サプライチェーンを変革する、ブロックチェーンのトレーサビリティ

はじめに

暗号資産(仮想通貨)に利用されるブロックチェーン技術は、金融領域のみならず、非金融領域の様々なビジネス分野で導入が検討されています。

そしてその中でも多くの実証実験や実装が進んでいる分野として、物流や貿易などサプライチェーン・マネージメントにおけるトレーサビリティシステムへのブロックチェーンの活用が挙げられます。

サプライチェーンにおけるトレーサビリティとは?

(images:iStock/cybrain)

サプライチェーンとは物流における、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのことをいいます。

例えば自動車製造業における物流は、部品の原材料となる鋳鉄や樹脂材を製造・販売する企業から始まり、次に部品を加工する企業へと流れていきます。部品が完成すればその部品はメーカー企業に直接流れるか、あるいはもう一度別の企業で加工された後にメーカー企業へと流れていきます。メーカー企業に集まった部品はそこで組み立てが行われ、出荷されてその後ようやく店頭に商品が並びます。

そしてそこで重視されるトレーサビリティとは、サプライチェーンにおける情報を可視化し追跡をできるようにすることです。「情報の来歴」の意味としても用いられています。

トレーサビリティは、それらの製品・部品がいつ、どこで、誰によって作られたのかを明らかにする為に、そのサプライチェーンにおける原材料の調達から生産、そして消費または廃棄までの一連の流れの中の製品の情報を追跡可能な状態にする事です。

トレーサビリティ(Traceability)という言葉は、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせて作られた造語で、その意味は「追跡できるようにする能力」です。

トレーサビリティが成立する為に重要な条件として、「(1)対象となる製品・部品の識別記号や単位(個別 or ロット)が明確になっていること」と「(2)サプライチェーンにおける各工程で情報を蓄積し、その情報を活用して製品・部品の移動を追跡できること」が挙げられます。

(1)対象となる製品・部品の識別記号や単位(個別orロット)が明確になっていること
製品・部品を識別する為には、製品・部品ごとに「個別」の識別記号を付与する方法(シリアル番号・QRコードなど)や、製品・部品を一定のグループで分け「ロット」としてみなし、そのロットごとに識別記号を付与する方法があります。そしてこのように識別記号でまとめる区分けのことを「識別単位」と呼びます。

(2)サプライチェーンにおける各工程で情報を蓄積し、その情報を活用して製品・部品の移動を追跡できること
製品・部品に関する情報を記録し蓄積するだけではトレーサビリティの意味は成さず、その情報にいつでもアクセスし追跡出来ることが最も重要となります。この情報の追跡には「トレースフォワード(追跡)」と「トレースバック(遡及)」の2種類が存在し、この2つが出来てこそトレーサビリティは実現します。

「トレースフォワード」とは既に出荷販売されている製品を特定することです。これは製品が生産から流通・販売していく中で時間の経過に沿って情報の履歴を追跡することを指します。例えば自動車生産のサプライチェーンにて、自動車に使われているある部品に不良が判明した際、その部品が使われている自動車を特定し、ピンポイントで自動車を回収することが可能です。そのためリコールや不良品への対策に有効です。

また「トレースバック」とは製品を製造したときに遡って原因を特定することです。これはトレースフォワードとは反対に、サプライチェーンの製造段階の流れに遡って情報の履歴を辿っていき、問題の発生した時点・原因を特定することを指します。例えば出荷・販売された製品に問題が見つかった場合に影響のある工程や製造ラインを特定し、問題の原因をいち早く調べることで速やかに工程の改善や品質の改善を実施することができ、製品品質の向上・安定につなげることができます。

つまりトレーサビリティにおいてサプライチェーンにおける製品の流通情報が川上から川下に流れる中で、川上から川下、川下から川上と双方向に情報を追跡し確認出来ることが求められているということです。

消費者の視点からみると「トレースフォワード」と「トレースバック」は、「トレースフォワード」によって生産者・販売者が問題に迅速に対応できるかで、消費者は生産者・販売者に対して「信頼性」を測り、「トレースバック」により製品の情報を追跡できることで、消費者が購入した製品または販売されている製品に対して「信頼性」を測っているといえます。

トレーサビリティの歴史

(images:iStock/Who_I_am)

