【徹底解説】IPOを控える米大手仮想通貨取引所「コインベース」が世界に与えるインパクト

アメリカの暗号資産(仮想通貨)取引所コインベース(Coinbase)がアメリカ証券取引委員会(SEC)へ上場申請を2020年12月18日に行なったことが明らかになった

2012年創業したコインベースが本格的に上場に向けて動いていることは、アメリカ含め世界各国で大きな話題となっている。2018年の10月にコインベースの企業価値は約8,340億円(80億ドル)と試算されているが、現在はビットコインの価格上昇、ブロックチェーン技術の進展、ユーザー数の増加を含めて、企業価値は1兆円を超えている可能性も考えられる。

この記事ではコインベースの現状、2020年の振り返り、上場プロセスを説明していく。

現在のコインベースのユーザー数と総資産

Coinbaseのサイトでは、2021年1月現在のユーザー数は約4,300万人、プラットフォーム上の総資産額は9.3兆円(930億ドル)であると明かされている。ちなみに、日本最大の暗号資産取引所bitFlyerの2020年12月の預かり資産合計は2,892億円となっている。

Coinbaseが提供する9つのプロダクト

1.Coinbase(コインベース)
ユーザーがCoinbaseに上場している暗号資産を売買できるプロダクト。

2.Coinbase Wallet(コインベース・ウォレット)
ユーザーが保有する暗号資産を保管できるプロダクト。

3.USD Coin
USD Coin(USDC)はコインベースによるステーブルコイン。1ドルと1USDCをいつでも1ドルに交換することができるプロダクト。暗号資産カストディ企業Circleと開発・運営している。

4.Coinbase Earn(コインベース・アーン)
ユーザーがコインベースの指定する暗号資産を学ぶことで、その暗号資産を獲得できるプロダクト。

5.Coinbase Prime(コインベース・プライム)
機関投資家向けの暗号資産取引の仲介サービス。

6.Coinbase Asset Hub(コインベース・アセットハブ)
ユーザが、取引所、カストディ、およびコインベースのすべての取引インターフェースに特定の暗号資産を上場させる機会を提供するプロダクト。このサービスは「可能な限りすべての準拠資産を上場する」というコインベースの理念に基づき、デジタル資産の新規上場の門戸を広げることを目的としたものとなっている。

7.Coinbase Commerce(コインベース・コマース)
コインベースが選択している暗号資産で決済できるプロダクト。現在はShopifyやWoo Commerceで利用できる。

8.Coinbase Custody(コインベース・カストディ)
機関投資家向けに暗号資産を保管するプロダクト。このプロダクトを運営しているのは、コインベース・カストディー(Coinbase Custody)社で、コインベースから独立した資本参加型事業として運営されている。コインベース・カストディーは、ニューヨーク州銀行法に基づく受託者として、顧客の利益のために暗号資産を信託している。

9.Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)
コインベースがブロックチェーン・暗号資産領域のスタートアップへ株式やトークンによって、資金提供をしているファンド。コインベース・ベンチャーズはこれまで65の企業やプロジェクトへ資金提供を行なってきている。

具体的には、リサーチ企業Messari(メサーリ)、デジタル証券プラットフォームSecuritize、デジタルトークンのマーケットプレイスOpenSea、暗号資産のレンディング・アセットマネジメント企業BlockFi、イーサリアムのブロックエクスプローラーEtherscan、DeFiプロトコルのCompoundなどだ。

コインベースの2020年の動向

コインベースの2020年のベストパフォーマンスは、暗号資産取引ブローカのTagomiの買収だったのではないだろうか。ちなみに買収金額は約73億円(7,000万ドル)から約104億円(1億ドル)の間と報じられている。

暗号資産取引ブローカーのTagomiは、機関投資家や企業などが多額の資産を投じて収益を上げるために、最も有利な価格で暗号資産取引を成立させるための仲介サービスを提供している企業だ。

これまでのTagomiの実績として公表されているのは、暗号資産・ヘッジファンドのパラディグム(Paradigm)、パンテラ(Pantera)、ビットワイズ(Bitwise)、マルチコイン・キャピタル(Multicoin Capital)、デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)などで、その他にも多くの上級トレーダー、ヘッジファンド、ファミリーオフィスが選ぶプラットフォームとなっているようだ。

