イーサリアム研究者、次世代暗号技術を中核とした「Lean Ethereum」構想を提案

量子コンピューターの脅威に対抗する新フレームワーク提案

イーサリアム財団(Ethereum Foundation)の研究者ジャスティン・ドレイク(Justin Drake)氏が、イーサリアムの長期開発に向けた新しいフレームワーク「リーンイーサリアム(Lean Ethereum)」を7月31日に発表した。この構想は、量子コンピューターがもたらす将来のセキュリティリスクに備えながら、プロトコル設計の簡素化を目指すものだ。

同構想は、イーサリアムが誕生から10年を迎えたタイミングで公開され、今後10年間のビジョンと位置づけられている。ドレイク氏は「我々は新時代の夜明けに立っている。数百万TPS、量子の敵対者。イーサリアムはいかにして妥協のないセキュリティと分散化を保ちながら極限の性能を実現するのか」と述べた。

リーンイーサリアムの核心は、次世代暗号技術を攻撃と防御の両面で活用することにある。現在イーサリアムが持つ1,300億ドル規模の経済セキュリティ(3,570万ETHのステーキング額×3,700ドル)を基盤として、将来的には数百兆ドルを保護する価値のインターネットの基盤となることを目指している。

同構想では、「フォートモード(防御態勢)」と「ビーストモード(攻撃態勢)」という2つの戦略的アプローチを提示している。フォートモードでは、国家や量子コンピューターなど、あらゆる脅威からイーサリアムを守ることを目標としている。ビーストモードでは、レイヤー1で毎秒1ギガガス(1万TPS)、レイヤー2で毎秒1テラガス(1,000万TPS)の処理能力を実現することを目指す。

技術的には、3つのレイヤーでの大胆なアップグレードが提案されている。

1つ目の「リーンコンセンサス(Lean Consensus)」はビーコンチェーン2.0として、最高のセキュリティと分散化を実現し数秒でのファイナリティが提供される。

2つ目の「リーンデータ(Lean Data)」はブロブ2.0として、量子後暗号(PQC)を採用したブロブと粒度の細かいブロブサイジングが実装される。なおブロブ(Blob)とは、レイヤー2ネットワークなどがステートをブロードキャストする際に使用するデータ領域のこと。またPQCは、量子コンピューターによって従来の暗号が解読されるリスクに備え、量子コンピューターでも解読が困難な暗号技術のこと

そして3つ目の「リーンエグゼキューション(Lean Execution)」はEVM 2.0として、最小限でSNARK対応の命令セット(RISC-V)を採用し、EVM互換性とネットワーク効果を保持しながら性能を向上させる。これらの統合により、リアルタイムzkVMによる軽量実行とデータ可用性サンプリング(DAS)による軽量データ処理を実現するとのことだ。

暗号技術面では、ハッシュベース暗号をイーサリアムの理想的な基盤として採用することを提案している。この技術は、SNARKsの爆発的な普及と量子脅威の到来という2つのメガトレンドに対する統一的な解決策を提供するという。コンセンサス層ではBLS署名をハッシュベース集約署名にアップグレードし、データ層ではKZGコミットメントをハッシュベースDASコミットメントに移行するという。

ドレイク氏はリーンイーサリアムについて、単なるイーサリアムの堅牢化とスケーリングの設計図以上の意味を持つとし、「美学であり、芸術形式であり、職人技である」と表現している。ミニマリズム、モジュラリティ、複雑性のカプセル化、形式検証、証明可能なセキュリティと最適性を重視する技術的配慮が含まれているとのことだ。

また同氏は、イーサリアムを「どんな状況でもオンラインに保ち、妥協なくスケールし、次世代にふさわしいものにするため」の世代間の誓いと位置づけ、「これは遺産に関することだ。我々は建設者であり、宣教師である。我々はイーサリアムなのだ」と結んでいる。

参考:イーサリアム財団ブログ
画像:Ethereum

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この記事の著者・インタビューイ

田村聖次

和歌山大学システム工学部所属
格闘技やオーケストラ、茶道など幅広い趣味を持つ。
SNSでは、チェコ人という名義で、ブロックチェーンエンジニアや、マーケターとしても活動している。「あたらしい経済」の外部記者として記事の執筆も。

和歌山大学システム工学部所属
格闘技やオーケストラ、茶道など幅広い趣味を持つ。
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