機械に仕事が奪われても幸せな未来 PoT #03-2 AnyPay大野紗和子×フロンティアパートナーズ今井崇也

藤本真衣

自分がどの世界で活躍して生きるかを選べる未来

今井:例えば現在ゲームの中でモンスターを倒したら、一般的にもらえるのはゲーム内専用のゴールドみたいなポイントじゃないですか。そのインセンティブをリアルなお金に交換できるようにできたら、朝はゲームして、それでそこで稼いだゴールドを使って現実世界でお昼ご飯食べるみたいなこともできるようになりますよね。

大野:それ面白いと思います。今までの多くのオンラインゲームはリアルマネートレードが禁止されていたじゃないですか。いくらオンラインゲームをやりこんでいる人でも、ゲーム内のインセンティブでは生活ができないから、現実では他の仕事をして生計を立てるわけですよね。

もちろんゲーム実況でマネタイズしている人はいますけど、それはごく一部で基本は現実世界とゲームはリンクしてないですよね。

私は自分がどの世界で活躍して生きるかって、もっと自由に選べていいんじゃないかなって思っています。だから今おっしゃったみたいなオンラインゲーム内のゴールドと現実世界のお金のトレードができたら、生き方も自由になるのかなと思いますね。

あとは、今までのオンラインゲームやコンテンツって、運営側とユーザー側に明確に分かれていたと思います。でもブロックチェーンを使えば、これからは全部のサプライチェーンを一つの会社がやりきるのではなくて、コンテンツを作るところも、レビューやマーケティングも個人が参加しながら一緒に作っていくような仕組みができると思います。そうするとゲームやコンテンツの広がりが出ると思うんですよ。

例えばゲームでいうと新しいアイテムをクリエイターの人が参加してP2Pのような形で売ったりすることができてもいいと思います。そのエコシステムに貢献した人がトークンを受け取ることができる。そうすると、そのゲームの世界の価値がどんどん上がってみんなが幸せになる。そういうオープンイノベーションのようなものとトークンエコノミーはすごく相性がいいなって思っています。

ライトニングネットワークで面倒な契約書を書かずに安全に送金ができる

今井:僕は今、「Hibanaウォレット」というライトニングで受け取りがサクッとできるウォレットをリリースしようと思っているんです。それを今話に出たゲームなどに使うのは面白いと思っています。

一般的なライトニングウォレットはユーザー側からチャネルを開く必要があって、そうなるとお金を一度デポジットして、チャネルを開いて、コンフォメーションを待って、やっと使えるという流れになります。それだとすごく面倒なんです。

だから「Hibanaウォレット」は、アプリをダウンロードすると運営側からチャネルを開くことができる仕組みになっています。だからユーザーはチャネルをよく理解していなくてもとりあえずアプリをインストールすれば煩雑な作業なくトークンの受け取りだけはできるようになります。

そのような仕組みを使えばゲーム以外にも広告にも使えると思っています。現在の広告の仕組みでは広告主は広告代理店にお金を払っていますが、正直広告を見せられる側には特になんのメリットもない状況です。そこで、見る側が広告をクリックしたらお金がもらえるみたいな仕組みもありだなと。

でもその仕組みを実現するためには、金銭のやりとりが発生するので、広告を見る側が必ず契約書を結ぶ必要があるわけです。でも今の広告主はたくさんいますよね。広告を見て少しのお金をもらうために、ユーザーがいちいち広告主ごとに契約書を書くとかありえない(笑)。

大野:そうですよね。

今井:でもライトニングネットワークを使えば、面倒な契約書を書かずに安全に、スマートコントラクトで送金することができるので、すごい親和性があると思っています。そういう意味で広告というジャンルが合うと思って、ライトニングネットワークを使ったウォレットの開発を進めています。

中央集権的なプラットフォームの課題

大野:面白いと思います。今まではユーザーのオンライン上の行動や自分のデータに価値があるって、自覚しづらかったと思うんです。

例えばプラットフォームにレビューを書くのも、現在は自己満足的な位置づけもあると思うんです。でも本当はその行為はプラットフォームの価値に貢献しているわけです。だから最近のSNSの流れの中で、もうちょっとユーザーが自分自身の情報や行動の価値を自覚して自分で管理できて、メリットを享受していこうという流れがあると思うんです。そういったところにブロックチェーンはすごく相性がいいのかなって思います。