コインベースがTagomiの買収を発表したのは、2020年5月27日、それはアメリカ企業や機関投資家のビットコイン投資への興味・関心が徐々に高まりつつある時期だったと考えられる。

実際にコインベースの公式ブログには、2019年から2020年5月に至る1年で機関投資家からの需要が急増し、Coinbase Custodyの提供するサービスが大幅に成長し、取引プラットフォームの取引量が増加して、機関投資家向けの証拠金取引や、投資家の取引戦略の分離を支援する新しいツールなどの先進的な機能を構築することになったと記載されている。

なおコインベースは前述した9つのプロダクトのうちの1つである機関投資家向けの暗号資産取引の仲介サービスを提供するコインベース・プライム(Coinbase Prime)にTagomiのチームとサービスを統合している。

そしてTagomi買収の大きな成果として、コインベースは2020年8月に米ナスダック上場のマイクロストラテジー社が2億5000万ドル(約260億円)相当のビットコイン購入の取引の執行パートナーを務めたことがあげられる。

その具体的な執行プロセスに関して、2020年12月2日のコインベース公式ブログで記されているので、以下で紹介していく。

コインベースのBTC取引の執行プロセスのポイント

ブログでは執行の最も重要なポイントとして、マイクロストラテジー(大口投資家)が参入することによるビットコインの価格上昇をどのように抑えるかがあげられている。

なぜなら株も同様だが、ビットコインの価格は1秒以内で大きく変化し、取引数に変化が生じるからだ。現在の売買取引システムは1秒間に数千回の取引を処理できるようになっている。

例えば1BTC=100万円の時に、企業が100億円支払ってBTCを手に入れようとするとする。

1BTC=100万円のレートで、取引が全て成立すれば、100億円/100万円=10,000BTCを取得できるはずだ。ただ取引は買い手と売り手がいて成立するものなので、すぐにその取引が成立するわけではない。

仮にまだこの取引が半分しか成立していない状況で、1BTC=120万円に上がったとする。

投資をした50億円分に関しては、取引が成立していて、5,000BTCを取得できたが、残りの50億円分は1BTC=120万円の価格で取引が成立したので、約4,167.7BTCを取得することになる。

つまり概算すると、833.3BTCを取得できなかったことになる。833.3BTCは1BTC=120万円のレートで計算すると、9億9,996万円と概算され、機会損失となる。

コインベース・プライムはマイクロストラテジー社のような大口投資家の前述した機会損失額を最大限に減らすため、取引を小口化して価格上昇を見事に抑えたのである。

コインベースのブログでは次のように説明されている。

コインベースのシステムでは、1つの大口注文を複数の取引所で執行される多数の小口注文に分割します。この種のスマート・オーダー・ルーティング(SOR)は、取引の市場への影響を最小限に抑え、全体的な取引規模を偽装するのに役立ちます。

私たちの技術を活用して、取引チームは平均約定価格を、買いが始まった価格よりも低くすることに成功しました。ボラティリティが高い時期には、当社の高度なトレーディングツールにより、クライアントの約定が1%も改善されました。マイクロストラテジーでは、この戦略により約425万ドルの節約を実現しました。

*スマート・オーダー・ルーティングとは、国内取引所や私設取引所(PTS)など複数の市場から最良価格がある市場を自動的に選び、売買を執行する注文のことだ。

マイクロストラテジー社はその後もビットコインを購入し続けており、マイクロストラテジーが保有するビットコインは2021年1月25日時点で、計70,784 BTC(約2,400億円)となっている。

コインベースが5月にTagomiを買収して、Coinbase Primeへチームとサービスを統合させて、マイクロストラテジー社のビットコイン購入取引を見事成功させたことは、市場に大きなインパクトを与えたと言えるだろう。

コインベースのTagomiの買収から、マイクロストラテジーのビットコイン投資執行プロセスの提供は2020年、いや暗号資産業界の大きなターニングポイントになったと言ってもいいかもしれない。

