独占取材「DAOは働き方3.0」クラウドワークス出資volvoxの挑戦

volvoxのお二人について

古賀勇太朗氏(右):
株式会社volvox 代表取締役
熊本大学卒業。暗号通貨NEMで決済ができる商品売買プラットフォームのNemcheを開発し、売却。2018年4月よりvolvoxの開発に専念。Makers University 3期生。

成田修造氏(左):
株式会社クラウドワークス 取締役副社長COO
慶應義塾大学経済学部在学中よりアスタミューゼ株式会社に参画。オープンイノベーション支援サービス「astamuse」の事業企画を手掛ける他、大手人材紹介会社との提携事業を立ち上げ、サイトディレクション、Webマーケティングなどを担当。その後、株式会社アトコレを設立し、代表取締役社長に就任。アート作品の解説まとめサイト「atokore」の立ち上げやiPhoneアプリ開発などを行う。2012年より株式会社クラウドワークスに参画、執行役員に就任。

DAOプロジェクトを簡単に作れるプラットフォームvolvox

ー現在取り組まれているプロジェクト「volvox」について教えてください。

volvox 成田修造 氏 & 古賀勇太朗 氏 (以下 volvox):

volvoxは、DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)のように動くプロジェクトを簡単に作れるようなプラットフォームです。

イメージとしてはTrelloやSlackのような、簡単にプロジェクトを立ち上げられる管理ツールです。違うところは、プロジェクトごとにトークンを簡単に発行できて、従来の組織のようなトップダウンの指示系統によらずプロジェクトの成功という目標に向かって自律的・分散的に動くプロジェクトを作れるという点です。

開発段階としては現在クローズのα版をテストネットで作っていて、オープンにできるα版を2ヶ月ほどで作ります。そこからチューニングなどを行なってその後の2ヶ月くらいでメインチェーンにのせたβ版を出せればと思っています。

volvoxによってプロジェクトのより良い運営が可能に

−volvoxのそのコンセプトはどのような問題意識から生まれてきたのですか?

volvox:

「より良い組織の運営方法があるのではないか」という想いからです。

現在の組織において信頼性を担保しているのは、社長や経営陣や部長と言った「上司・部下」の関係性です。上の立場の人が下の立場の人に仕事を渡したり、その仕事を評価したりすることで信頼が築かれていきます。しかしその信頼性は、本当はもっと民主的に決めることができるのではないかと思っています。具体的には、組織に所属する全員によってお互いがお互いを評価しあうことでメンバーの仕事の出来などを民主的に評価できるはずです。

そのようなコンセプトに対して「トークンエコノミー」を持ち込むことで、プロジェクトのメンバーがお互いをちゃんと評価することにインセンティブを付けられて、誰からの指示がなくてもそのような行動を促すことができると思っています。

ビジョンは、トークンを用いることで中間管理職やスタッフ機能などがなくてもプロジェクトが自動的・自律的に回る仕組みを作ることです。どうしてプロジェクトが回るかというと、民主的な意思決定によって常に最適解が導き出されるようになっていて、メンバーはプロジェクトの成功という共通の目標のためにその意思決定で最適な選択をするような、経済的インセンティブ設計がされているからです。このような仕組みで回るようなプロジェクトを簡単に作ることができるプラットフォームが私たちの目指しているものです。

また、有志のオープンソースプロジェクトの持続性にも貢献できます。現在は無償のボランティアで成り立っているために持続性に難があるようなオープンソースのプロジェクトでも、プロジェクトのトークンを発行することでメンバーに報酬を与えることができます。さらにプロジェクトの成長(=トークンの価値上昇)とともにメンバーへの報酬が増えていくという仕組みになるので、プロジェクトの持続性が向上します。

オープンソースのプロジェクトに経済的インセンティブをもたらす

−具体的には、どのようなプロジェクトに使ってもらうことを想定されていますか?

volvox:

Dappsを活用するなど、トークンを基盤にしたビジネスを展開するプロジェクトはもちろんですが、オープンソースのプロジェクトのような、経済的インセンティブがない、メンバーがボランティア的な感じでやっているプロジェクトも対象になります。

アナロジーとして考えているのがプログラミング言語のRubyです。現在世界中で広く使われているRubyには多くの「Rubyコミッター」やエンジニアがいます。彼らはRubyの成長のために頑張っているのですが、その努力に対しての経済的報酬がありません。Rubyコミッターであることによって得られる社会的地位みたいなものはあるにしても、Rubyのような非常に経済的にも意義の大きなプロジェクトに貢献していて経済的報酬がもらえないのはもったいないです

