OpenAIが米IPOを非公開申請
対話型AI「ChatGPT」を開発するオープンAI(OpenAI)が、米国での新規株式公開(IPO)に向け、米証券取引委員会(SEC)へ非公開のS-1登録届出書を提出した。オープンAIが6月8日に発表した。投資家が人工知能(AI)ブームへの投資機会を求めるなか、競合のアンソロピック(Anthropic)に続き、株式市場への進出を視野に入れる動きとなる。
オープンAIは募集規模や条件を開示しておらず、IPOの実施時期についても決定していないと説明した。同社は声明で「非公開企業である方が進めやすいと考えていることがあるため、しばらく時間がかかる可能性がある」と述べている。
「ロイター(Reuters)」はこれまでに、同AI大手が早ければ9月にも実現する可能性のある株式市場デビューで、最大1兆ドル(約160兆1,650億円)の評価額を目指していると報じていた。
その評価額で実現すれば、1兆ドル規模の評価額を持つ企業3社が相次いで上場する流れが生まれることになる。これらは合わせて、過去10年で高成長テクノロジー株に対する投資家の需要を測る最も重要な試金石になるとみられている。
この流れで先行しているのは、イーロン・マスク(Elon Musk)氏率いるスペースX(SpaceX)だ。同社は、実現すれば史上最大規模となるIPOを申請しており、750億ドル(約12兆113億円)の調達と1兆7,500億ドル(約280兆2,625億円)の評価額を目指している。
AIコーディング支援ツール「クロード・コード(Claude Code)」を手掛けるアンソロピックは6月1日、米国でのIPOに向け、SECに非公開のS-1登録届出書を提出したと発表した。同社はその数日前の5月28日、評価額9,650億ドル(約154兆5,448億円)で650億ドル(約10兆4,098億円)を調達したと発表していた。
セリティ・パートナーズ(Cerity Partners)のパートナーであるマイケル・アシュリー・シュルマン(Michael Ashley Schulman)氏は、「アンソロピックが大型資金調達の後に申請で先行するなか、オープンAIは選択肢を残している」と述べた。
将来の出来事の結果に賭ける予測市場では、多くの参加者が、アンソロピックよりも先にオープンAIがIPOを申請すると予想していた。
AI時代
アンソロピックとオープンAIのIPOは、AIがこの10年を象徴する投資テーマとして急速に浮上するなか、テクノロジー業界と世界市場における変革期を明確に示すものとなる。
オープンAIは今年初め、ソフトバンク(SoftBank)、アマゾン(Amazon)、エヌビディア(Nvidia)などの有力支援者から、評価額8,400億ドル(約134兆5,386億円)で1,100億ドル(約17兆6,182億円)を調達していると明らかにしていた。
その際、同社はChatGPTの週間アクティブユーザーが9億人を超え、有料の個人向け加入者が5,000万人を超えていることも開示していた。
今回のIPO申請は、オープンAIが初期投資家の一社であるマイクロソフト(Microsoft)との提携条件を再交渉した後に行われた。この再交渉により、同AI先駆企業はアマゾン・ドット・コム(Amazon.com)やアルファベット(Alphabet)傘下のグーグル(Google)などとの新たな提携を進められるようになった。
ウィンドウズ(Windows)を手掛けるマイクロソフトによる初期投資は2019年以降で総額130億ドル(約2兆821億円)に上り、オープンAIの急成長を後押しするとともに、マイクロソフトのクラウドコンピューティング事業「Azure」の成長を支えた。
オープンAIは3月、月間売上高が20億ドル(約3,203億円)に達しており、アルファベットやメタ(Meta)など、インターネット時代やモバイル時代を定義した企業よりもおよそ4倍速いペースで成長していると説明していた。
これは、2024年末時点の四半期売上高約10億ドル(約1,602億円)と比べても大きな伸びとなる。
事情に詳しい関係者によると、オープンAIは直近の資金調達ラウンドで、2030年まで黒字化を見込んでいないと投資家に説明していた。
競合勢も勢い増す
一方で、オープンAIが切り開いた業界は急速に競争が激しくなっており、投資家はAIセクターの急激な成長が持続可能かどうかを精査している。
アンソロピックは最大級の競合の一社として台頭している。同社のAI「Claude」は、ソフトウェア開発者によるプログラミング用途で需要が急増しており、一部企業は同社の上位モデル「Mythos」を使ってコード内の脆弱性を発見している。
これらの大型IPOは米国のIPO市場に新たな勢いをもたらす可能性がある一方で、一部の投資銀行関係者は、本来であれば小型案件に向かう可能性のあった資金を吸収してしまう恐れがあると警告している。
D.A.デビッドソン(D.A. Davidson)のマネージングディレクターであるギル・ルリア(Gil Luria)氏は「オープンAIが望んでいないのは、公開市場の資金が枯渇してしまうことだ」と述べた。
同氏は「スペースXとアンソロピックがIPOの順番で同社に先行しているだけでなく、大手上場競合も、グーグルが先週完了したように、公開市場での追加株式発行によってそれぞれ数百億ドル規模を調達する可能性がある」と指摘した。
マスク氏率いるスペースXは今週、株式を公開する。
非営利組織としての出自が法的紛争に
オープンAIは2015年、研究重視の非営利組織として設立された。しかし、AIシステム開発にかかる急増する費用を賄うため、4年後に営利部門を設立した。
非営利組織が営利法人を支配するという同社の異例の構造は、2023年末に強い注目を集めた。当時、サム・アルトマン(Sam Altman)CEOが一時解任され、その後、従業員の反発を受けて数日後に復帰したためだ。
オープンAIは2024年12月、営利部門を公益目的会社(public benefit corporation:PBC)へ移行する計画を示した。その後、同社は2025年10月に新たな構造を発表し、非営利組織であるオープンAI・ファウンデーション(OpenAI Foundation)が、営利部門のオープンAI・グループPBC(OpenAI Group PBC)を引き続き支配する体制となった。
オープンAIの組織再編は、初期支援者だったマスク氏からの厳しい批判を受け、すぐに論争を呼んだ。マスク氏はその後、オープンAIを提訴し、アルトマン氏ら幹部が同非営利組織を私的利益追求の手段に変えたと主張した。
米カリフォルニア州オークランドの連邦裁判所の陪審は5月18日、マスク氏の訴訟で同氏の主張を退けた。陪審は、マスク氏による訴えの提起が遅すぎたと判断し、人類に利益をもたらすという当初の使命から逸脱したとされる点について、同AI企業はマスク氏に対して責任を負わないとした。
全会一致の評決により、IPOにのしかかっていた主要な懸念が取り除かれた。アナリストは、これにより大きな法的ハードルが解消されたとみている。
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
OpenAI files for US IPO after Anthropic as AI giants head to public markets
(Reporting by Manya Saini and Pritam Biswas in Bengaluru; Additional reporting by Harshita Mary Varghese and Sriparna Roy in Bengaluru; Editing by Arun Koyyur, Peter Henderson and Matthew Lewis)
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
画像:Reuters