上場プロセスの解説

コインベースは2020年12月18日にアメリカの上場申請書「フォームS-1」を米証券取引引委員会へ内密に提出した。

「フォームS-1」は、特定の有価証券の募集に関する発行体の基本的な事業内容や財務情報が記載されている。投資家は有価証券の募集のメリットを検討し、賢明な投資判断を下すことができるようになる。

具体的には調達目標金額、資金調達の目的、企業の現状、企業が属する市場の概要、株式調達による価値創造と償還プロセスに関する説明、株式の流通計画などが数百ページに及び記載されている。コインベースは内密に「フォームS-1」を提出しているので、現時点で内容は明らかになっていない。

コインベースの「フォームS-1」が公表されると、暗号資産業界含め、その他フィンテック企業へ与えるインパクトはとても大きいと思われる。

なぜなら暗号資産領域という新しい領域の企業が、どのような財務状況で、それに保証が与えられ、上場できたかは、後続企業にとって非常に役に立つものとなるからだ。「フォームS-1」が公表されたら、あたらしい経済でもしっかりと解説したいと考えている。

直接上場の意図

またコインベースは直接上場案を1月28日に発表した。直接上場とは新株を発行せず既に発行している株式だけを公開する形式のことだ。

企業側の直接上場のメリットとしては、株の希薄化を防げる、上場コストを削減できる、株の公募価格を設定せず市場に株価を委ねられるなどがあげられる。そして1月22日にコインベースは、ナスダック・プライベート・マーケットに株式流通させる予定であることを発表した。

ナスダック・プライベート・マーケットとは、ナスダックの子会社が運営する未公開株式のマッチングプラットフォームである。ナスダック・プライベート・マーケットには、未公開会社へ株の流動性を提供しながら、機関投資家との関係を構築して、株式公開を促進する狙いがある。

コインベースがIPO前にナスダック・プライベート・マーケットに株式を流通させる狙いは、最大限直接上場のメリットを活かすためだと考えられる。

IPOの場合、企業は株の公募価格を設定して、証券会社を通して投資家に購入してもらうプロセスが存在する。投資家はIPO時の株の売出価格と公募価格の差分で儲ける狙いがある。つまりコインベースはナスダック・プライベート・マーケットで株式を流通させることによって、証券会社がやるべき役割をカットできることになる。

具体的なコインベースの狙いは、IPO前に元従業員が保有する株や現従業員のストックオプションなどを取引できる機会を設けることで、上場時の1株あたりの価格の底上げだと考えられる。コインベースとしては、公募価格でコインベース株を購入する新規の投資家よりも、これまでしっかりとコインベースに貢献してきてくれた従業員へ株式の売却益を配分したいと考えているのではないか。

さらには上場前にセカンダリーマーケットで、機関投資家らに株式を保有してもらうことによって、コインベースはIR(インベスターリレーションズ)の機会を手に入れ、今後の戦略など詳しく伝えることができるようになるとも考えられる。

コインベースは上場後も企業価値を高めることをしっかりと見据え戦略を立てていると感じられ、上場後の動きにも注目だ。

最後に

コインベースの上場は暗号資産・フィンテック市場へ大きなインパクトを与えることになるだろう。上場時期は、2021年10月から12月あたりだと予想されている。上場すれば、コインベースの財務状況や戦略が明らかになり、暗号資産領域のエコシステムが拡大し、既存金融との接合も容易になると考えられる。

今後もコインベースの動向は、財務的な観点からも注視していきたい。

(images:iStocks/muddymari)

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学卒業。
幻冬舎で「あたらしい経済」の編集者・記者。
また個人活動としては「死ぬまで毎日ブログを書く」という約束をもとにブログ「たっけのメモ」を4年間運営。ラジオ番組「ミレニアル世代のアタマの中」のパーソナリティー。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学卒業。
幻冬舎で「あたらしい経済」の編集者・記者。
また個人活動としては「死ぬまで毎日ブログを書く」という約束をもとにブログ「たっけのメモ」を4年間運営。ラジオ番組「ミレニアル世代のアタマの中」のパーソナリティー。

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