KelpDAO運営元がLayerZeroらを提訴
リキッドリステーキングプロトコル「ケルプDAO(KelpDAO)」を開発するエバークレスト・テクノロジーズ(Evercrest Technologies)が、クロスチェーン通信プロトコル「レイヤーゼロ(LayerZero)」を開発するレイヤーゼロラボ(LayerZero Labs)らを相手取り、カナダ・ブリティッシュコロンビア州最高裁判所に訴訟を提起した。ケルプDAOが9月25日に公式Xアカウントで発表した。なお、訴状は9月24日付となっている。
ケルプDAOは、ETHやステーキングされたETHなどを預け入れ、リステーキングによる報酬を得ながら利用できるトークン「rsETH」を発行する分散型金融(DeFi)プロトコルだ。
今回の訴訟は、レイヤーゼロを利用したユニチェーン(Unichain)からイーサリアム(Ethereum)へのrsETHブリッジで、4月18日に発生した資産の不正流出を巡るものだ。同ブリッジでは当時、不正なクロスチェーンメッセージが有効なものとして処理され、ユニチェーン側で対応するバーンが行われないまま、イーサリアム側のブリッジに保管されていた116,500rsETHが不正に払い出された。事案発生時点の価値は約2億9,200万ドル(約464億円)相当だった。
エバークレストが被告としたのは、レイヤーゼロラボ(LayerZero Labs)、レイヤーゼロラボ・カナダ(LayerZero Labs Canada)、レイヤーゼロ共同創業者兼CEOのブライアン・ペレグリーノ(Bryan Pellegrino)氏の3者だ。エバークレストは今回の事案を巡り、過失による虚偽表示、サービス提供上の過失、名誉毀損などを主張している。
エバークレストは事案への対応費用として、技術対応や法的対応にかかった費用に加え、rsETHの裏付け回復に向けて2,000ETHを拠出したことなどを挙げている。また事案発生後、訴状作成時のETH価格換算で6億5,000万ドル(約1,034億円)を超える資産がケルプDAOから引き出され、運用資産残高に連動する収益にも影響が生じたと主張している。
このほか、ケルプDAOのユーティリティ兼ガバナンストークン「KERNEL」の価格下落や、開発を予定していたステーブルコイン商品の計画への影響なども挙げられている。エバークレストは過失による虚偽表示やサービス提供上の過失に対する損害賠償のほか、名誉毀損に対する一般損害、加重損害、懲罰的損害などを求めている。訴状では具体的な請求総額は示されていない。
「1-of-1」構成巡りLayerZeroの責任を主張
レイヤーゼロは、異なるブロックチェーン間でメッセージを送受信するための基盤だ。今回のrsETHブリッジでは、ユニチェーン側のrsETHをバーン(焼却)し、その情報をレイヤーゼロを通じてイーサリアム側へ伝えることで、対応するrsETHをイーサリアム側で払い出す仕組みが利用されていた。
クロスチェーンメッセージの正当性を検証する役割を担うのがDVN(分散型検証ネットワーク)だ。DVNは、送信元のブロックチェーンで実際に対象となる処理が行われたかを確認する。今回影響を受けたブリッジでは、レイヤーゼロが運用する単一のDVNによる証明だけで処理できる「1-of-1」構成が採用されていた。
レイヤーゼロラボが5月に公表した最終レポートによると、攻撃は3月6日に始まった。攻撃者はソーシャルエンジニアリングを通じて同社開発者の環境へ侵入。その後、DVNがブロックチェーンの状態を確認するために利用していた同社の内部RPCノードを改ざんした。
さらに攻撃者は外部RPCプロバイダーにDoS(サービス拒否)攻撃を行い、DVNが侵害された内部RPCのみを参照する状態にした。その結果、DVNは実際には行われていないrsETHのバーンを示す不正なメッセージに有効な証明を生成した。
rsETHブリッジは1-of-1構成だったため、独立した別のDVNによる確認は行われなかった。これにより不正なメッセージがイーサリアム側で処理され、116,500rsETHが払い出された。