仮にRuby自体に紐づくトークンがあれば、そこに貢献しているコミッターたちはトークンがもらえて、Rubyが広まれば広まるほどトークンの価値が上昇し、その価値上昇によってコミッターの報酬は増えていきます。プロジェクトにトークンをつけることで、従来はボランティアとして無償でプロジェクトに携わっていた人たちは、プロジェクトの経済規模に基づいた経済的な報酬を受け取ることができ、プロジェクトの持続的な成長につながります。

もし今Rubyに経済規模がつくとしたらかなり大きな額になるはずです。その経済規模に対する自分(コミッター)の貢献度に応じてトークンがもらえるような世界観を作りたいです。

具体的なユースケース確立のためにコミュニティとの対話を進める

−そのビジョンに向けて、現在解決しないといけない課題はなんでしょうか。

volvox:

1番大きいのは、そもそもカスタマーがいない問題だと思っています。

DAOという概念がまだ世の中にほとんど浸透していない状況で、「私たちの考えるDAOという世界観」「現実世界のどこに課題があるのかについての仮説」をよりシャープにしていく必要があると思います。

これは世界に存在する他のDAOプロジェクトにも言えることです。DAOで世界的に有名なプロジェクトにAragonとColonyというものがありますが、彼らも「DAOがなぜ必要なのか」「どういう時に誰が使うのか」などということを完全に理解しきっていないように思えます。実際Aragonはまだα版ですし、Colonyはまだプロダクトができていません。このように、世界中どのプレイヤーもまだ仮説の検証中のフェーズであるように感じます。

私たちは、私たちのDAOの世界観と現実世界の課題をすり合わせるためにも、コミュニティやユーザーとの対話を世界の誰よりも行なっていきたいです。

また、いかに初期ユーザーを集めるかにおいて大事になってくるのがインセンティブ設計だと思っています。ユーザーがプラットフォームでプロジェクトを作るインセンティブがあり、プラットフォーム自体が使いやすければ自然と使ってくれるはずです。そういう点でビットコインのインセンティブ設計は非常に優れていて、それも参考にしています。

 

「TheDAO事件」の当該プロジェクトとvolvoxの違い

−DAOといえば「The DAO事件」が有名ですが、事件の当該プロジェクトとvolvoxの違いはどのようなものでしょうか?

volvox:

事件の当該プロジェクトであるTheDAOはDAO的に動くファンドである一方、私たちはそのようなDAO的に動くプロジェクトが簡単に作れるプラットフォームである、というところが違います。TheDAOは民主的な資金調達ができるクラウドファンディングなようなもので、そこにはお金が集まります。だからこそ不正のターゲットになりやすかったのです

さらに、TheDAO事件があったからDAOはダメなんじゃないかみたいな声もありますが、実際にハッキングを受けた原因はDAO自体にあるのではなく、スマートコントラクトのコードが孕む脆弱性を突かれたため起こった事件です。このような事件はDAOだけでなく、Dappsをはじめスマートコントラクトを使っているあらゆるプロジェクトに起こり得ます。

もちろん私たちとしてもスマートコントラクトのコードをオープンにしたりオーディット(監査)も行います。また、バグバウンティ(脆弱性を見つけた人に報酬を与える仕組み)でバグを見つけたら攻撃するよりも報告した方が得になるようなインセンティブ設計をします。このように攻撃の確率を極限まで減らすことは意識していきます。

モノを作り続けてきた古賀さんと望月さんの挑戦

−古賀さんはvolvoxを立ち上げる前もいくつかプロダクトを作っていたようですが、どのようなものを開発されていたのですか?

古賀:

このプロジェクトの前はNEMで取引ができるメルカリのようなプラットフォームを作っていたのですが、その前にまず生物学の画像解析プラットフォームを開発していました

もともと生物学が好きで大学に入りました。研究室で働いている研究者のような「知識労働」がしたいと思っていたのですが、現実は「トマトの栽培」など地味な実験ばかり。頭を使わず、手を動かすことしかしてませんでした。もっと知識労働をしたいと思って地味な実験を自動化するための画像解析プラットフォームを(今のvolvoxも共に開発している共同創業者の)望月と開発しました。しかしうまくいかず、頓挫しました。

あまりにもビジョンが先走っていた感があり、次はもっと現実に課題があるもので何かを作ろうと思い、自分のお気に入りの仮想通貨だったNEMの使い道を増やすためにNEMで決済できるフリマアプリNemcheを開発しました通貨なのに使う場所が少なすぎるという現実にある課題にフォーカスした事業である程度ユーザーも集まりましたが、今度は自分のモチベーションが「DAOを作りたい」というものに移っていき、volvoxに集中するために売却しました。

ここで学んだのは、自分の中での継続性のための「ビジョン」と、ビジネスとしての継続性のための「現実にある課題」どちらも大事だ、ということですね。

 

−そこからvolvox立ち上げまでの経緯はどのようなものだったのですか?

