韓国暗号資産VCが語る、日本の仮想通貨税制の問題(Hashed Head of Legal Jin Kang)

Hashedとは

Hashedはソウルとシリコンバレーに拠点を置くブロックチェーン専門家と開発者からなるベンチャーキャピタル(VC)だ。Hashedは非中央集権化が世界経済だけでなく、インターネットの構造そのものを変える力があると信じており、その観点からこれまで多くのブロックチェーン関連企業へ投資している。

これまでHashedが投資しているのは70以上の企業やプロジェクトだ。例えば韓国カカオのクレイトン(Klaytn)、LINEのリンク(LINK)、ディフィニティ(Dfinity)、コスモス(COSMOS)、イオス(EOS)、イーサリアム(Ethereum)、テラ(Terra)、カイバーネットワーク(KyberNetworks)、ベガ(Vega)、メイカー・ダオ(Maker DAO)、オミセゴー(OmiseGo)などに投資を行っている。

あたらしい経済はHashedのリーガル部門トップを務めるジン・カン(Jin Kang)氏へ取材を行った。ブロックチェーンに精通し、グローバルでプレゼンスを持つベンチャーキャピタルだからこそ持つ国の規制への見解を取材した。

韓国企業のビットコイン投資とその未来

−ネクソンのビットコイン取得についてどのようにお考えですか?

ネクソンのビットコイン購入は、より多くの機関や企業がビットコインを直接購入するようになってきていることを示している思います。アメリカもテスラを始めとして、いくつか事例が出てきています。

ただネクソンのビットコイン購入に関して非常に興味深いのは、テスラではビットコインを投資対象として捉えていたのに対し、ネクソンはビットコインの将来的な利用方法がより洗練されたものとして存在するから取得したように思えることです。

これはネクソンがゲーム分野に注力していることも理由のひとつだと思います。またネクソンが、ゲームプラットフォームに加えて、デジタル資産への親しみを増していることは、ビットコインなどの暗号資産がより多くの人に普及するという強い方向性を示していると思います。

例えばある有名なゲームプラットフォームでそのユーザーが持っている特別なアイテムがあり、ゲームプラットフォームの外にいる人たちが、そのユニークなアイテムを売買しようとする状況があるとします。

そのような状況下でビットコインが可能にすることは、ゲームの世界やメタバースのような仮想現実の中での価値の交換です。

今後私はビットコインが単なる投資対象ではなく、資本的側面ではないものから利益を得ようとするものであることを、よりエキサイティングに伝えていきたいと思います。

実際に「The sandbox」や「Axie Infinity」では、NTFアイテムを交換する状況が発生しています。もっと大きなスケールでNFTなどが実体経済と統合することができれば、ゲームの遊び方に、もっと面白いパラダイムシフトが起こると思います。実際に韓国大手IT企業のほとんどが、ビットコインに強い関心を持っていると言ってもいいでしょう。

韓国もDeFi、NFT、デジタルIDに注目

−韓国ブロックチェーンスタートアップはDeFiやNFTなど、どのような領域に関心が強いのでしょうか?

韓国政府は2018年にICOを禁止しました。そのため韓国では暗号資産関連スタートアップがトークンを発行するのは非常に難しい状態になっています。だからそれらの企業はシンガポールなどトークン発行が認められている国でトークンを発行しています。

そして特に興味深いのは分散型金融(DeFi)の分野での事例です。テラ(Terra)は世界でも5本の指に入るブロックチェーンネットワークを持っています。そして、ルナ(Luna)とアンカー(Anchor)とミラー(Mirror)を活用しています。たくさんの分散型金融(DeFi)プロジェクトが作られています。分散型金融は韓国で起きているフィンテック革命の延長線上にあるものだと思います。

日本で伝統的な銀行が、オンライン銀行やその他のフィンテックソリューションとの競争に敗れているのと同様の流れが韓国でも起こっています。分散型金融が浸透すれば、再度リテールユーザーが利益を得られる構造になると考えています。

例えば韓国のチャイ・カード(Chai Card)は普通のカードのように使えますが、バックエンドではテラ(Terra)などのブロックチェーンを使っているので、通常の決済ゲートウェイが請求する取引手数料を大幅に割り引くことができています。

そしてNFTなどを通してエンターテイメント業界も盛り上がってきています。大手エンターテインメント企業は、NFTを積極的に検討しており、例えばBTSのように特定のNFTをデジタルで発行することができるようにする方法を検討しているはずです。

そして政府も分散型ID認証や健康データの管理方法についても検討しています。例えばCovid-Passportのように非営利団体のレイヤーでブロックチェーンを利用したものがあります。

若者の暗号資産投資への盛り上がり

−韓国の個人投資家はどのような状況でしょうか?

