ターム・ファイナンスでガバナンス攻撃、約850万ドル流出か。メタ・ボールトへの入金を恒久停止

ターム・ボールトでガバナンス攻撃、約850万ドル流出との報告

DeFi(分散型金融)プロトコル「ターム・ファイナンス(Term Finance)」のボールト(Vault)で、ガバナンスに関するエクスプロイトが発生した。開発元のターム・ラボ(Term Labs)が公式Xアカウントで8月23日に発表した。

ターム・ファイナンスは、イーサリアム(Ethereum)上で暗号資産の貸し借りなどを提供するDeFiプロトコルだ。固定期間・固定金利の貸借市場に加え、ユーザーから預かった資産を運用するボールトなどを提供している。

今回のインシデントで問題となったのは、このうちボールト側だ。タームのボールトでは、ユーザーから預かった暗号資産を運用戦略に基づいて固定金利市場やその他のDeFi市場へ配分する。ユーザーは個別の運用先を管理する代わりに、ボールトへ資産を預けることで運用できる。

ターム・ラボは当初、「ターム・ボールトに影響するガバナンス・エクスプロイトを認識している」と発表。調査を進めた上で詳細を共有すると説明していた。

その後ターム・ラボは8月24日、今回のインシデントが「ターム・ボールトのガバナンス」に関するものだったと発表した。同社はすべての「ターム・メタ・ボールト(Term Meta Vaults)」を停止し、DAO(分散型自律組織)のガバナンス権限を無効化した。

今回実施されたターム・メタ・ボールトの停止は不可逆的な措置で、ユーザーは新たに資産を入金できなくなった。一方、既存ユーザー向けの出金機能は引き続き利用可能とのことだ。

つまりターム・メタ・ボールトを完全に利用不能にしたのではなく、新たな資産を受け入れない状態としながら、既存ユーザーが残存資産を引き出すための機能は維持されている。ただし、出金機能が開いていることは、預入資産の全額を回収できることを意味しない。

一方、現時点の調査では、基盤となるターム・プロトコルと、同プロトコルが提供する直接的な借入・貸付市場は今回のインシデントによる影響を受けていないとのことだ。ターム・ラボは引き続き影響範囲を確認している。

ブロックチェーンセキュリティ企業のペックシールド(PeckShield)は8月23日、今回のエクスプロイトによる流出額を約850万ドル(約13.5億円)と報告した。

ペックシールドの分析では、攻撃者は約2,843ETHと約168万USDCを流出させた。その後、約168万USDCを約168万DAIへ交換したとのことだ。

ペックシールドが示した攻撃者関連アドレスでは、記事執筆時点で約2,843ETHと約168万DAIの保有が確認できる。これらの資産は、イーサリアムのブロックチェーンエクスプローラー「イーサスキャン(Etherscan)」で確認可能だ。

またペックシールドは、攻撃者の関連アドレスが当初、トルネード・キャッシュから合計2ETHの資金供給を受けていたと報告している。

なお約850万ドル(約13.5億円)という被害額は、ターム・ラボが公式に発表した数字ではない。ターム・ラボは外部のセキュリティチームと連携し、修復と資産回収を進めている。また最終的に資産の不足が残った場合、その不足に対応する方法を検討するとのことだ。

ボールトのガバナンスを悪用か、投票権の過半数取得との分析

今回の攻撃を理解する上で重要となるのが、ボールトと「ガバナンス」の関係だ。タームの「ターム・ストラテジー・ボールト(Term Strategy Vaults)」では、運用を担うキュレーターが各種パラメータを設定する一方、LPトークン保有者にもボールトの管理に関する権限が与えられている。

具体的には、LPトークン保有者はリスクパラメータや担保基準、プロトコル設定などの変更提案に対して拒否権を行使できる。こうした仕組みにより、ボールトの運用を担う主体だけで管理方針を変更できないようにしている。

ターム・ラボは今回のインシデントについて、「ターム・ボールトのガバナンス」に関するものと説明している。一方、攻撃者が具体的にどのガバナンス機能をどのような手順で悪用したのかについて、同社は現時点で詳細を公表していない。

一方、オンチェーン監視サービスのディファイモン(Defimon)は、攻撃者がガバナンスに関する投票権の過半数を取得し、悪意ある提案を成立させたと分析している。これはターム・ラボによる公式な攻撃手法の説明ではなく、第三者によるオンチェーン分析となる。

またターム・ストラテジー・ボールトは、DeFiプロトコル「ヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)」の「ヤーンV3(Yearn V3)」を基盤として構築されている。タームの公式開発ドキュメントでは、ヤーンV3のモジュール型ストラテジーフレームワークを利用していると説明されている。

同ボールトは、イーサリアム上でトークン化されたボールトを構築するための共通規格「ERC-4626」も実装している。簡単にいえば、ボールトへの資産の預け入れや引き出しなどを共通の方法で扱えるようにする規格だ。

ただし今回、ヤーンV3やERC-4626そのものに脆弱性があったことを示す情報は、現時点で確認されていない。ターム・ラボは今回の問題を、ターム・ボールトのガバナンスに関するインシデントと位置付けている。

ターム・ラボは引き続き影響範囲を確認しており、外部のセキュリティチームと連携して修復と資産回収を進めている。今後も確認済みの情報を公式Xアカウントで共有するとのことだ。

画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者
ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。

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ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。

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