ヴィタリック、ブロックチェーンの今後について語る
イーサリアム(Ethereum)共同創設者のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が、ブロックチェーンは「台帳」から「暗号技術によって安全性を確保された計算」へ移行しつつあるとの見方を示した。上海で開催された第12回グローバル・ブロックチェーン・サミットで9月23日にオンライン講演した。
ブテリン氏によると、過去約15年間でブロックチェーンに求められる性質は大きく変化したという。ブロックチェーンは誰でも参加でき、グローバルで安全かつ中立である一方、公開されたウォレットではプライバシーに課題がある。強力なデータ分析やAIが利用できる現在では、個人名と取引が直接結び付いていないだけでは十分なプライバシーを確保できないと指摘した。
また、従来のブロックチェーンでは、各ノードが同じ処理を再実行することで、取引や計算がルールに従っていることを検証する。この方法では多くのノードが同じ計算を繰り返すため、処理能力を拡大しにくい。また、検証に必要な情報を共有することからプライバシーにも制約がある。ブテリン氏は、こうした状況を変える過去10年間の大きな技術的変化として、SNARKやSTARKなどのゼロ知識証明を挙げた。
ゼロ知識証明を利用すると、ある参加者が計算を実行し、その結果が正しいことを示す暗号学的な証明を生成できる。他の参加者は計算そのものを再実行せず、証明を検証することで結果が正しいことを確認できる。また、計算に使われたすべての情報を公開する必要もない。このため、ブテリン氏はゼロ知識証明によってスケーラビリティとプライバシーの両方を改善できると説明した。
ブテリン氏は、こうした技術をイーサリアムへ導入する計画が、遠い将来のロードマップではなく、具体的なイーサリアム改善提案(Ethereum Improvement Proposal:EIP)として提案される段階に入ったと説明した。その例として、大量の署名や証明を効率的に扱うため、STARKを利用して1つの証明へ集約する「EIP-8288」を挙げた。
暗号技術の進歩によって、保護できる対象も変化する。ビットコインや従来のイーサリアムでは、暗号技術とコードが主に「誰が、どの資産を、いつ送れるのか」を決めてきた。これに対し、ブテリン氏は「誰が、どの情報を見ることができるのか」までコードで決められる「プログラム可能な暗号技術」の時代に入りつつあると説明した。データを暗号化したまま計算できる完全準同型暗号(Fully Homomorphic Encryption:FHE)や難読化技術なども、従来想定されていたより早く利用可能になるとの見方を示した。
またブテリン氏は、今後は計算が行われる場所もブロックチェーンだけではなくなると説明した。ユーザーの端末上で多くの計算が行われた後、トランザクションはブロックに取り込まれる前の取引が一時的に待機する「メンプール」などを通る。その後、情報の集約や複数の参加者によるブロック構築を経て、最終的にオンチェーンへ到達する。L1だけでなく、L2やメンプール、ユーザー端末などを含む一連の処理全体が、大きな暗号技術のネットワークを構成するとの考えを示した。
こうした構成では、すべての計算をブロックチェーン上で実行する必要がない。最終的にチェーンは残るものの、すべてのノードが処理する必要がある部分は小さくなり、それ以外をチェーン外で処理できるとのことだ。ブテリン氏は、こうした変化を、これまでの「台帳」から、計算を暗号技術によって安全に処理する「暗号学的なワールドコンピューター」への移行と表現した。
ブテリン氏は、こうした高度な暗号技術の実用化を支える要素としてAIも挙げた。従来はコードが複雑になるほどバグが発生する可能性が高まり、大規模な暗号技術のシステムで安全性を確保することが難しかった。一方、AIと形式検証、複数のテストや仕様などを組み合わせることで、より大規模で複雑なシステムを安全に構築できるようになると説明した。
形式検証は、プログラムがあらかじめ定めた仕様通りに動作することを数学的な手法で確認する技術だ。ブテリン氏は、異なる人やAIエージェント、チームが、同じ処理についてそれぞれ異なる方法で仕様を記述する例を挙げた。形式検証を利用すれば、それぞれの仕様が同じ内容を示していることを数学的に証明できる。異なる結果になった場合でも、人間が確認する必要のある範囲を小さくできるとブテリン氏は説明した。
ブテリン氏は、プライバシーをプログラム可能にし、複雑なコードの安全性を検証する技術が利用可能になりつつあると説明した。そのうえで、イーサリアムや他の分散型ネットワークと現実世界を組み合わせた、新しいアプリケーションの開発を呼びかけた。
参考:スピーチ・ウーブロックチェーン
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