一方、今回の訴訟では、なぜこの1-of-1構成が採用されていたのかを巡って両者の主張が対立している。レイヤーゼロラボはケルプDAO側が同社の推奨に反して1-of-1構成を採用したと説明している。これに対しエバークレストは、レイヤーゼロ側が1-of-1構成を事前に確認・承認していたと主張している。
訴状によると、エバークレストは2024年2月、レイヤーゼロのデフォルト設定を利用していることを同社へ伝え、ブリッジのコードを共有した。レイヤーゼロ側はコードに問題はなく、デフォルトのDVN構成を利用することにも問題はない旨を回答したとされている。
さらに同年3月、一部ブリッジで利用していた第三者DVNを巡ってエバークレストが相談した際には、レイヤーゼロ側から、別のブリッジで採用されていたレイヤーゼロDVNによる1-of-1構成と同じ設定を利用するよう案内されたと主張している。
またエバークレストは2025年1月、レイヤーゼロのセキュリティインフラについて確認した際、DVNのインフラは複数地域に分散され、監視やアラート体制も備えているとの説明を受けたと主張している。同社はこうしたやり取りから1-of-1構成を安全に利用できると認識しており、複数DVNの利用を推奨されたことや単一DVN構成のリスクについて警告されたことはなかったとしている。
さらに訴状では、レイヤーゼロが2024年後半から2025年初頭にかけて、「USDT0」の開発チームにはデフォルトDVN構成に伴うセキュリティリスクを説明していたと主張されている。USDT0側はその説明を受け、独自のDVNを運用することにしたとのことだ。
レイヤーゼロラボは事案翌日の4月19日、自社DVNのみを利用する1-of-1構成のアプリケーションのメッセージには署名しない方針を示した。さらに5月には、自社DVNを高額取引における1-of-1構成として利用できる状態を許容していたことについて「誤りだった」と認めた。デフォルトのDVN構成についても、可能な限り「5-of-5」、少なくとも「3-of-3」へ移行する方針を示した。
事件後の発言巡り名誉毀損も主張
今回の訴訟では1-of-1構成を巡る責任に加え、事案発生後にレイヤーゼロラボとペレグリーノ氏が行った説明についても争われている。
レイヤーゼロラボは事案発生翌日の4月19日に公開した声明で、ケルプDAOの1-of-1構成について、同社が統合パートナーに一貫して推奨してきたマルチDVNによる冗長構成に反するものだと説明した。またペレグリーノ氏もテレグラム(Telegram)で単独のDVNに依存すべきではないとの趣旨の発言をしたほか、5月には自身のXアカウントで、高額な資産を扱うアプリケーションが1-of-1構成を利用するとは想定していなかったとの見解を示した。
エバークレストは、これらの説明が事案発生前のレイヤーゼロ側の対応と矛盾すると主張している。また、エバークレストがセキュリティ上の推奨を無視して1-of-1構成を独自に選択したとの印象を与え、同社の信用を毀損したとしている。ペレグリーノ氏個人によるXやテレグラムでの発言についても名誉毀損に当たると主張している。
一方ペレグリーノ氏は今回の提訴を受け、エバークレスト側の訴えには引き続き根拠がないとの見解を自身のXアカウントで示した。またカナダ・バンクーバーで争う姿勢を示している。
現時点でエバークレスト側の主張について裁判所による判断は示されていない。1-of-1構成を巡る事前のやり取りや両社の法的責任については、今後の訴訟で争われることになる。
— Kelp (@KelpDAO) September 25, 2026
Evercrest (KelpDAO) filed a notice of civil claim today in BC against myself and LZ. The claim continues to be meritless, will meet them in Vancouver and defend myself accordingly.
— Bryan Pellegrino (臭企鹅) (@PrimordialAA) September 24, 2026
参考:訴状
画像:PIXTA