Zcash、大型アップグレード「NU6.3」実施。新シールドプール「Ironwood」稼働開始

Orchardへの新規入金を停止

暗号資産(仮想通貨)ジーキャッシュ(Zcash:ZEC)のネットワークアップグレード「NU6.3」が、メインネットで7月28日に実施された。これにより、新たなシールドプール「アイアンウッド(Ironwood)」が稼働開始した。なおシールドプールとは、Zcashで送金額や送受信者を秘匿したままZECを管理・移転するための領域を指す。暗号技術のゼロ知識証明(ZKP)が活用されている。

NU6.3はブロック高3,428,143で有効化された。アップグレード後は、従来のシールドプール「オーチャード(Orchard)」への新規入金およびオーチャード内の別の受取アドレスへの送金が停止され、アイアンウッドへの移行が開始されている。

ただし、オーチャード内の既存資産が凍結されたわけではない。ユーザーはNU6.3に対応したウォレットを通じて、保有するZECをアイアンウッドまたはトランスペアレントアドレスへ移動できる。ジーキャッシュ関連の公式案内によると、既存のオーチャード受取アドレスはアイアンウッドでも有効であるため、アドレスを変更する必要はないという。

アップグレード実施時点で、オンチェーン会計上のオーチャード残高は約366万ZECだった。米暗号資産メディア「コインデスク(CoinDesk)」によると、その価値は当時の価格で約17億ドル(約2,785億円)に相当する。一方、新設されたアイアンウッドの残高はゼロから開始した。

アイアンウッド導入の背景には、オーチャードの証明回路で発見された重大な脆弱性がある。

この脆弱性は5月29日、シールデッド・ラボ(Shielded Labs)の依頼でAI支援型のセキュリティー監査を行っていた研究者、テイラー・ホーンビー(Taylor Hornby)氏によって発見された。

この脆弱性を悪用した場合、攻撃者はオーチャード内で、無制限かつ検出不能な偽造ZECを生成できた可能性がある。ホーンビー氏はローカルのテスト環境で、無制限に偽造ZECを生成できる実証コードを作成したという。

調査では、ホーンビー氏が構築したAI支援型の監査環境で、アンソロピック(Anthropic)のAIモデル「クロード・オーパス4.8(Claude Opus 4.8)」が活用された。ただし、AIが単独で脆弱性を発見したわけではなく、対象を絞ったコード監査の一部として利用された。

オーチャードは2022年5月に稼働しており、この脆弱性は約4年間存在していたことになる。

開発者らは報告を受け、まず緊急修正によってオーチャードを一時的に利用停止とし、その後、ネットワークアップグレード「NU6.2」で修正済みの証明回路を導入してオーチャードを再稼働させた。

一方、オーチャードでは送金額やノートの対応関係が秘匿されるため、取引自体はブロックチェーンに記録されているものの、過去に偽造ZECが生成されたかどうかをオンチェーンデータから証明することはできない。

開発関係者は、実際に悪用された可能性は低いとの見方を示している一方、悪用が一度もなかったことを暗号学的に証明することもできないとしている。

脆弱性の公表後、ZEC価格は約2日間で4割近く下落し、流通供給量そのものへの懸念が市場で広がった。

アイアンウッドでは、流通供給量に対する検証可能性を回復するため、Zcashに従来から備わる「ターンスタイル(turnstile)」を活用し、オーチャードを実質的に出口専用とする制約が導入された。

ターンスタイルでは、オーチャードから外部へ移動できるZECの総額が、公開情報から確認できるオーチャードへの正味流入額を超えないよう制限される。これにより、仮にオーチャード内で偽造による供給量の水増しが発生していた場合でも、その超過分をすべてオーチャードの外へ持ち出すことはできなくなる。

ただし、ターンスタイルは個々のZECやノートについて、正規に発行されたものか偽造されたものかを識別する仕組みではない。あくまでオーチャードから外部へ移動できる総額に、検証可能な上限を設ける仕組みとなる。

