「5%の壁」を警戒する米財務省
暗号資産(仮想通貨)取引所ビットメックス(BitMEX)共同創業者で、AIエージェント向けプロジェクト「フロップラボ(Flop Labs)」のCEOを務めるアーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏が、8月24日に公開した自身の最新のブログ「Same Same But Different(同じようで違う)」にて、スコット・ベッセント(Scott Bessent)米財務長官による国債発行・債務管理が、ジャネット・イエレン(Janet Yellen)前財務長官の手法と本質的に同じだとの見方を示した。
ヘイズ氏は、米財務省による国債市場への介入を通じてドル流動性が拡大し、それがビットコイン(BTC)など暗号資産市場を押し上げる可能性があると予測している。
ヘイズ氏によると、イエレン氏とベッセント氏はいずれも、米10年債利回りが5%付近まで上昇することを強く警戒しているという。
米10年債利回りは、30年固定住宅ローンや社債、その他の消費者向け債務など幅広い金利の指標となる。同氏は、同利回りが5%を超える水準では企業や消費者の資金調達コストが高まり、経済活動の減速につながると説明している。
そしてヘイズ氏は、こうした背景から米当局が10年債利回りの5%付近を強く意識しているとの見方を示した。
ヘイズ氏は今回、イエレン氏が財務長官だった2023年後半の国債発行政策を、現在の状況を考えるうえでの先例として取り上げた。
同氏によると、当時米連邦準備制度理事会(FRB)のリバースレポ制度(RRP)には約2.5兆ドルの資金が存在していたという。
ヘイズ氏は、RRPに置かれた資金について、FRBのバランスシート上にあるため再担保化(re-hypothecation)されず、「マネーマルチプライヤーはゼロ」だったと説明している。
そこでイエレン氏は、長期国債よりも短期の財務省証券(Tビル)の発行を増加させたとヘイズ氏は指摘する。Tビルの供給増加によってその利回りがRRPを上回る水準まで上昇し、利回りを求めるマネー・マーケット・ファンド(MMF)の資金がRRPからTビルへ移動したという。
ヘイズ氏は、こうして銀行システムに移った資金が再担保化可能となり、債券や株式などの金融市場へ流入したと分析している。
RRP残高は、ヘイズ氏が起点としている約2.5兆ドルから、ベッセント氏が財務長官に就任した2025年1月20日までに約1,000億ドルへ減少した。
ヘイズ氏は、この約2.4兆ドルのRRP残高の減少を「流動性注入(liquidity injection)」あるいは「マネープリンティング」と位置づけ、ナスダック100やビットコインの上昇を後押ししたと分析している。
また同氏は、こうした財務省による国債発行構成を通じた市場への働きかけについて、学者らが「アクティビスト・トレジャリー・イシュアンス(Activist Treasury Issuance:ATI)」と名付けたと説明している。
そしてヘイズ氏は、現在のベッセント氏もイエレン氏と同様の問題に直面していると指摘する。
Tビルは償還まで1年未満の短期債であるため、長期債と比較して借り換え頻度が高い。ヘイズ氏は、Tビルへの依存度を高めるほど、新規支出の資金調達と既存債務の借り換えのために継続的な国債発行が必要になり、債務残高の増加が加速するとみている。
一方、ヘイズ氏は、Tビルの重要な限界的買い手としてFRBが存在すると指摘する。
FRBは現在、「準備金管理購入(Reserve Management Purchases:RMP)」を通じ、銀行準備預金を創出してTビルを購入している。ヘイズ氏は、この仕組みによってTビルに安定した買い手が存在するため、ベッセント氏はTビルを発行し、その資金を活用してより長期の国債を買い戻すことができるとみている。
同氏は、こうした国債発行とバイバックの組み合わせを通じ、ベッセント氏がイールドカーブに働きかけることが可能だと主張している。
米財務省は8月19日、10~20年および20~30年ゾーンの国債を対象とする流動性支援バイバックについて、1回あたりの最大規模を従来の20億ドルから少なくとも40億ドルへ引き上げると発表した。この変更は9月9日から11月4日まで適用される予定だ。
ヘイズ氏は、この措置によって当該期間の長期債バイバック総額が従来計画から200億ドル増加すると説明している。
発表後、米10年債利回りは一時低下し、ビットコインもその後2日間にわたり上昇した。しかしヘイズ氏によると、翌営業日の取引終了までに10年債利回りは発表前の水準を上回ったという。
その理由について同氏は、米国債残高が約40兆ドルに達するなか、200億ドルの増額では規模が小さすぎると指摘。また市場参加者は、金利上昇を通じてベッセント氏にさらに大規模なドル流動性供給策を迫ることができると認識しているとの見方を示した。
ヘイズ氏は、今後ベッセント氏が取り得る手段のひとつとして、米財務省一般口座(TGA)の資金を取り崩し、国債バイバックの原資とする方法も挙げている。
同氏によると、TGAには約1兆ドルがあり、ベッセント氏はこの案についてCNBCに情報を提供したという。
一方ヘイズ氏は、FRBによる大幅な利下げや、2010年代のような無制限の量的緩和(QE)が政治的に実行可能になる可能性は現時点では低いとみている。
ビットコインに3つのシナリオ
ヘイズ氏は今後の展開について、複数のシナリオを提示した。
最悪のシナリオは、トランプ政権を含む米国の政治家が歳出を削減するケースだ。同氏は、ドル流動性に敏感なビットコインなどの資産にとってマイナスになるとしつつ、中間選挙を控えていることから実現する可能性は低いとみている。
一方、ビットコインにとって最良のシナリオとして挙げたのが、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)のような国債市場への介入だ。
具体的には、ベッセント氏が10年以上の米国債について、利回りが5%を超えた場合に無制限のバイバックを実施すると市場に宣言するケースを想定している。
そしてヘイズ氏が最も可能性が高いとみているのが、その中間にあたるシナリオだ。
債券市場の予想変動率を示すMOVE指数が130を超えるような急激なストレスが発生するまでは、ベッセント氏がバイバック規模を小刻みに引き上げながら、その他の財務省の仕組みも活用してドル流動性を追加していくと予測している。
ヘイズ氏は、ベッセント氏によるドル流動性の供給ペースが速いか遅いかにかかわらず、ビットコインの上昇は続くとの強気姿勢を示した。
一方で今後はボラティリティが高まり、上昇相場の途中でも大幅な調整が発生する可能性があると指摘。そのため専業トレーダーでない限りレバレッジを利用せず、ビットコインや自身が有望と考える暗号資産を保有するよう促した。
またヘイズ氏は、自身が共同創業した投資ファンド「メイルストロム(Maelstrom)」について、現在「最大限のリスク(max risk)」を取っていると説明。
ビットコイン、イーサリアム(ETH)、エセナ(Ethena)、イーサファイ(Ether.fi)の4銘柄を有力視していることを明らかにした。
参考:ブログ
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