マイクロペイメントが私たちの生活を変える PoT #03-1 AnyPay大野紗和子×フロンティアパートナーズ今井崇也

藤本真衣

Proof Of Talkについて

「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。

今回はAnyPay株式会社 代表取締役 大野紗和子氏とFrontier Partners合同会社 代表CEO 今井崇也氏とのトークセッションを全4回でお届けします。

(今までのすべてのProof Of Talk(PoT)」はこちら

フィンテックで世界をより便利にして、新しい価値のあるものを生み出す

大野紗和子(以下 大野):私たちAnyPayはセキュリティトークンに関する事業をやっています。その中で、国をまたいだインターオペラビリティ(相互運用性)や、ユーザーにどう流動性を提供していくか、そしてコンプライアンスをみんなでどう対応していくかということが、すごく大事だと感じているんです。やはりどうしてもアメリカやヨーロッパを中心にサービスが生まれがちなので、だからこそAnyPayがそこにアジアの視点をちゃんと伝える役割を果たしていきたいと思っています。

藤本真衣(以下 藤本):確かにそうですね、素晴らしいです。

今井崇也(以下 今井):AnyPayさんはブロックチェーンやトークンとは関係ないペイメント事業をされていますよね。そのあたりの事業の全体像はどのようになっているんですか。

大野:AnyPayの事業はフィンテックが軸になっています。フィンテックの分野って今までは大きな会社だけが取り組むもので、フレキシブルではないところが多かったと思います。例えばペイメントでは、決まった時間しか送金ができなかったり、海外送金コストや送金時間がかかったりしますよね。

そのようにフレキシブルではないので、みんながお昼にATMに並んだり、割り勘の時に千円札などの細かいお金を持ってないと駄目だったりとかしますよね。そういう細かいストレスとか社会の無駄なものって世の中にはまだまだたくさんあると思うんです。

AnyPayとしては、そういったフィンテック・ファイナンスの世界をテクノロジーでより便利にして、新しい価値のあるものを生み出そうとしている小さな会社や個人をサポートしていきたいと思っています。

例えば農業でいくら土と種があっても、水がないと農作物が育たないですよね。それと同じでフィンテックでお金を流れやすくすることはもちろん、今まで流れが必要だったけど、それがなかったところに流れを作っていくことが大切だと思うんです。そういう意味合いで資金調達を支援するICO(Initial Coin Offering)やSTO(Security Token Offering)も、そういったコンテクストで同じように価値があると思ってやっています。

マイクロペイメントの可能性

今井:僕がやっているライトニングネットワークなどのオフチェーンの技術の一面は、小さいお金をどうやってみんなが支払うか、どうやって手間のかかる契約書を書かずに取りこぼしなく安全に取引相手からお金を受け取るか、という話です。マイクロペイメントの実現です。2つ目の話は、翌月末にまとめて受け取りではなく小さいお金を細かく受け取れば、相手が途中で詐欺師とわかった段階で取引をやめられるし、それまでにはきちんとお金を受け取れている。

例えばインターネット使用料の支払をする場合、みんな接続毎に30秒単位で1円単位の細かいお金をいちいち支払うって面倒ですよね。だから企業なども幾つかの細かい決済を月末にまとめて請求したりしているサービスが主です。そして管理コストの関係で明細1回当たり1円単位にはせず、30分当たりいくらとかにして数十円単位にする。または定額使用料にして料金に気にせず使っていただけますという感じにする。

食べ放題もそうですが、平均的に実は定額使用料まで使わないけど、定額安心感を売りにすることで企業は利益を得る。ただこの場合、消費者目線からすると無駄が生じています。使わないときに生じる、払わなくてもいいお金も払っている。効率が全てではありませんが、改善の余地はあります。

その問題をどうにかできないか考えていた時に、機械の方がそれらと親和性高いと思ったんです。ただし月当たりの支払い上限など枠組みは人間が決めるわけですが、そのようにすると例えば細かいお金のやり取りは機械に勝手に調整してほしいと感じるようになると思います。

自律的な自動車の話などが分かりやすい例ですね。例えば自動車で道を走っている時に前に遅い車がいたら、前の車に少額のお金を支払って道を譲ってもらう、みたいなことができたらすごく便利ですよね。でもいちいち車を止めて手渡しでお金を支払うなんて馬鹿げているわけで。だから自動車同士が自動に送金することで追い越しができたりするようなことが実現したらいいと思っています。(参照: 勝手にGracone対談 vol.23 )

自動車の話は少し未来の話かもしれませんが、スマートフォンは現在でも半分自律的な機械になってきているので、そういった機械間で自動に決済して、双方のメリットを生むということが近い未来に実現するんじゃないかと思っています。

今年のMUFJコインのハッカソンの時に「ピークシフト通勤貯金」というアイデアが出たんですが、それは面白いなと思いました。朝みんな満員電車に乗りたくないと思いつつも、乗って通勤していますよね。少し通勤時間を早めたりすることは満員電車を避けることができるぐらいのインセンティブしかないので。

でもその「ピークシフト通勤貯金」というアイデアでは、例えば通勤する人たちのスマホのGPSを管理して、通勤する人が少し前の電車に乗ったら勝手に1円とか5円ぐらいの価値の少額のコインがもらえるという仕組みを提案していました。

大野:それ面白いですね。

今井:人々の通勤時間をピークからずらすことで、小さなインセンティブが加わって通勤ラッシュが緩和できるかもしれない。そうなるとJRさんのような鉄道会社さんはそこにお金を出すんじゃないかと思います。通勤ラッシュが緩和されれば、ラッシュ対応している駅のスタッフの人件費が削減できますからね。そういった小さなお金が動いて、みんなのアクションが変わっていくのは面白いと思いますね。