日本において、このトレーサビリティシステムが利用され始めたのは、1969年に自動車産業において、自動車リコール制度がスタートしたことから始まります。この自動車リコール制度が創設された背景には、モータリゼーション初期の昭和40年代初頭に欠陥車による問題が社会問題としてとりあげられたことや、リコール制度を日本より一足早く制度化していたアメリカで不具合情報を公表することが回収に効果的であるとの見解が明らかになったこと等が挙げられています。

この自動車をリコールする際に対象の製品を特定し不具合の原因を究明するために、トレーサビリティを確保することが必然になったのです。

そもそもトレーサビリティの管理は自動車製造などの製造業を中心とした生産管理手法として利用が始まりましたが、2001年に日本国内で初めて発生したBSE(狂牛病)の問題によって食品業界を中心に導入が進んでいくことになります。

BSEの発生以降に農林水産省が牛肉のトレーサビリティを義務化する法案を公布し、国内で生まれたすべての牛に対し個体の識別管理をすることと業者に対し仕入れや販売の記録を義務付けさせました。今ではスーパーに並ぶパックされた精肉にも個体識別番号の表記があります。

(images:iStock/VLG)

また米製品の原材料の産地に関する情報を消費者に提供できるようにすることを目的に2009年に「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」(米トレーサビリティ法)が制定され、2010年には「米穀等の取引等に係る情報の記録・保存(トレーサビリティ)」が、 2011年7月1日から「産地情報の伝達」 が施行されています。

このようにトレーサビリティシステムを利用することで、サプライチェーンの情報を可視化し、製品に対する信頼性や製品のリコール時の迅速な対応に繋がることができ、品質管理を行う為に必要になったのです。

サプライチェーンにおけるトレーサビリティの実現への課題

(images:iStock/Vadim Shechkov

前項でお伝えした通り、現在ではトレーサビリティはサプライチェーンの品質管理を行うにあたり欠かせないものとなっています。

しかしサプライチェーンには複数の生産ラインや、生産業者・卸売業者・流通業者・店舗業者等、非常に多くの関係業者と、その関係業者の数以上に人が関わっています。そして、その関わる業者と人の数以上の情報のやり取りが発生しており、その情報処理の数は膨大なものになっています。

また各企業の文化・価値観・認識のズレなどによって、一貫した情報の管理をすることが困難です。この事はトレーサビリティの情報を追跡しようとしても、その情報は見つかりづらく業務の遅延に関わってくるのです。

トレーサビリティに関わる取引情報管理は、現場担当者が手動で管理システムやExcelファイルへの入力をしたり、情報管理を紙ベースで行っている業者も未だ多く存在します。情報自体の追跡が困難であるのはもちろんの事、これは情報紛失のリスクがあることや、過失などによって容易に情報が改ざんされてしまう可能性などの問題もあります。

トレーサビリティ自体の真偽性や信頼性が基本的に人間に委ねられており、折角の取り組みも人の手が介在することにより情報の信ぴょう性が欠けてしまうのです。

このようにサプライチェーンを管理することは非常に複雑で、時間と手間がかかるものになっており、その環境の中で情報の真正性が求められるのです。

これまでは前述したように製品を管理する為の時間や手間などのコストと情報を管理して追跡をするというメリットのバランスが取れていませんでしたが、デジタル技術の進展で環境が大きく変わろうとしています。中でもブロックチェーンを用いることで生産や流通履歴を個品管理する仕組みが導入されはじめているのです。

ブロックチェーンだからこそ実現できること

(images:iStock/Chan2545

ブロックチェーンがサプライチェーンのトレーサビリティに活用されることで生まれるメリットの一つとして、その「情報の真正性が保証される」ということが挙げられます。

ブロックチェーンに記録された情報は一度書き込んだら簡単に書き換えることは出来ません。情報を改ざんすることが非常に困難であるということです。つまり、その書き込んだ情報自体が正しいものであれば、情報の真正性は確保され、各企業の責任の所在を明確化することができます。

また情報を遡って確認をするトレーサビリティの管理をするうえで、ブロックチェーンに書き込まれた過去の情報が改ざんされずに全て残っていることも大切な特徴であると言えます。

