ブロックチェーンを取り巻く誇張への警鐘

スケールするのが難しい

最後に、中央集権と比べたときに桁違いに難しいことの1つがスケーリングである。

理由はもう明らかな通り、データが1つの場所ではなく、何千もの場所に散りばめられているからである中央集権システムだと一度で済むが、ブロックチェーン上ではデータの送付、データの検証、データの保管などの数が莫大で、毎回それに対するコストがかかってくる。

もちろん、ノードの数を減らすことによって送付や検証や保管の回数を減らすことができる。しかしそうなった場合、そもそも分散型のブロックチェーンにする必要があるのだろうか?もしスケーリングのコストが主な懸念点なら、中央集権で良いのではないか?

中央集権のほうがよっぽど簡単である

この記事の主張に気づいている人もいると思うが、ここで言いたいのは、分散型システムは構築が難しく、管理コストは高く、アップグレードも煩雑で、スケールもコストがかかるということだ。中央集権システムの方がよっぽど早く、容易に構築でき、管理やアップグレードも簡単である。

では一体なぜ多くの人がブロックチェーンを万能薬のように捉えているのだろうか。

「ICOのあとはブロックチェーンを使った革命的なプラットフォームで….」「ブロックチェーンだと!?」「それは分散型台帳で….」「ブロックチェーンは処理が遅すぎるデータベースだろう!!」

まず、ブロックチェーンに夢中になっている業界の多くが非常にITインフラのアップデートに出遅れているという特徴がある。ヘルスケアのソフトウェアは散々だと悪名高いし、金融業界は1970年代に構築されたソフトウェアの上で動いている。サプライチェーン管理ソフトは使いにくいだけでなく、導入することさえも困難だ。このような業界の多くは、リスクを恐れてITの発展について行こうとしない。導入するのに何百億円かかった挙句、結局やめて元に戻ってしまうということが多い。ブロックチェーンはそういったITインフラをより興味をそそる風に見せるための方法である

次に、ブロックチェーンを導入していれば、テクノロジー業界の最前線でいるように見える。今日のブロックチェーンはそれだけで1つの形になってしまった。本当にそれが何であるかを理解している人は非常に少ないが、自分を賢く見せるためにブロックチェーンという言葉を使う人は大量に存在する

「クラウド」の本当の意味は「他の人のコンピュータ」であり、「AI」の本当の意味は「変なアルゴリズム」であるのと同じで、「ブロックチェーン」も実際は「遅くてコストが高いデータベース」なのである。

また、ある業界においては政府による管理を非常に嫌う人が多く、法的フレームワーク(大抵遅くて高い)ではない何か違う裁定メカニズムを欲している。そのような人にとってブロックチェーンは政府の管理を除去できる強力なツールである。しかしこれは、ブロックチェーンを過大評価している。ブロックチェーンが魔法のように人間同士の紛争を解決してはくれない。

上記の要因のせいで、多くの人がブロックチェーンの能力やコストを本当に理解しないまま誇張する状況になっているのだ。さらに悪いことに、VCや業界の大物たちによってブロックチェーンの技術詳細がぼやかされていて、ブロックチェーンが何をできて何をできないかという点が不明瞭になってしまっている。話が上の空である。そのようなVCや業界の大物たちの下で働く人は「本当はブロックチェーンを理解していないでしょう」と楯突くことはできず、現状が改善されないのだ。

ではブロックチェーンは何に適しているのか?

中央集権のデータベースと比べて、ブロックチェーンはコストが高いということは説明した。そのような状況でブロックチェーンを使う唯一の理由が「分散化させるため」だ。つまり、単一障害点や単一管理者をなくすということである。

分散化するということは、そのソフトウェアやデータベースに変更を加えることはほぼ無いということになる。変更を加える時のメリットよりリスクの方が格段に多くなるからだ。

しかし、多くの産業がそれに当てはまらない。普通は新たな機能やアップデートを常にしなければならないし、いざとなったら変更も加えられるくらい自由でないといけない。しかしブロックチェーンには「変更を加えることができない」という特徴があるため、ほとんどの産業がブロックチェーンに適していないということになる

しかし、1つだけブロックチェーンに適した産業があった。カネである。

上述の産業とは違い、カネに変更が加えられると困るだろう。変更に対する免疫と、そもそも変更するのがこんなんであるという特徴はカネにとっては大きなメリットになる。だからビットコインはブロックチェーンの最適な活用法だと言われているのだ。

明確に言えることは、ブロックチェーンを活用しようとしている多くの企業が本当に欲しいものはブロックチェーンではない。IT技術のアップグレードである。もちろんアップグレードは必要であるが、ブロックチェーンという単語を使ってアップグレードをした気になるのは不誠実だ。