今井:そうですね、確かに。先日Facebookのデータの問題があったじゃないですか。あれは裏側には大企業が個人情報を原価0円で取得してお金に変えていることに対してのユーザー側の反感でもあると思うんです。だからユーザーとしてはそういうものをできるだけ高く企業側に売りたいわけです。高く買ってくれれば嬉しいので売りたいですが、しかしその都度契約書を書くのは面倒くさい。だから機械が自律的にやってほしいと思っています。

大野:ブロックチェーンを使えばユーザーが自分の情報をどういうプラットフォームだったら売りたいというのを選ぶことができますし、いざとなったらどこに自分の情報を売ったのかとかを遡って確認できるようになりますよね。その部分もやっぱりブロックチェーンと相性がいいところだなと思います

以前私がGoogleで働いていた時はビッグデータの分析する仕事をしていたんですが、やはりユーザーにとってもビッグデータを元にレコメンドがされたりすることによって生活が便利になる面もすごくあると思うんです。

ただおっしゃったように現在は大きな企業が無償でビックデータを取得して、それで収益を得すぎていて正直今はバランスが悪いと思っています。

そのバランスを取り戻すってことが大切だと思っています。ユーザーが自分のデータを提供することで金銭的なメリット以外にも自分に最適化されたサービスを受けられるみたいなプラスもあるわけですから、そこのバランスを見ながらオーナーシップとコントロールを自分が取れるようにしていくっていうのが健全な姿だと思いますね。

現代人と仕事

今井:現在、ゲームやSNSなどの色んなサービスが個人の時間の奪い合いをしているじゃないですか。いかにユーザーに時間を使わせるかをプラットフォーム側みんなが考えていますよね。でもそれによってみんな疲れてきている。SNS疲れとか多分時間を吸い取られている感覚に似ているのかもしれないですね。仕事も忙しいのでさらに時間をSNSなどに時間を吸い取られているみたいな感じで。

大野:そうなんですよね。そして情報量が多いから疲れてしまうんですよね。

今井:産業革命以前は、おそらくもっとみんなに時間が余っていたと思うんですよ。時刻を告げる町の教会の鐘はありましたが、庶民がよく使う腕時計なんかなかったわけで。確か庶民向けの腕時計が発明されたのが1800年代後半くらいだったと思います。だから個人の中で時計が細かく刻まれ始めたのがまだ結構最近で、しかも世界共通時間みたいな概念が生まれたのもここ100年経ったくらいですよね。

それ以降はみんな時間に追われるようになった。何時何分から打ち合わせがあるとか、何時何分までにミーティングに行かなくてはならないとか。

もちろん昔は昔で農機具や機械がなくて生活するのは大変だっただろうと思いますが、でも時間の縛りがないことって結構生活する上で重要なんじゃないかと思っています。

藤本:『サピエンス全史』の中にも昔人間は麦の奴隷だったみたいな話があるじゃないですか。人間の仕事のあり方とかを考えたときに、さっきの時間を吸い取られるって話すごく共感できます。私の理想の生き方は時間を吸い取られて削減されていくのではなくて、やりたいことをやってそれが誰かの役に立ってそのことでインセンティブをもらえて生活ができる。そういう流れのほうがいいなと思っています。

大野:わかります。私もミヒャエル・エンデの『モモ』という本が子供の頃から好きなんです。

その内容は、灰色の男たちが人々に将来のために時間を貯金することを勧めてきて、多くの人々が未来のためにせっせと働いて時間を貯金していって、楽しくない生活を送る人が増えてくる、それを主人公の女の子が取り戻すという寓話なんです。

この話は今までの話と近いと思います。現代の人たちも忙しく働いているけど、それはなんのために働いているのだろうっていう感覚がどこかにあると思いますね。

今井:確かに、そうですよね。会社は事業としてお金を生み出さなきゃいけないというのはあるんでしょうけど。今後、経済構造の既存の仕組みと非中央集権的な仕組みとが、どのくらいの比率で融合するのが最適なのかよく考えています。

例えば昔ケインズが、今後労働時間が減っていって週3日くらいになるというような内容の簡単なレターを書いていたんです。もちろん働くこと自体は、人がなにかに貢献したりする意味があると思います。でもそれ以外でお金を稼ぐ仕組みや雇用される最適時間な時間というのはどれくらいか興味がありますね。

大野:なるほど。昔の人たちは仕事とプライベートの境目や、仕事が生きがいっていう感覚がなかったと思うんですよね。ご飯を食べるために、毎日農作業をして生きる。現代のように仕事を生きがいだと捉えるようになったのは、宗教改革あたりだと聞いたことがあります。