韓国の暗号資産取引所アップビット(UPbit)は、韓国のメインバンクであるNH農業銀行ではなくネット専業銀行のK Bankと提携し、この半年間で2018年のバブル崩壊後に最もダウンロードされたアプリケーションになっています。最近になって爆発的にそのダウンロード数が増えてきていることから、個人投資家は積極的に暗号資産へ投資していることが推測できます。

特に韓国の若い個人投資家は資産クラスとして、暗号資産に注目していると思います。韓国では、私の父の世代が若い頃に株で富を築きました。そして私の祖父の世代は、不動産で富を築きました。そして私たちのような20代、30代の若い人たちは、富を築くための次の媒体として暗号資産を選択肢にしているのだと思います。

暗号資産取引所の規制、9月以降に適用

-韓国では暗号資産に関して、どのような法律が該当されているのでしょうか?

韓国では暗号資産について直接言及している法律が1つだけ存在します。その法律は「特定金融取引情報の報告及び利用に関する法律(ACT ON REPORTING AND USING SPECIFIED FINANCIAL TRANSACTION INFORMATION)」と呼ばれています。

これは、金融機関にマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)を義務付ける基本的な法律です。つまり金融機関に対する基本的な要求事項です。

そして今年の3月から、韓国では金融機関の定義に暗号資産サービス事業者を加えることになりました。つまり、暗号資産の販売、交換、譲渡、保管を行う人たちは、金融機関に課せられたAMLおよびKYCの要件を遵守しなければならなくなりました。この変更はFATFガイダンスに影響を受けたものとなります。

韓国では、規制対象が大きく3つに絞られています。1つは取引所、2つ目はウォレットサービス・プロバイダー、3つ目はカストディアンです。この3つの事業体が暗号資産に直接関連する事業体となっています。

ただ韓国ではAML/CFT要件以外に、暗号資産に該当する法律は存在しません。

そのため韓国では暗号資産をどのように法的に取り扱うべきなのか、不明確な部分が多いというのが現状です。

韓国では暗号資産取引所への規制を明確化させるために、2021年9月までに暗号資産取引所はライセンス登録する必要があります。また情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証を取得する必要があります。

さらに暗号資産取引所と銀行のそれぞれの口座の実名を確認できるように、銀行との協力関係も必要になってきます。しかし実際にライセンスを取得するための申請書を提出した取引所は現状まだありません。

韓国企業の暗号資産会計

−韓国企業は決算期末に企業がビットコインを保有していると、どのような会計認識をするのでしょうか?

韓国では暗号資産を分類する明確な会計基準は存在していませんが、実務上は無形資産に分類しています。そしてビットコインなどは法定通貨に変換された場合のみ、課税事象が発生します。つまり日本のように決算期末に時価評価をして、課税事象が発生することは現段階ではありません。

また韓国政府は2022年1月1日から、個人投資家には22%のキャピタルゲイン税を課すことを提案していますが、重要な選挙で現在の政党が敗北したので、まだ不確定な状況です。なので韓国は現時点では暗号資産に関してタックスヘイブンの状態となっています。

−暗号資産に関する会計認識はどうあるべきだと考えていますか?

ブロックチェーンのエコシステム全体が成熟するためには、多くの暗号資産は法律、会計、税務上、従来の証券と同様に扱われるべきだと考えています。例えば、暗号資産にも株式を購入した場合と同様の課税基準や敷居の高さが適用されるべきだと思います。

例えば韓国で株式投資をした場合、韓国では約22万円までのキャピタルゲインは課税されません。そしてその税率はキャピタルゲイン税の22%に近いと思います。これはすごく理にかなっていると思います。

しかし政府が業界を規制するための政策や法律を運用させている場合は、税金を払うことを正当化できると思います。例えば、証券を上場したければ、上場規則に従わなければなりませんし、情報公開も必要で、政府が取引所を管理します。

ただこのような義務を負わずにただ税金をかけるだけでは、個人投資家にとってはフェアではないと思います。税制を適用したいのであれば、もっと踏み込んだブロックチェーン全体を対象とした規制のフレームワークを作り、テクノロジー企業や金融企業、スタートアップ企業など関係者と協力して、何が理にかなっているかを公開協議する必要があります。

税金のことを考えるよりも、まずは規制のフレームワークを作ることが必要だと思います。

日本の暗号資産税制について

−日本の最大税率55%について、どのように思いますか?