オーチャード内の既存資産は、ターンスタイルを経由してアイアンウッドまたはトランスペアレントアドレスへ移動する。移行はユーザーや対応ウォレットによって順次進められるため、完了時期は定められていない。

アイアンウッドの計画公表後、ZEC価格は脆弱性公表後の安値から一時約45%反発した。

将来の量子コンピューターに備えた仕組みも導入

アイアンウッドでは、偽造対策に加え、将来の量子コンピューターによる暗号解読リスクを見据えた新たな仕組みも導入された。

「ZIP 2005」として策定された仕様では、アイアンウッドで生成されるノートの構造を変更し、将来、現在利用されている楕円曲線暗号が破られる事態が生じた場合でも、将来導入が想定される回復プロトコルを通じて資産を移行できるよう設計されている。

ただし、ZIP 2005の導入によって、現在のジーキャッシュが量子コンピューターに対して安全になったわけではない。同仕様は、将来の耐量子プロトコルへの移行を容易にするための「量子回復可能性」を提供するものと位置付けられている。

またアイアンウッドでは、NU6.2で修正されたオーチャードの証明回路を基礎として再利用しており、同回路の健全性などを数学的に検証する「形式検証(Formal Verification)」も進められている。

開発チームによると、新プールでは形式検証の対象となる証明回路を採用しており、オーチャードで発見されたような種類の実装上の欠陥を防ぐことを目的としている。ただし、配備された実装全体に対するエンドツーエンドの形式検証は現在も進行中であり、ソフトウェア全体のあらゆる不具合を排除するものではない。

アイアンウッドの稼働により、オーチャードへの新規資金流入は停止された。一方、オーチャードに保管されている既存資産は、ユーザー自身の操作や対応ウォレットの実装を通じて順次アイアンウッドへ移行していくことになる。

また、プライバシー関連事業者やウォレット開発者の一部からは、移行時のネットワーク上のメタデータに関するプライバシーへの配慮を求める声も上がっている。対応ウォレットの成熟やプライバシー保護機能の整備も、今後の移行を進める上で重要な要素となりそうだ。

記事執筆時点でZECは463ドル前後で推移し、前日比では約8%安、週間では約15%安となった。一方、過去1年間では約10倍の上昇を維持しており、時価総額は約80億ドル(約1兆3,104億円)となっている。

参考:Zcash Community ForumZcash Community ForumGitHubIronwood MigrationCoinDesk
画像:PIXTA

関連ニュース

Zcash向け新フルノード「Zakura」公開。7/28にアイアンウッド発動へ

ZECが急騰、検出不能な偽造バグ排除へ期待。Zcashの形式検証が最終段階に

Zcash、新アップグレード「Ironwood」提案。供給量の自律検証を可能に

Zcash脆弱性、理論上は無制限の偽造ZEC生成が可能だった=Shielded Labs

Zcash、重大脆弱性対応で緊急アップグレード。ネットワーク停止は否定

関連するキーワード

この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

合わせて読みたい記事

【7/28話題】米サークルがIBMのブロックチェーン特許群取得、ストラテジーが5週連続BTC追加購入なし、KB国民銀行がKinexysで企業向け国際決済など(音声ニュース)

ブロックチェーン・仮想通貨(暗号資産)・フィンテックについてのニュース解説を「あたらしい経済」編集部が、平日毎日ポッドキャストでお届けします。Apple Podcast、Spotify、Voicyなどで配信中。ぜひとも各サービスでチャンネルをフォロー(購読登録)して、日々の情報収集にお役立てください。

Sponsored

ロビンフッド、クリプトドットコムと予測市場で提携協議か=報道

米オンライン証券大手ロビンフッド・マーケッツ(Robinhood Markets)が、予測市場事業の拡大に向けて海外暗号資産(仮想通貨)取引所クリプトドットコム(Crypto.com)と提携を協議していると、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」が、事情に詳しい関係者の話として7月24日に報じた