まとめ

ブロックチェーンは最近のバズワードになったが、「ブロックチェーンとビットコインを混同するな(Blockchain not Bitcoin)」という論は消えないだろう。もしあなたが中央集権システムでサービス提供していて、ブロックチェーンの導入を考えたとしよう。忠告しておく。中央集権システムでできることをブロックチェーンがその1000分の1のコストでできるようなことはあり得ない。

2000年代初頭、テクノロジー業界の大物の多くによってJavaとXMLを使うべきだという議論が強くおこなわれた。JavaとXMLはプロダクトではなく、あくまでツールに過ぎないにも関わらず彼らはそれらを活用すべきだと主張した。エンジニアが作ろうとしているものとどんなにフィットしなくても、主張を続けた。ブロックチェーンもこれに似ている。使うツールにこだわり過ぎて、特に何も上手にこなさないルーブ・ゴールドバーグ・マシーン(簡単にできることを複雑に行うマシーンのこと)を作ってしまう。

分散型システムのセキュリティの強さを中央集権型の管理システムで達成したいと人々が考えていることからもわかるように、昨今のブロックチェーンと呼ばれる概念は、ある意味不可能を可能にするものというイメージがある。みんなが欲しいのは分散型と中央集権のいいとこ取りであるが、それを求めた場合最終的に手に入るのは、両者の悪いとこ取りである。どういうことかというと、分散型システム並みのコストと難易度の高さを、単一障害点を持つ中央集権型システムで構築しまう。

ブロックチェーンは、不要なものを売りつけるために使われるバズワードに成り下がってしまった。ブロックチェーンを取り巻く誇張をいかに早く取り除けるかが、長期的に見た我々の発展に直結する。

 

原文: Jimmy Song@jimmysong)「Why Blockchain is Hard

photo:iStock/suphakit73・Dmitry Volkov

この記事の著者・インタビューイ

飯田 諒

あたらしい経済編集部。
ブロックチェーンをはじめとするテクノロジーが今後の経済をどう変えるのかを考えています。
インタビューを通して人の想いをメディアで伝えるのが好きです。
英語が得意なので、海外コンテンツの配信や外国人インタビューをします。Twitterにてお気軽にご連絡ください。

あたらしい経済編集部。
ブロックチェーンをはじめとするテクノロジーが今後の経済をどう変えるのかを考えています。
インタビューを通して人の想いをメディアで伝えるのが好きです。
英語が得意なので、海外コンテンツの配信や外国人インタビューをします。Twitterにてお気軽にご連絡ください。

合わせて読みたい記事

【取材】ハンコレスを目指して。日立製作所がブロックチェーンで電子署名サービスを開発した背景と今後

株式会社日立製作所がブロックチェーン(分散型台帳)技術によるセキュアな電子契約を実現する「日立電子署名サービス」を開発したことを3月3日に発表した。目的はハンコレスの推進だ。 リリースに関する詳細情報は「ハンコレスを推進へ、日立製作所がブロックチェーンを活用した日立電子署名サービスを開発」で掲載している。

【取材】オードリー・タンが語る、政府のデジタル化、ブロックチェーン、中央銀行デジタル通貨

立憲民主党などの国会議員で構成された「科学技術イノベーション議員連盟」の「オードリー・タンIT担当大臣(台湾)」による特別講演会が3月10日衆議院議員第2議員会館で開催された。オードリー大臣はリモートで登壇した。 講演会の開始前、リモート画面に姿を現したオードリー大臣は「この画面をスクショしてツイートしてもいい?」と確認し、開始前の会場を和ませた。

ゲームで稼げる時代が来る!? 書籍『ブロックチェーンゲームの始め方・遊び方・稼ぎ方』試し読み

本書では、新社会で生まれた新たな稼ぎ方である「ブロックチェーンゲーム」をご紹介します。 今までのゲームでは、どれだけすごいアイテムを手に入れても、どれだけ素晴らしい功績を挙げても、それはゲーム内だけの話でした。しかしブロックチェーンゲームは、ゲーム内での働きを、実際のお金に変えることができます。ゲームの中の冒険を通じて、現実世界でも功績を立てることができるのです。 またブロックチェーンゲームには、ユーザーがやりがいを感じるような様々な仕組みがあります。

【取材】経理のDXを加速する「LayerX INVOICE」が提供する価値(LayerX 牧迫寛之氏インタビュー)

株式会社LayerXは今週、同社が提供する請求書AIクラウド「LayerX INVOICE(レイヤーエックス・インボイス)」と弥生株式会社「弥生会計」、ピー・シー・エー株式会社の「PCA会計」、株式会社オービックビジネスコンサルタントの「勘定奉行シリーズ」との連携を相次いで発表した。