総床面積1300平米を誇るビットコイナーの交流拠点
ビットコイン普及を目的とした拠点「Tokyo Bitcoin Base(以下TBB)」が、4月25日に東京・四ツ谷にグランドオープンした。
「日本におけるビットコインのマスアダプションをドライブ」をミッションとし、コワーキングスペース、21のシェアオフィス(オープン時点でビットコイン企業9社が入居)、イベント会場、テラスバーなど総床面積1300平米を誇る広々とした施設となっている。
TBBの施設は、以前サンフロンティア不動産が運営していた一棟シェア型オフィスの跡地を譲り受けたもの。今後は国内外のビットコイナーの交流を促すため、訪日ビットコイナーが、数週間から数ヶ月単位で快適な滞在が可能な宿泊施設を徒歩圏に新設する予定だという。
入り口にはビットコイン生みの親「サトシ・ナカモト」の像も
さらに、施設エントランスにはビットコイン生みの親「サトシ・ナカモト」の像も設置されている。
グランドオープン当日には、プレス・関係者向けの除幕式が行われ、 そのベールを脱いだ瞬間、オーディエンスからは大きな拍手が贈られた。
エントランスで「サトシ・ナカモト」が出迎えてくれるのは、訪れるすべてのビットコイナーにとっても感慨深いものではないだろうか。また、像の背後に回ることで、“サトシと一体化”したような写真を撮れる仕掛けもあり、遊び心を感じさせるポイントになっている。
ビットコイン関連会社へ投資を行うフルグル合同会社の練木照子氏は、「TBBはビットコインの教育拠点として、ビットコイン関連のイベントやPR・メディアの窓口、国内外のビットコイナーの交流促進を図っていく。今後は数週間から数ヶ月単位で快適な滞在が可能な宿泊施設も新設し、海外のビットコイン企業関係者の日本進出や国内企業との連携をサポートする体制を整えていきたい」とコメントした。
日本人は物理的なものにこだわる
今回、あたらしい経済ではTBBを運営する株式会社BH Tokyo 代表取締役兼CEOの川合林太郎氏に、同施設の設立背景や狙いについてインタビューを敢行した。
川合氏はビットコインエコシステムへ投資を行う米国VC「フルグルベンチャーズ」の日本法人であるフルグル合同会社のCEOを務めている。
同氏がビットコインと関わりを持つきっかけになったのは、暗号通貨取引所「Bitfinex」の日本法人立ち上げを計画した時だった。日本法人を設立して3年に渡って準備を進めたものの、日本の規制との折り合いが合わず昨年末に開業を断念。
その次に携わることになったのが、ビットコインの開発・教育・事業の拠点となる「Bitcoin Hub(ビットコインハブ)」の運営だった。
「スイスのルガーノに次いで、TBBは2拠点目のビットコインハブになります。さらに同時並行で、イタリアのトリノやエルサルバドルのサンサルバドル、イギリスのロンドンの3拠点 も建設中で準備を進めている段階です。なぜ、東京に拠点を構えたかと言うと、一番物理的なものにこだわるのが日本人だからです。
セキュリティ製品も未だに箱のパッケージが売られていますし、ストリーミング全盛の時代でも音楽のCDを買う人もいる。ビットコインは見えないし触れないわけじゃないですか。やはり、物理的なものがないと懐疑的に感じてしまうのが日本人の国民性なんですよ」(川合氏)
川合氏自身も、ビットコインに興味を持ち始めた企業の経営者と話す機会が増えているそうだ。しかし、ビットコインにまつわる財務や商標、税制、購入方法など、疑問点がたくさんあるなかで「どこに相談したらいいのか分からない」という声をよく耳にするという。
川合氏は「私以上に分かりやすく、説得力を持ってビットコインの魅力を伝えられる方々はビットコインコミュニティにたくさんいる。そうした人たちが集まり、知識を共有し、対話できるのがTBBという物理的な場所があることの利点」だと説明した。
海外のビットコイナーの多くは会社員ではなく、ビットコイン関連の仕事を個人で行っており、報酬もビットコインで受け取っているケースが多い。そうした事情から、たとえ十分な資産を持っていても、月単位の賃貸マンションを借りるのが難しかったり、ホテルの宿泊を断られたりすることがある。
つまり、「お金はあるけれど、日本で滞在先を確保できない」という問題をクリアするため、前記のように宿泊施設を用意しようと考えているという。
「日本に快適な滞在と仕事ができる環境があれば、日本を訪れる動機にもなるでしょう。この拠点は海外のビットコイン関係者の日本進出や、日本のビットコインコミュニティとの交流を促進する役割を担うことを目指しています」
日本を再びビットコイン先進国に
そんななか、同氏は「TBBを本気で“ビットコインの聖地”にしたい」と意気込む。
日本でビットコインといえば、誰もが自然と思い浮かべるような存在にしていくことを見据えているそうだ。
この場所に10年、20年、30年と根を張り続け、何があっても撤退しない。こうしたモチベーションの源泉になっているのが、「サトシ・ナカモト」という日本名を持つ人物がビットコインを生み出したことに由来していると川合氏は言う。
「かつて日本は、世界のビットコイン最前線に立っていました。でも今は、他の先進国に比べて周回遅れになってしまっているのが現実です。正直に言って残念な気持ちでいっぱいで、何としてでも日本を再びビットコイン先進国に押し上げたいんですよ。
アメリカではトランプ氏が『Make America Great Again』と掲げていますが、私としては『Make Japan Great Bitcoin Country Again』を目指したい。日本という場所でこそ、自分のビットコインへの情熱を注ぎたいという思いが根本にあるんです」
TBBのオープンを皮切りに、将来的には日本発のビットコイン系スタートアップが数多く生まれ、世の中に価値を提供するようになれば、ビットコイン大国として日本再興の布石になることだろう。
川合氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。
取材:大津賀新也(あたらしい経済)
文:古田島大介
写真:TBB提供