バイナンス、米当局と司法取引後も不審取引継続か=FT

FTが内部データで指摘。バイナンスは反論

世界最大の暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)が、2023年に米当局と約43億ドル(約6,701.5億円)規模の司法取引に合意の上和解し、マネーロンダリング対策などの改善を約束した後も、テロ資金供与を含む不正関与が疑われる不審口座による取引を十分に止められていなかった可能性が浮上している。「フィナンシャル・タイムズ(FT)」が12月22日に報じた。

FTが入手したバイナンス内部データ(流出資料)によれば、本人確認(KYC)の不備、地理的に不自然なログイン履歴、テロ関連ネットワークとの資金的接点といった複数の警戒シグナルが確認されていたにもかかわらず、少なくとも13口座が取引を継続していたという。13口座が関与した取引総額は約17億ドル(約2,649.5億円)で、このうち約1億4,400万ドル(約224.4億円)は2023年11月の合意後に発生したとされる。口座名義はベネズエラ、ブラジル、シリア、ニジェール、中国などの人物に及ぶという。

具体例として、ベネズエラの低所得地域に住む人物名義の口座が、2021年から2025年にかけて約9,300万ドル(約145億円)相当の暗号資産を移動させていたとFTは伝える。この資金の一部は、のちに米国がイランおよびレバノンのヒズボラ(Hizbollah)に関係する資金移動を支援したと指摘したネットワークと接点があったという。

また別の口座では、短時間のうちに南米カラカスと日本の大阪からログインが行われた形跡があったとされ、専門家は「規制下の金融機関であれば、調査や口座制限を検討する類いの事案になり得る」と指摘している。

FTはさらに、2022年4月に当時25歳のベネズエラ人女性名義で登録された口座が、その後2年間で約1億7,700万ドル(約275.8億円)相当の暗号資産を受領した事例を挙げた。この口座では、2023年1月〜2024年3月の14か月間に647回、紐づく支払先銀行情報が変更され、496の異なる口座が利用されたという。FTは、こうした動きが現金の出し入れを広域に分散させるような挙動にも見えると伝えている。

加えて、13口座のネットワークは2022年2月〜2023年3月にかけて、のちにイスラエル当局が反テロ法に基づき凍結した口座群から、米ドル建てステーブルコインUSDTで総額約2,900万ドル(約45億円)を受け取っていたという。送金元の大半は、マネーロンダラーのタウフィク・ムハンマド・サイード・アル=ロウ (Tawfiq Muhammad Sa’id AL-LAW) 氏に関連する4つのウォレットで、残りは「指定テロ組織の財産」と位置づけられた別ウォレットからだったとされる。アル=ロウ氏関連のウォレットはイスラエルが2023年5月に差し押さえ、米財務省外国資産管理局(OFAC)は2024年3月にアル=ロウ氏を制裁対象に指定している。

また、FTは13口座の相互作用が、闇資金の国際的ネットワークを示唆するとして、2021年にブラジル人男性名義で開設され、翌年に金の不法輸入・販売に由来する犯罪組織への関与容疑で起訴された人物の口座も例示した。

FTは、こうした事例が、バイナンスが2023年11月の合意で掲げたリアルタイムの取引監視や、高リスク顧客への継続的な顧客審査の実効性に疑問を投げかけると指摘している。

報道記事のなかでバイナンスはFTに対し、厳格なコンプライアンスと不正行為へのゼロトレランス方針を維持し、疑わしい取引は調査のうえ必要に応じて口座制限などの措置を講じていると主張した。また、問題視された取引時点では、関連ウォレットが制裁対象者に属しておらず、テロ資金供与としてのタグ付けもなかった旨を説明している。

報道では、創業者チャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao:CZ)氏が米国での銀行秘密法違反に関連して有罪を認めた後、2025年10月23日にドナルド・トランプ米大統領から恩赦を受けたことも背景として言及している。

なおバイナンスは、FTが取り上げた一連の疑義について、「虚偽であり、センセーショナルだ」と反論している。

参考:報道
画像:Reuters

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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