米財務省、ステーブルコイン発行体に銀行並みAML義務求める

FinCEN・OFACが共同規則案

米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)と海外資産管理局(OFAC)が、「ジーニアス法(GENIUS ACT)」に基づく共同規則案(NPRM)を4月8日に公表した。ペイメント・ステーブルコイン発行体(PPSI)に対してマネーロンダリング防止(AML)および経済制裁コンプライアンスプログラムの整備を義務付けるもので、イノベーションとリスク管理の両立を図る枠組みに向けた重要な一歩となる。

本規則案は主に2つの柱から成る。第一に、FinCENがPPSIを銀行秘密法(BSA)上の「金融機関」として位置づけ、既存の金融機関と同等のAML義務を課す新たな規定を提案。第二に、OFACがPPSIに対して実効性ある経済制裁コンプライアンスプログラムの維持を義務付ける新規定を設ける。いずれも米国連邦規則集(CFR)第31編の異なる章に独立して追加される形で、FinCENはC第10章、OFACは第5章にそれぞれ新たなパートを創設する。

AML・BSA関連では、PPSIはリスク評価の実施と監督担当役員の指定を含む実効性あるAMLプログラムの策定・維持が求められる。また、適切な記録の保持、法令違反が疑われる不審取引の監視・報告(SAR提出)、違法取引をブロック・凍結・拒否するための技術的能力とポリシー・手続きの維持も義務付けられる。さらに、口座保有者の本人確認や高額取引の把握、強化デューデリジェンスを含む顧客確認プログラム(CIP)の整備も必要となる。

制裁コンプライアンス面では、制裁リストの照合を含む実効性ある経済制裁コンプライアンスプログラムの整備・維持が義務化される。なお、顧客確認プログラムの詳細については別途のルールメイキングで扱われる予定だ。

規則案は、ステーブルコインがマネーロンダリングや制裁回避に悪用されている実態を詳述しており、その危険性への強い問題意識が背景にある。

FinCENによると、2015年1月から2025年11月の間に、特定のステーブルコインに言及した不審活動報告(SAR)が約5万5,000件に達したという。さらにOFACには同期間に、ステーブルコインに関連した財産凍結報告が約5,800件、取引拒否報告が約3,000件寄せられている。

また金融活動作業部会(FATF)は2025年の報告書で、「オンチェーン上の不正活動の大半がステーブルコインで行われているとの推計がある」と指摘しており、ステーブルコインの普及拡大と不正利用の増加が連動している構造が浮かび上がっている。

悪用の具体的な実態としては、デジタル資産投資詐欺などの詐欺・フロード、北朝鮮(DPRK)のITワーカーやサイバー犯罪グループによる資金洗浄、麻薬密売組織による資金移動、ハマスなどテロ組織への資金提供、そして制裁回避ネットワークによる活動が列挙されている。中国のマネーロンダリングネットワークが、国内の大口送金への疑念を避けるためにドルをステーブルコインに換え、国際的な資金移動に利用しているケースも指摘されている。こうした背景から、規則案は「米国の金融システムの規模・信頼性が不正行為者の標的になっている」として、規制の必要性を強調している。

この規則案の重要な概念として、FinCENとOFACは「プライマリー市場」と「セカンダリー市場」を定義・区別した。プライマリー市場とは、PPSIが利用者と直接やり取りする取引を指し、ステーブルコインの発行・換金・償還・買い戻し・バーン(焼却)・再発行や、カストディサービスの提供などが含まれる。一方のセカンダリー市場とは、PPSIがスマートコントラクトを介する以外に直接当事者として関与しない取引を指し、個人が仲介業者からステーブルコインを購入するケースや、セルフホステッドウォレットからの商品購入代金の送金、デジタル資産取引所での交換、個人間のP2P取引などが該当する。この区別は各義務の適用範囲を規定する上で重要な役割を果たす。

この規則案は近日中に連邦官報(Federal Register)に掲載される予定で、掲載日から60日間にわたりパブリックコメントを受け付ける。コメントはオンラインまたは郵送で提出できる。

なお今回の規則案に先立ち、財務省は2025年9月にもジーニアス法実施に関する事前規則案告示(ANPRM)を公表しており、約450件のパブリックコメントが寄せられた。その多くはBSAおよび制裁プログラム義務をPPSIに適用すること自体には賛成としつつ、新規事業者や未規制参入者にとってのコンプライアンスコストへの懸念や、プライマリー市場とセカンダリー市場に対して異なる義務を設けるべきとの意見も含まれていた。

ジーニアス法はペイメント・ステーブルコインの連邦規制の包括的な枠組みを定めており、準備資産・自己資本・流動性・リスク管理要件については通貨監督庁(OCC)、連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、全国信用組合監督庁(NCUA)、および各州の規制当局が担当する。今回の財務省によるAML・制裁コンプライアンス規則案は、その全体像の一部を担うものだ。

スコット・ベッセント(Scott Bessent)財務長官は「トランプ大統領はデジタル金融技術における米国のリーダーシップを強化している。この提案は、米国企業がペイメント・ステーブルコインエコシステムで前進する能力を妨げることなく、国家安全保障上の脅威から米国の金融システムを守るものだ」と述べた。

 

参考:発表
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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