日本が仮想通貨・ブロックチェーンで世界に勝つために必要なこと PoT #02-3 GMOインターネット熊谷正寿 × Aerial Partners沼澤健人

藤本真衣

仮想通貨に関する規制との向き合い方

藤本:現在仮想通貨において規制をどうしていくかというのが大きな課題だと思っています。今までこのあたりをリードしていたと言われていた日本が、これから世界に向けて賢いルール作りをしていくためにはどういったことが大切だと思いますか? 事業者としての制度への向き合い方という点でお願いします。

熊谷:日本は今までは金融庁が先端産業の育成というところを旗振って、世界が見習うべき規制を作ってきたと思いますが、国内で起こったハッキング事件以降、投資家保護に大きく舵を切っている状況になっています。

僕たちは金融事業者として、元々証券会社やFXをやっていますから、金融事業者に求められる要件の厳しさはよくわかっています。それと同等レベルの条件を、今までの仮想通貨取引所各社に求めてきている。しかし、そうなるとベンチャー企業の仮想通貨取引所各社にとってはお金や人材面の障壁が高くなってしまいますので、現在は厳しい状況だと思います。

もちろん投資家保護はすごく大切なことです。ただ新産業育成という点では世界的にみても厳しすぎるのではないかという意見もあると思います。

新産業育成と投資家保護、どちらもこの業界にとって非常に大切なポイントなので、日本はこの部分のいいバランスをもったルールを世界に先駆けて作っていって欲しいと願っています。規制を緩めてほしいとは思っていないけど、ベンチャーが参入できない状況というのは少し行き過ぎかなと。

藤本:沼澤さんは現場でそういったベンチャー企業のサポートをされていますよね。

沼澤:はい、だから問題意識としては熊谷さんとすごく近いものがあります。現在は海外のプロジェクトも日本への参入が事実上難しい状況が続いています。みんな日本は厳しいから、ちょっと様子を見るかという感じです。

熊谷:それはエクスチェンジの企業ですか、それともICOプロジェクトですか?

沼澤:その両方です。そしてICOプロジェクトも、実際に海外でICOを実施した後に、ユーティリティトークンを使ったサービスを日本の居住者向けに提供したいと思っています。それらを一部サポートできるところもあるんですが、レギュレーションがかなり難しいです。だから僕も現在の規制の方向には問題意識を持っています。

先程、熊谷さんが仮想通貨の領域といえばエクスチェンジと決済とマイニングだとおっしゃっていましたが、今ブロックチェーンの技術に魅了されている技術者たちの動きって、必ずしも金融に範囲を絞っていないと私は感じています。彼はらかなり壮大にブロックチェーン技術を何にどういった形で社会実装できるのかという観点で、社会実験を繰り返している。

そういったブロックチェーンベンチャーが、実際に自分たちが発行したトークンを使って資金調達するのも、一時期は開かれた手段として国内でも注目されていました。

しかし今は事実上、交換業の免許がないとICOできないですよね。そうすると優秀な日本のブロックチェーンベンチャーが、日本から出ていかなきゃいけないというモチベーションになってしまっています。実際に日本のすばらしいプロジェクトですでに海外に視点を移しているものはたくさんあるんです。

単純にブロックチェーン業界全体、一つ金融という領域で串刺してしまうと、そこから漏れてしまっているブロックチェーンベンチャー自体の育成も妨げる結果になりかねません。

私自身は金融だけでなくて、ブロックチェーンを社会実装しようとしているプロジェクトがどういう活動をしてどういう研究領域でどういった社会的な効用を産もうとしているのかという現場の情報を、きちっと当局の方たちにお伝えする立場を担っていきたいです。

とはいえ、私は窓口として、あるいは旗振り役としてはまだまだ未熟すぎる部分があるので、そういったところで熊谷さんのように荒波と向き合って今のポジションを築いてきたご経験と、私だから提供できる現場の情報と合わせて今後制度を前向きに変えていくような働きかけに協力したいというのが、私の個人的な思いです。

