暗号資産証拠金の実証開始
米商品先物取引委員会(CFTC)が、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、および米ドル建てステーブルコインUSDCをデリバティブ取引の証拠金として利用可能とするデジタル資産パイロットプログラムを開始したと12月8日に発表した。あわせて、トークン化担保に関する新たなガイダンスの公表と、旧来の一部スタッフアドバイザリーなど規制要件の撤廃も明らかにされた。
発表によれば今回の措置は、大統領直属のデジタル資産市場作業部会(President’s Working Group on Digital Asset Markets)による報告書の提言実施に向けたCFTCの「クリプト・スプリント(Crypto Sprint)」の一環として、CFTCが9月に開始したトークン化担保イニシアチブに続くものだという。
今回の措置では、CFTC登録の先物取引業者(FCM)が、一定条件のもとで暗号資産(仮想通貨)を顧客証拠金として受け入れ可能となる。初期の3カ月間における対象資産はBTC、ETH、USDCに限定され、週次での保有残高報告や、システム障害などの即時報告義務も課される。
この枠組みは、FCMが暗号資産証拠金の評価を証拠金計算や分別管理に反映することを、CFTCが当面法執行(エンフォースメント)の対象としないとするノーアクションレターによって実現している。
同レターでは、DCO(清算機関)が認めたデジタル資産については、その市場評価と掛け目を適用可能であること、ステーブルコインについては、FCM自身の「残余利益」として顧客分別口座に預託することが認められること、といった重要な整理が示された。
また、CFTCは同日、トークン化された現実資産(RWA)を証拠金として利用する際のガイダンス(CFTCレター25-39)も公表した。対象となるのは、米国債、社債、マネーマーケットファンド(MMF)の持分、株式などのトークン化資産だ。
ガイダンスでCFTCはトークン化証拠金について、流動性・信用力・満期に基づく適格性、破綻時にも担保権が有効となる法的所有権の裏付け、顧客資産の分別管理およびカストディ体制、原資産と同等のリスクベースに基づく掛け目と評価方法、ハッキングやシステム障害を含むオペレーションリスク管理の5点を主要論点として整理した。
さらに今回、2020年に発行された「暗号資産を顧客分別管理に受け入れる際の制限(CFTC Staff Advisory 20-34)」は即時撤廃された。CFTCは、2025年7月に成立した米ステーブルコイン包括規制「GENIUS法」の制定など、デジタル資産市場と制度面の進展により、このガイダンスはもはや時代遅れになったと判断している。
今回の決定については、米大手暗号資産事業者から歓迎の声が上がっている。
コインベース(Coinbase)の法務責任者であるポール・グレワル(Paul Grewal)氏は、「CFTCの決定は、ステーブルコインとデジタル資産が決済を迅速化・低コスト化し、リスクを低減できるという、業界が長らく主張してきた点を裏付けるものだ」と評価。「トークナイズドなイノベーションこそが金融の未来であり、このGENIUS法が想定していたように、デジタルイノベーションが伝統的な金融分野を変革・改善できる。この動きに他の規制当局にも続いてもらいたい」と述べた。
またサークル(Circle)のプレジデントであるヒース・ターバート(Heath Tarbert)氏は、「CFTC規制下の市場で適切に監督されたペイメント・ステーブルコインを展開することで、顧客保護と決済の摩擦低減、24時間体制でのリスク削減が可能になり、グローバルな規制相互運用性を通じて米ドルのリーダーシップ強化につながる」とコメントした。
また、クリプトドットコム(Crypto.com)のCEOであるクリス・マルザレク(Kris Marszalek)氏は、「今日は暗号資産業界の歴史における重要なマイルストーンだ。将来に向けた規制上の確実性が与えられた」としたうえで、「このガイダンスにより、米国でも24時間取引が現実になった」と述べ、これまで域外でのみ可能だったトークン化証拠金取引が、ついに米国内で本格的に認められることの意義を強調した。
CFTCのキャロライン・ファム(Caroline D. Pham)委員長代行は、「責任あるイノベーションを受け入れることで米国市場は世界のリーダーであり続け、市場参加者が安全に資金をより賢く活用し、より遠くへ進めるようにすることで、米国の経済成長を加速させる進歩を後押しできる」と述べた。
CFTCは今年に入りクリプト・スプリントを掲げ、暗号資産の制度整備を急ピッチで進めてきた。
9月にはトークン化担保とステーブルコインの活用に関するイニシアチブを立ち上げ、規制の方向性について市場との対話を本格化させている。
さらに12月には、CFTC登録取引所において上場型の現物(スポット)暗号資産商品が米国で初めて取引開始されると発表しており、暗号資産市場の制度化が実取引の段階へと踏み出した格好だ。
参考: CFTC
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