ブロックチェーンと新しい技術の組み合わせは新しい経済が生む

大野:私もその部分はすごく面白いと思います。ブロックチェーンとIoTデバイス、そしてこれから5Gとの組み合わせで、新しい単位のそれぞれの経済が生まれてくると思うんですよね。ブロックチェーンの非改ざん性やスマートコントラクトがあることで、自律的な最適化が図れると思っています。経済的な最適化と、人間の生活や仕事の質の最適化がリンクしていくと思っています。

例えば電子広告パネルなどにも、ルールベースのフィッティングシステムみたいなものが組み込まれていて、自律的に何を表示するのが最適かを判断して目の前を歩いた人に対して最適なものを表示されるみたいなことができるようになると思います。

そういった仕組みとセキュリティトークンが組み合わせられれば、その電子広告パネル設置する時にファンディングした人が、その広告の稼いだうちの何%かを貰えるみたいなこともできるようになるわけです。

セキュリティトークンを使って出資を集めて前述のようななにか「モノ」を設置して、それが自律的に最適な形でお金を稼いだら、出資したユーザーにその収益の一部が還元されるようなメリットが生み出せます。

そういう仕組みだと、より効率的にお金が回っていくと思うんですよね。今まで一つの会社などの機関で人がそれを管理している時は、そこまで細かい最適化ってなかなかできなかったと思うんです。だから私もマイクロペイメントとIoTを組み合わせた経済ってすごく可能性があるなって思います。

ペイメントはSNSに似ている

今井:マイクロペイメントが普及するには、まずユーザーが支払うというよりは、ユーザーが受け取るところから始まると僕は感じています。少額でもやはり支払うのってハードルがありますが、逆に自動的にコインがもらえるならみんな例えばアプリをダウンロードして積極的に参加すると思うんですよね。

藤本:確かに私もそう思います。

大野:今までのAnyPayの決済事業でもそういう傾向が強いですね。最初に残高があると、みんながじゃあそれを使ってみようというアクションをしますよね。

そして私はペイメントというのはSNSに近いものだと感じています。実際に自分の関わりがある人との繋がりを通して、メッセージのようにペイメントが存在すると思っています。だからまず知り合いや会社の残高からお金をもらえて、それをまた使う用途があってという風に、人と人との繋がりを通して広がっていくと思っています。

(第2回つづく →第2回「機械に仕事が奪われても幸せな未来」はこちら

インタビューイ・プロフィール

大野紗和子
AnyPay株式会社 代表取締役
東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、Google株式会社にてインダストリーアナリストとして、経営・マーケティングのアドバイザリーを行うと共に、オンラインマーケティング関連のリサーチプロジェクトに従事。東京大学教育学研究科特任研究員として、スマートフォンを用いた認知行動学研究に参加。2016年よりAnyPay株式会社にて取締役COOを務めた後、2018年より代表取締役に就任。

今井崇也
Frontier Partners合同会社 代表CEO
1980年新潟県生まれ。小学校5年のときにMS-DOS, Basic, Cでプログラムを書いてコンピュータで遊び始める。27歳で新潟大学大学院にて素粒子理論物理学で博士号(理学), Ph. D. を取得。カカクコム株式会社に入社し、検索エンジンのサーバ運用開発/ソフトウェア開発/R&D/大規模データ分析/チームマネジメントの業務を経験。そこで商品画像から商品の色情報を自動的に取得する画像処理アルゴリズムを研究し、色による商品検索システムを開発および実用化。入社当初10人未満だったBizMobile株式会社に転職し、MDM(Mobile Device Management)のデータ蓄積システム構築/データ分析/データ可視化業務を経験。マスタリングビットコイン日本語訳書籍「暗号通貨を支える技術」代表翻訳者。また、33カ国を旅してきた経験も持つ。ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、インド、北米、南米、イースター島、アフリカ。バックパッカーとして一人旅をし安宿をまわり多様な文化、民族、人種と交流。特に南米、インド、アフリカでの旅から大きな影響を受けた。2014年4月21日にFrontier Partners合同会社を設立し、現在代表CEO&創業者。データタワー株式会社代表取締役。United Bitcoiners Inc. 取締役&共同創業者。東京大学客員研究員。日本初のライトニングネットワークハッカソン主催者。

(編集:設楽悠介・大塚真裕子 / 写真:堅田ひとみ)

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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例えば現在ゲームの中でモンスターを倒したら、一般的にもらえるのはゲーム内専用のゴールドみたいなポイントじゃないですか。そのインセンティブをリアルなお金に交換できるようにできたら、朝はゲームして、それでそこで稼いだゴールドを使って現実世界でお昼ご飯食べるみたいなこともできるようになりますよね。

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去年からブロックチェーンの事業で、ICOコンサルティングをやっていました。その中で今年のはじめころからセキュリティトークンが注目を集めるようになってきました。セキュリティトークンの今までのICOで主だったユーティリティトークンとの違いは、トークンの価値がセカンダリー市場や需給のバランスだけでなく、何かしらの価値に裏付けされていることです。

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今ブロックチェーン業界として、どういうプロトコルに集約していくべきかをみんなが考えている状況です。既にpolymathが主導しているEIP 1400など幾つかの規格があります。ただ流動性が投資家にとって一つの重要な価値なので、スタンダードになるプロトコルが必要だと思います。