熊谷:なるほど。その想いには同感です。ブロックチェーンベンチャーを社会実装させようとしている人たちが今どんなことを考えられていて、どこでつまずいてらっしゃるのか、僕もっと勉強したいですね。僕たちの世代のパイプや力や役に立つこともあると思いますので。

日本から世界をリードするようなリーダーが出てきてほしい

沼澤:嬉しいです。そして現在海外の仮想通貨取引所を見ていると、たとえばBinanceのCZさんがBinanceLabsを通じていろんなブロックチェーンベンチャーに投資をしています。

彼らの元に優秀なブロックチェーンベンチャーが集まってくるエコシステムみたいなものができていて、実際に日本のブロックチェーンベンチャーも優秀なところは、海外の財団とか取引所にどんどん投資を受けています。

僕は日本から世界をリードするようなリーダーが出てきてほしいという思いがあるので、優秀な日本の方が海外にばかり目を向けて、海外の投資家ばかりから出資を受けることに寂しさを感じます。だから有力なブロックチェーンベンチャーに対する投資も是非GMOインターネットさんにこれから積極的にやっていただきたいと思っています。

熊谷:確かに今の日本ではICOはできないから、整備されることを望みます。現在は大きなハッキング事件が立て続けに起こってしまって、正直混乱してしまっている状況だと思います。また、現状、ICOが証券なのか有価証券なのかの位置づけが明確になっていない。

当社ではマイニング事業の月次報告を公表しているのですが、数値を公表しようとした時に、他に前例がなく、これが基準になるからと慎重さを証券取引所から強く求められました。

要するに日本は、世界も含めて全体が見えていないんですよね。だから、そこはもっと皆さんのような方々が実態をちゃんと伝えらえるよう、積極的なコミュニケーション体制を構築していけたらいいですよね。

藤本:そういうところを地道にできたらすごく嬉しいですね。

熊谷:ブロックチェーン・仮想通貨という領域においては、日本が先進国にならなければと思っています。だから今の状況を逆転させなきゃいけませんね。

沼澤:そういった意味でもすごいと思うのは、GMOインターネットさんのマイニング事業です。それを事業とされるということは、日本がビットコインの輸入国から輸出国になっていくという文脈もあると思うんです。そういったところで日本がイニシアチブを取っていくために、私は全力でGMOインターネットさんの事業を応援しています。

市場の成長過程においてはコネクターの存在が大切

熊谷:ありがとうございます。第一線で実際に戦っている若い方々にそう言っていただけるだけでもありがたいです。

仮想通貨事業は藤本さんにも本当に応援していただいて、僕がマイニング事業をやると決めた時、この分野を牽引しているBitmainのジハン・ウーさんに会いたいと思い、藤本さんに紹介していただきました。当時ジハンさんにインタビューされていた藤本さんに、僕が直接Facebookで連絡して相談したんですよね。そしたらすぐにアレンジしてくださって。現在も藤本さんには仮想通貨事業の相談に乗っていただいて感謝しています。

藤本:まさか熊谷さんから連絡が来るなんて想像もしてなかったですから、最初は偽物だと思ったんですよね。ちゃんと確認して良かったです。

熊谷:藤本さんは仮想通貨業界の窓ですね。僕はこう言った市場がこれからできていく成長過程において、藤本さんのようなコネクターが一番大切だと思っています。

藤田田さんが著書『ユダヤ商法』の中で、商売人が大切にすべきなのは業界のトップとかそういう人ではく、その人をつないでくださるコネクターだと書かれていました。藤本さんはまさにコネクターです。日本はもっと藤本さんを大切にすべきです(笑)。

藤本:ありがとうございます。そういうお言葉をいただけただけで満足かもしれないです。ちなみにGMOさんはこれからさらにこの業界でアクションを起こしていこうと考えていますか?