そして各事業者が同じブロックチェーンに情報を書き込み、統一のプラットフォームによって情報を一元管理することで取引情報の共有は容易になり、いままで数日掛かっていた情報の追跡が、数分から数秒の単位で情報の追跡スピードが格段に上がることも証明がされています。

また情報の一元管理を行うことで製品の所在がより明確になり、在庫管理もより正確になります。ブロックチェーン技術によりサプライチェーン全体のマネジメントが正確に行えれば、例えば災害時に適正な場所、適正な数の物資を配布することやフードロスの削減にも繋がるのです。

そしてブロックチェーン技術で情報の一元管理が行われ情報の真正性が保証されることで、製品の来歴を消費者に共有することも容易になります。

消費者は製品に添付されたQRコードをスマートフォンで読み取り、製品に関わる情報を遡って確認することで、その製品が正しい出自であることや消費者の手元に届くまでの流通経路を確認できるようになります。これは偽造品・偽物の流通防止に繋がります。

さらにこのように製品の出自や真正性を確固たるものとすることで、製品にある種の付加価値つけて販売をすることもできるようになるのです。

情報を一元管理し、ただ単に「情報を共有する」ということだけを考えれば、既存のクラウド技術を利用するだけでもトレーサビリティは十分実現可能ともいえます。しかし共有された情報を基に関わる業者全てが業務上に関わる意思決定をするためには、その情報が嘘偽りのない正しいものであることが求められます。また共有する情報は全て公開するのではなく、内容や範囲を適切に制限することが求められます。

この条件にブロックチェーンの耐改ざん性や透明性や秘匿化技術が活きてくるのです。

例えば生産能力や納入リードタイムや在庫量などの他企業に公開したくない情報をサプライヤーが秘匿化したままブロックチェーンネットワークに書き込むことができます。それらの情報を基にサプライチェーン全体での最適発注量が計算され、その結果の情報のみを参加企業全員で共有するということも可能になるのです。

今まではサプライチェーンにおいて業者ごとに秘匿したい情報があった為、統一のプラットフォームを使うことへの障壁がありました。しかしブロックチェーン技術を活用することで、一定の情報を秘匿しながらも多くの業者が統一のプラットフォームを使えるようになり、抵抗なくコンソーシアムを組めるようになるのです。

トークン発行という新たな付加価値も

サプライチェーンのトレーサビリティにブロックチェーン技術を活用することで、トークンの発行ができるようになります。これは今までの仕組みではなかった新たな価値です。トークンを発行することで、生産者や消費者の間に新たなコミュニケーションを創出することが可能になります。

例えば「IBM Food Trust」を利用して開発されたコーヒーのトレーサビリティプラットフォーム「FARMER CONNECT(ファーマーコネクト)」では、モバイルアプリ「Thank My Farmer(サンクマイファーマー)」を使用することで消費者がその原産国や流通経路などを確認する他、コーヒーの生産者に対しトークンをチップや感謝の気持ちとして送れるようにする計画もあります。

このように消費者が直接生産者へトークンを送ることで感謝の形を表すようなことも可能になるのです。

 

ここまででトレーサビリティとは何か、そしてサプライチェーンのトレーサビリティにブロックチェーン技術を活用するメリットについて紹介しました。次回からは世界中でトレーサビリティにブロックチェーンが活用されている事例などを紹介していきます。

(つづく)

文・編集:大津賀新也(あたらしい経済)
編集協力:一本寿和(あたらしい経済)

【参考文献】
・キーエンストレーサビリティ大学
https://www.keyence.co.jp/ss/products/marker/traceability/

・国土交通省 日本の自動車リコール制度
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/common/data/pamph_recall.pdf

・九州農政局 米トレーサビリティ制度の推進について
https://www.maff.go.jp/kyusyu/kikaku/jyouseihoukoku/pdf/h22tokusyuu1.pdf

・クラウドERP実践ポータル サプライチェーンとは?5つのポイントで理解する物流の話
https://www.clouderp.jp/blog/logistics-with-supply-chain.html

・大和物流株式会社 用語集 サプライチェーン
https://www.daiwabutsuryu.co.jp/useful/words/supply-chain

(images:iStock/Pixtum・liuzishan)

この記事の著者・インタビューイ

大津賀新也

あたらしい経済編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

あたらしい経済編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

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