最大55%と聞いて、非常に驚きました。そして若い人にとっては不公平な税制だと思います。ただ暗号資産は新しい産業であるがゆえに、世界各国の政府がスマートに対応できていないのではないかとも思います。

各国の政府は何をすればいいのかわからないし、新しいことをなかなか勉強したがらないのです。投資家保護の観点から、税金をたくさんかけてビットコインを買わせないようにしているのかもしれませんが、これは非常に短絡的な方法だと思います。

これではイノベーションや暗号資産をどんどん採用していく世界的な流れを妨げてしまうと思います。日本や韓国が国際的な競争力を持つためには、暗号資産に関する規制を見直す必要があると思います。

アメリカやヨーロッパでプロジェクトを行うのではなく、韓国と日本の両方にイノベーションをもたらすことができるように、税制、会計、法の状況を見直す必要があると思います。

今後の規制方針について

−今後、韓国では規制がどのように進んでいくとお考えですか?

現在、私は韓国ブロックチェーン協会で働いています。そこには国会議員もいます。そして私は国会議員に対して様々なアドバイスを行っていますが、最善の規制フレームワークを作ることは、本当に難しいことだと理解しています。

一方このような状況下で重要なのは、政府が業界の人々、学界、規制当局、その他の市民社会のメンバーと直接対話することだとも強く思います。つまりタスクフォースやグループを結成し、議論を重ねて、何が最善かを総合的に判断し続けることが必要です。

その点、アメリカは規制フレームワークを作ることが本当に上手だと思います。

アメリカでは「Eliminate Barriers to Innovation Act」とう法案があります。この法案は、証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の双方から専門家や代表者を集めた合同作業部会を設置し、米国の現在のデジタル資産の法的・規制のフレームワークを分析し、改善点を見出すことを明確な目標としているものです。

アメリカではこの法案に基づき、1年間でどのような形の規制のフレームワークが最適かを研究・分析することになっています。そして1年後に報告書を出すことになっています。そしてその報告書に基づいて、業界にとって意味のある政策を提言することになります。

アメリカのこの動向は2つの意味でとても良いことだと私は思います。

まず1年という長い時間があるので、業界がどのように進化し、成長していくのかを見極めることができます。そのため今失敗して、後にイノベーションを阻害することがないのです。

2つ目は政府だけが「こうすべきだ」と提案しているわけではないということです。産業界の人々が公的機関にしっかりと関わり、他の人々の意見を聞き、何が理にかなっているかについて、より多くの情報に基づいたコンセンサスを形成することができるのです。

私は、韓国も同じようにすべきだと思いますし、日本も同じようにすることをお勧めします。なぜなら、ブロックチェーンを理解することは本当に重要だと思うからです。

なぜならブロックチェーンが示す最終的なビジョンは人々がグローバルにつながっていくことだと考えているからです。

韓国政府と日本政府は現在あまりうまくいっていないようですが、ブロックチェーン技術発展のためにも国境を越えて協力していってほしいです。

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

合わせて読みたい記事

本のゲラがNFT、山口周ベストセラー『ビジネスの未来』の裏側が限られた読者の手へ

今年の4月、NFTマーケットプレイス「ユニマ」の情報が飛び込んできた。そしてユニマのローンチ後にNFTとして販売されるコンテンツの中に、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』という書名、そしてその著者である山口周氏の名前があった。なお当時の発表では、企画詳細については「出版社と実施に向け協議中」となっており明かされていなかった。

Sponsored

【取材】職場コミュニティ活性化支援サービス「PRAISE CARD」とは?(博報堂広報室)

株式会社博報堂と株式会社博報堂コンサルティングが、日本ユニシス株式会社と共同で、職場コミュニティの活性化支援アプリサービス「PRAISE CARD(プレイズ カード)」を開発を8月23日発表した。 「PRAISE CARD」は、職場コミュニティの活性化と、その活性度の分析を通じてコミュニティの状態の可視化を支援するサービスとのこと。コロナ禍のテレワークで離れて業務を行っている社員同士が、専用スマホアプリからデジタルカードを送りあうことで、日頃の協力や行動に対し社員同士で感謝や称賛の気持ちを伝えることができる。

ノーコードでもブロックチェーン開発ハッカソン!? 近大とIOST財団が「HIVEHACK 2021」開催。企業セッションはオンライン無料公開も

近畿大学 理工学部 情報学科 電子商取引研究室とIOST財団が、ノーコードでブロックチェーン技術を活用したプロダクト開発を体験するハッカソン「ブロックチェーン教育ハッカソン HIVEHACK 2021」を8月26日、27日に開催することを発表

Sponsored

【取材レポ】どんな限定NFTがもらえる?『約束のネバーランド』体験ミュージアムに潜入

体験ミュージアム「『約束のネバーランド』GF(グレイス=フィールド)ハウス脱獄編」が東京都港区の六本木ミュージアムで7月17日から開催されている。 このミュージアムで来場者限定でNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)の配布されているとのことで、あたらしい経済編集部は潜入取材を行った。