、多くの人が他の地域や国に行く時に、そこで使いやすい電子マネーに変えたい、見える化したものを動かしたいというニーズが出てくると思っています。しかし、今は資産を右から左に動かす時に、手数料が高い場合が多いです。特に、国際送金は非常に高い手数料と面倒な手続きなどがあります。

それをできるだけシームレスにコストも安く、手続きが簡単でストレスがない形で提供していくのが次のステップです。

私は、それが仮想通貨やブロックチェーンの技術が存在する大きな意義だと考えています。つまり、私は、マネーフォワードフィナンシャルを含むマネーフォワードグループの取り組みを通じて、誰もがストレスを感じない形で金融サービスを受けられる未来を創っていきたいと思っています。

(おわり)

→本記事の前編「23年勤めた日銀からフィンテック・仮想通貨業界へ転身した理由。マネーフォワードフィナンシャル神田潤一の挑戦(前編)」はこちら

編集 竹田匡宏・設楽悠介

 

この記事の著者・インタビューイ

神田潤一

マネーフォワードフィナンシャル株式会社 代表取締役社長
東京大学経済学部卒。米イェール大学より修士号取得。1994年日本銀行に入行、主に金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当。2015年8月から2017年6月まで金融庁に出向し、総務企画局 企画課 信用制度参事官室 企画官として、日本の決済制度・インフラの高度化やフィンテックに関連する調査・政策企画に従事。2017年9月からマネーフォワードに参画。2017年12月、マネーフォワードの執行役員に就任。2018年3月から現職。

マネーフォワードフィナンシャル株式会社 代表取締役社長
東京大学経済学部卒。米イェール大学より修士号取得。1994年日本銀行に入行、主に金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当。2015年8月から2017年6月まで金融庁に出向し、総務企画局 企画課 信用制度参事官室 企画官として、日本の決済制度・インフラの高度化やフィンテックに関連する調査・政策企画に従事。2017年9月からマネーフォワードに参画。2017年12月、マネーフォワードの執行役員に就任。2018年3月から現職。

合わせて読みたい記事

STOプラットフォームPolymathがEthereumからSubstrateに移行、中国のBC領域での特許出願数がアメリカの3倍、LINEが開発者向けBCプラットフォームを発表などのブロックチェーン・仮想通貨ニュース解説

STOプラットフォームPolymathがEthereumからSubstrateに移行、中国のブロックチェーン領域での特許出願数がアメリカの3倍、LINEが開発者向けブロックチェーンプラットフォームを発表 、ランボールギーニがセールスフォースのブロックチェーンを車体の二次流通に活用、フィナンシェが取引の高速化、プライバシー保護、取引履歴を透明化する「FiNANCiE Lightningフェーズ2」をリリース、ハッシュポートアクセラレーターが、クオンタム、ネオと戦略的パートナーシップを締結

「ブロックチェーンゲームの最先端がここに」Tokyo Block Cain Game Conference 2019イベントレポート

2019年9月16日にTokyo Block Cain Game Conference 2019が品川のTUNNEL TOKYOで開催された。 同イベントではブロックチェーンゲームディベロッパーによる事例の紹介や、業界を牽引する関連企業によるパネルディスカッションが行われ、2019年のブロックチェーンゲーム業界の振り返りや今後のビジョンを共有するイベントとなった。

幻冬舎「あたらしい経済」、CoinPost、Hashhub、TokenLabが海外大手ブロックチェーンメディア「THE BLOCK」とパートナーシップを締結、日本語翻訳記事を各メディアで配信開始

幻冬舎「あたらしい経済」、CoinPost、Hashhub、TokenLabがNYを拠点とする海外大手ブロックチェーンメディアTHE BLOCKとパートナーシップを締結いたしました。 今回の業務提携により「あたらしい経済」「CoinPost 」「HashHub」「TokenLab」の各メディア上で日本の皆様に向けて「THE BLOCK」のブロックチェーン/仮想通貨(暗号資産)に関するニュースや分析レポートなどの記事を日本語翻訳して公開していきます。

「あたらしい経済」とCoinPost「NODEE」が提携し、ビジネスパーソン向けに様々な産業とブロックチェーン業界を繋ぎ、テクノロジーの未来を学べる共同イベントシリーズ「#CONNECT」を開始

「あたらしい経済」は株式会社CoinPostが運営するブロックチェーン/仮想通貨専門コラムメディア「NODEE」(  と業務提携し、共同イベント「#CONNECT(コネクト)」をシリーズ開催していきます。

登壇者追加!「Web3 Summit 2019 Funkhaus Berlin」報告会 presents by #あたらしい経済 8月29日に開催

「Web3 Summit」はイーサリアムのFounderで現Parity TechのCTO Gavin Woodらが組織しているWeb3 Foundation主催のテクノロジーイベントです。当イベントは、2019年8月19〜21日にドイツ・ベルリンで開催されます。 Web3 Summitには、低レイヤーのプロトコル開発者、研究者、および分散型Webの最新情報に関心のある人々が集まります。今回は暗号通貨の父と言われているデイビット・ショーン(David Chaum)や、元CIA職員で映画にもなったエドワード・スノーデン(Edward Snowden)、Web3 Foundationのファウンダーのギャビン・ウッド(Gavin Wood)など、総勢30名以上の登壇者のセッションが開催されます(参考  https://web3summit.com/ ) 幻冬舎のブロックチェーン/仮想通貨(暗号資産)メディア「あたらしい経済」では、この「Web3 Summit」の報告会を、日本のブロックチェーン業界のキープレーヤーを多数ゲストに迎えて開催します。

なぜ大手クリプトファンドは「Open Finance」と「Web3」に賭けるのか

パブリックブロックチェーンがもたらしたエコシステムの中でも、「Open Finance(又はDeFi)」と「Web3.0」と称される2つのムーブメントが大きな注目を集めています。 Open Finance及びDeFi(Decentralized Finance)とは、主にEthereumブロックチェーンを取り巻く金融エコシステムの総称で、透明性やパーミッションレスなどの特徴をもつ新しい金融のあり方です。

ブロックチェーンはネット世界に濃度を付ける技術〜芥川賞作家 上田岳弘 氏インタビュー

仮想通貨(暗号資産)/ブロックチェーンを題材にした『ニムロッド』で第160回芥川賞受賞し、最新作『キュー』ではテクノロジーの発展の先にある分散化あるいは究極の中央集権化を見事に描いた小説家 上田岳弘 氏。そんな上田氏がどのようにブロックチェーンをとらえているか、そしてその先を未来をどう思い描くのかなどについて語っていただいた。

「あたらしい経済」1周年を記念してイーサリアムのブロックチェーンにメッセージを刻みました

本日、2019年6月21日が「あたらしい経済」の一周年記念の日となります。いつも記事を読んでいただいている読者の方々、ラジオを聴いていただいているリスナーの方々、そして私たちのメディアの取材や連載に協力いただきました皆様、この場をお借りしてお礼申し上げます。