未来へのアクション。日本円と連動したステーブルコイン「GMO Japanese YEN」

熊谷:これからさらに市場を拡大するには、先ほども話しましたが、仮想通貨は「金(ゴールド)」であるとして、これからもっと市場を拡大するために「お金(通貨)」にする必要があると思っています。

では仮想通貨を「お金(通貨)」にするのに何が必要かというと、まず一番重要なのが安定性なんですね。今僕らGMOインターネットグループが持っているリソースには、銀行と証券とエクスチェンジがあります。だからこの3つをかけ合わせて、日本円と連動したステーブルコイン「GMO Japanese YEN(ティッカーシンボル:GJY)」を作ることを先日発表しました。

ステーブルコインが広がれば、仮想通貨の仕組みがそのまま決済に使えます。今、日本の金融業界のネットワークや、海外の銀行をつないでいるネットワークはすべてが専用回線なんですよ。

これだけインターネットが普及しているのにパブリックなネットを使っていないんです。振込をする時に、通帳に絵文字とか送れないじゃないですか。それはインターネットを使えばできるんだけど、専用のネットワークだから使えない。そこで、すべての問題を解決する可能性を秘めているのがステーブルコインなんです。

沼澤:本当の意味での固定通貨と仮想通貨のゲートウェイがそこで出来上がるわけですね。

熊谷:はい、だからこれから実証実験を行って、2019年度中を目処にアジア地域へ向けて発行を開始する予定です。期待していてください!

(おわり)

この企画のすべての記事を読む「Proof of Talk #02 GMOインターネット 熊谷正寿 × Aerial Partners 沼澤健人 × グラコネ 藤本真衣

インタビューイ・プロフィール

熊谷正寿
GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長 グループ代表
1963年7月17日長野県生まれ。東証一部上場のGMOインターネットを中心に、上場企業9社を含むグループ111社、パートナー約5,700名超を率いる。(2018年6月末時点) 「すべての人にインターネット」を合言葉に、日本を代表する総合インターネットグループとして、インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、仮想通貨事業を展開。 2017年に参入した仮想通貨事業では、交換事業とマイニング事業を展開。仮想通貨領域で世界ナンバーワンを目指し取り組んでいる。また、2018年7月からはGMOあおぞらネット銀行がインターネット銀行事業を開始。 主な受賞歴に、米国ニューズウィーク社「Super CEOs(世界の革新的な経営者10人)」(2005年)、経済誌「経済界」による第38回 「経済界大賞 優秀経営者賞」(2013年)、経済誌「財界」による第58回「財界賞・経営者賞」(2016年)、経営誌「企業家倶楽部」による第19回「企業家大賞」(2017年)などがある。 著書は「一冊の手帳で夢は必ずかなう」(かんき出版)、「20代ではじめる「夢設計図」」(大和書房)など。

沼澤健人
株式会社Aerial Partners 代表取締役
仮想通貨取引計算サポートと税理士紹介を行う『Guardian』、仮想通貨取引計算ツールである『G-tax』を提供。Twitterの仮想通貨アカウント「二匹目のヒヨコ(@2nd_chick)」中の人としてブロックチェーン業界の会計・税務領域を中心に啓蒙活動を行っている。会計コンサルティングファームであるAtlas Accounting代表として、仮想通貨交換業者やブロックチェーンプロジェクトの顧問を務めており、一般社団法人日本仮想通貨税務協会理事も兼任。

(編集:設楽悠介・小俣淳平)

Proof Of Talkについて

「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。

第2回はGMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長 グループ代表 熊谷正寿氏と株式会社Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏とのトークセッションを全3回でお届けします。

(今までのすべてのProof Of Talk(PoT)」はこちら

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

この特集のその他の記事

日本が仮想通貨・ブロックチェーンで世界に勝つために必要なこと PoT #02-3 GMOインターネット熊谷正寿 × Aerial Partners沼澤健人

新産業育成と投資家保護、どちらもこの業界にとって非常に大切なポイントなので、日本はこの部分のいいバランスをもったルールを世界に先駆けて作っていって欲しいと願っています。規制を緩めてほしいとは思っていないけど、ベンチャーが参入できない状況というのは少し行き過ぎかなと。