もちろん現在の仕事が生きがいという考え方にもすごくいい側面があると思います。一週間の中で時間を長く使うのは仕事だから、そこにやりがいを見出したほうが絶対に幸せですよね。ただ、そのバランスが崩れてしまって自分で時間がコントロールできなくなってしまうと世界が窮屈になってしまうので、最適な比率は大事だと思います。

機械に仕事が奪われても幸せな未来

今井:機械が仕事を奪うみたいな話がありますが、それはただ全部が全部を奪うことではないと思っています。なぜなら仕事を作るのは人間で、その仕事を効率化するために機械は使っていくわけです。しかし、経営者側はより効率化がしたいはずなので、別に雇う必要がないんだったら労働力を減らす可能性は確かにあります。

ただその時に色々な部分を機械が稼いでくれれば、その技術の進展がしていくにつれて、よりいろんなところからみんなにお金が入ってくるようになるはずです。おそらく雇用される時間は少なくなって、例えば月当たり2~3万円くらいのお金を機械がちょっとずつだけ集めてきてくれたら、それはそれで結構いいのかなって思っています。

大野:そうなると時間ベースでの報酬を得る仕組みから、アイデアや仕組みを作った人がより報酬を得られることが明確になってくると思います。

自分の時間を割いて報酬をもらうんじゃなくて、そういう仕組みを作ることの価値が今後高まっていくんだろうなと思います。

最近は、フィンテックやブロックチェーン、VRなど人の働き方をより自由にするパーツが出揃ってきているなと感じますね。子供がいる人や介護をする人がいかに働きやすい環境を作るかが日本にとってこれから重要なことだと思います。だからVRを使った遠隔会議や給与の新しい支払い方法など、それらの人の働き方をより自由にするパーツによって今後あたらしい働き方が生まれてくる予感がします。

あと長い目で見れば、株式会社自体のあり方もブロックチェーン上に法人を登記していくようになると思うんですよね。株主もその会社で働いている人もブロックチェーンで登録されている。そしてそのプロジェクトに参加しようとしている人はそこで契約をして給与も払われる。

勝手に決済もすべてスマートコントラクトで行われるみたいな世界も長い目で見たらあると思っています。そういった仕組みが普及すれば働き方とかがもっと自由になっていくのかなって思います。そこのファンドレイジングをセキュリティトークンでやるっていうようになってくると思います。

(つづく →第3回「セキュリティトークンで広がる、投資の可能性」

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インタビューイ・プロフィール

大野紗和子
AnyPay株式会社 代表取締役
東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、Google株式会社にてインダストリーアナリストとして、経営・マーケティングのアドバイザリーを行うと共に、オンラインマーケティング関連のリサーチプロジェクトに従事。東京大学教育学研究科特任研究員として、スマートフォンを用いた認知行動学研究に参加。2016年よりAnyPay株式会社にて取締役COOを務めた後、2018年より代表取締役に就任。

今井崇也
Frontier Partners合同会社 代表CEO
1980年新潟県生まれ。小学校5年のときにMS-DOS, Basic, Cでプログラムを書いてコンピュータで遊び始める。27歳で新潟大学大学院にて素粒子理論物理学で博士号(理学), Ph. D. を取得。カカクコム株式会社に入社し、検索エンジンのサーバ運用開発/ソフトウェア開発/R&D/大規模データ分析/チームマネジメントの業務を経験。そこで商品画像から商品の色情報を自動的に取得する画像処理アルゴリズムを研究し、色による商品検索システムを開発および実用化。入社当初10人未満だったBizMobile株式会社に転職し、MDM(Mobile Device Management)のデータ蓄積システム構築/データ分析/データ可視化業務を経験。マスタリングビットコイン日本語訳書籍「暗号通貨を支える技術」代表翻訳者。また、33カ国を旅してきた経験も持つ。ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、インド、北米、南米、イースター島、アフリカ。バックパッカーとして一人旅をし安宿をまわり多様な文化、民族、人種と交流。特に南米、インド、アフリカでの旅から大きな影響を受けた。2014年4月21日にFrontier Partners合同会社を設立し、現在代表CEO&創業者。データタワー株式会社代表取締役。United Bitcoiners Inc. 取締役&共同創業者。東京大学客員研究員。日本初のライトニングネットワークハッカソン主催者。

(編集:設楽悠介・大塚真裕子 / 写真:堅田ひとみ)

Proof Of Talkについて

「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。

(今までのすべてのProof Of Talk(PoT)」はこちら

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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