古賀:

学生ながらNemcheの開発を通して、ある程度の人に使われるような「社会にとって価値あること」をする経験ができました。このように自分が社会に価値あるものを提供しているのであれば、働き方とか組織形態とかもはや関係ないのではないか、というところからDAOという組織形態に注目し始めて、自分で作りたいと思うようになりました。

しかしかなり難しそうで、働き方関連で親和性のありそうなクラウドワークスさんとかと組めないものかと思っていました
そんな時期にMakers University(学生のイノベーターを生み出すプログラム。ETICが運営)に私が選出されて、運よくクラウドワークスのカリキュラムに入らせてもらったんです。提供されたお題は「(AIの文脈で)働き方を自動化する」分野だったのですが、私はブロックチェーンを持ち込んでDAOを作りませんかと提案しました。これが1番最初ですね。

そこから半年くらい成田さんからメンタリングを受けながら、本格的にvolvoxをやりたいということで、クラウドワークスさんから出資を受けて設立するに至りました。

社会の流れは「プロジェクト単位で働く”働き方3.0”」

−なぜクラウドワークスと組みたかったのですか?

古賀:

「働き方革命」の文脈でかなり親和性を感じたからです。実際にクラウドワークスをはじめとするクラウドソーシングによって、会社のトップ層まではいかないにしても裾野のようなところはかなり分散化されたはずです。その分散化をより組織の上の部分まで押し進めていくのがDAOだと思っています。

株式会社が「働き方1.0」だとすれば、クラウドワークスによって「働き方2.0」が誕生し、volvoxによって「働き方3.0」に進化すると思っています。
クラウドワークスの世界観や未来を考えたときに同じような方向に向かっている気がしたので、是非一緒にやりたいと思いました。

 

成田:

完全にアグリーです。これからどんどんパラレルワーカーも増えていくし、一つの会社だけでなく、プロジェクト単位で複数のところで働く人が増えていくはずです。また、そもそもプロジェクトを一つの会社にとどめて走らせるという仕組み自体が非効率だと思います。

そうではなくて、トークンを発行し、それをインセンティブにして日本中・世界中の人を巻き込んで作っていく方が明らかに効率的です。今すでに会社の枠組みでやっている人にとっては難しいかもしれませんが、これから会社を作り人はみんなプロジェクトトークンの発行は考えていくと思っています。その時に思い浮かぶプラットフォームにvolvoxがなれればと思います。

また、リソースやナレッジの面でもクラウドワークスが提供できるものがあるかと思います。特にプラットフォームを使うユーザーがいないという問題はクラウドワークスも初期に経験した問題です。クラウドソーシングのマッチングプラットフォームなんか誰が使うんだと言われていましたし、最初どのようにして受託者と発注者を集めるかというところはかなり苦労しました。そういう意味でも、初期ユーザー集めなどは力になれるはずです。

「volvox」の名前に込められた想い

−では最後にvolvoxやDAOに対する意気込みを教えてください。

volvox:

組織運営において、誰かが権限を持ったりスタッフ機能を持ったりするよりも、みんなが自分ごと化してモチベーション高くプロジェクトに取り組む方が生産性が圧倒的に高いと思っています。そのような、特定の誰かが権限を持たずとも自律的な組織運営を可能にするのがトークンであり、DAOだと思っています。そのDAOを簡単に作れるプラットフォームとしてvolvoxが広まるように、頑張っていきたいです

古賀:

ちなみに、volvoxという名前の由来は「ボルボックス」という生物です。ボルボックスの細胞には特定の司令塔のようなものが存在しません。全ての細胞が同じ権限を持っていて、それぞれの細胞がコミュニケーションするわけでもなく協調的に動いて、光に向かって光合成をします。
これってまさにDAOの世界観だと思ってvolvoxと名付けました。

http://lp.volvox-dao.com/



(取材・編集:飯田諒

この記事の著者・インタビューイ

volvox

DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)のように動くプロジェクトを簡単に作れるようなプラットフォームを開発。

DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)のように動くプロジェクトを簡単に作れるようなプラットフォームを開発。

合わせて読みたい記事