紛争鉱物問題を解決する、ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーントレーサビリティと紛争鉱物

ブロックチェーン技術は現在、物流や貿易などサプライチェーン・マネージメントにおけるトレーサビリティシステムへの活用事例が多く発表されている。

ブロックチェーン技術をサプライチェーンに応用することにより、コストが削減される他、トレーサビリティに関する情報に真正性を保つことができる。

今回はその「情報の真正性」がどのように有効に利用されているのかを「紛争鉱物」のユースケースを紹介する。

「紛争鉱物」とは

「紛争鉱物」とは紛争地域にて産出され、その売却資金が反政府組織などの紛争当事者の資金源となる鉱物のことだ。

アフリカ諸国では、鉱物資源の輸出が外貨獲得の重要な手段であると同時に多くの鉱物資源採掘をする労働者も存在する。またこの地域において紛争は絶えず起こっており、現地で採掘される鉱物はその資金源となっている。このことを問題に紛争鉱物は規制の対象として国際的に管理されるようになった。

1900年代においてはダイヤモンドが紛争鉱物として規制がされたが、パソコンなどの電子機器の普及により電子部品の素材となる鉱物が規制の対象へと広がっていった。

それらはコンゴ民主共和国および周辺9か国(アンゴラ共和国、ザンビア共和国、タンザニア共和国、ウガンダ共和国、南スーダン共和国、ルワンダ共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ブルンジ共和国)を原産国としたスズ、タンタル、タングステン、金これら4種の鉱物が3TGと呼ばれ紛争鉱物として定義され、2010年に成立した米国金融規制改革法(ドッド・フランク法:DFA法)1502条により世界で初めて規制の対象となっている。

なお、このドッド・フランク法の基に米国証券取引所(SEC)の上場企業は、3TGを製品に使用する場合(委託生産も含む)に年次報告の義務とサプライチェーンのデューデリジェンスが課せられることになった。

その後2011年には、先進国を中心に34カ国が加盟する国際機関OECD(経済協力開発機構)理事会が「紛争鉱物ガイダンス」に基づく法整備をOECD加盟国・非加盟国双方に対して推進することを求める勧告決議が採択された。このガイダンスは法的拘束力はないものの、各国の政策に大きな影響を与えるものとなっている。

このように各国において紛争鉱物への法整備が求められる中、2021年1月1日より欧州連合(EU)においても「EU紛争鉱物規制」が施行されたのだ。

この「EU紛争鉱物規制」においても年次報告の義務とサプライチェーンのデューデリジェンスが取り決められているが、対象地域は世界全体の「紛争地域および高リスク地域」とし、対象者をEUに鉱物(鉱石・未加工金属)を輸入する企業、そして対象リスクを武装勢力の資金源および児童労働を含む人権侵害全般と指定されている。

このように「EU紛争鉱物規制」は米国のドット・フランク法に比べ、その規制範囲は広くなっている。

紛争鉱物のトレーサビリティをブロックチェーンで証明する取り組み事例(1)

この「EU紛争鉱物規定」に準拠すべく11月18日にルワンダ共和国のスズ生産業者、ルナ・スメルター(LuNa Smelter)と独ブロックチェーン企業マインスパイダー(Minspider)が提携をした。

この提携でルナ・スメルターはマインスパイダー開発のブロックチェーンを活用した鉱物のトレーサビリティシステム「オレソース(OreSource)」の実装を目指すとしている。

製錬業者は「オレソース」を利用することでブロックチェーン証明書に関連データをアップロードできる。証明書の情報へのアクセスを可能にするQRコードは、鉱物の出荷または請求書に添付され、輸入業者はこのQRコードを使って、EU規制に準拠するために必要なすべてのデータを確認できるとのことだ。

なおこの取り組みにはグーグル(Google)も参加しており、「オレソース」が輸入業者および製造業者の要件に準拠することを保証するために、業界の専門知識の提供を行うという。グーグルの参加は自社の持続可能な社会へ向けた取り組みの一環となるとのことだ。

紛争鉱物にブロックチェーンを利用する理由

では何故このように紛争鉱物にブロックチェーンが利用されるのか? 

それは規制の見直しにより企業が求められる「責任ある鉱物調達」のために考慮すべきリスク・地域・鉱物が拡大し、国際社会が動いてきていることが挙げられるだろう。

ブロックチェーンを利用することで採掘場から精錬所、そこから出荷された素材の加工・組立、製品出荷に至るまでの全流通工程を追跡・記録し、鉱物資源が倫理的に正しく生産、取引、処理されることを保証できる。これにより、サプライチェーン全体におけるエンドツーエンドの可視性と透明性を確保するとともに、 サプライチェーン運用の効率化が図れ、管理コストも抑えられるのだ。

また規制に対する取り組みはネガティブ・スクリーニングを行う投資家を意識せざるを得ない。企業は、このようなESG(環境・社会・統治)投資における取り組みは数値化ができない為、その活動が第三者から検証されるのは難しい。そこに企業は情報に真正性を持たせられるブロックチェーンを利用することで、投資家や消費者などのステイクホルダー向けに活動内容を証明ができるようにもなる。

なお2018年には、世界で300以上の企業や団体が加盟する紛争鉱物に関する取り組みを主導している団体である「Responsible Minerals Initiative (RMI)」においても、ブロックチェーントレーサビリティに関するガイドラインが発表されている。

【ESG投資とブロックチェーンについてはこちらの記事を参照】

企業団体の紛争鉱物へのブロックチェーンの取り組み

こういった理由から、企業は紛争鉱物のサプライチェーンにおいてブロックチェーンを導入する取り組みが増えており、企業団体も作られている。

世界経済フォーラム(WEF)の協力のもと「Mining and Metals Blockchain Initiative」と呼ばれる鉱物のトレーサビリティに関するブロックチェーンソリューションを研究開発する業界団体が2019年10月に立ち上がり、現在では世界各国26の鉱物・金属を扱う企業が参画をしている。

さらにドイツ・ベルリンの調達関連の監査を手掛けるRCS Globalが創設したコンソーシアム「RSBN:Responsible Sourcing Blockchain Network」にはフォード、フォルクスワーゲン、 クライスラー 、 ボルボなどの自動車大手や韓国LG、IBMが参画をしており、鉱物のサプライチェーン全体における可視性と透明性の確保をブロックチェーンによって推進している。またプラットフォームにはIBMの企業向けブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」が利用されている。

【コバルトへの取り組み】 紛争鉱物のトレーサビリティをブロックチェーンで証明する取り組み事例(2)

紛争鉱物における対象鉱物が増えていく中で次に注目されているのが、コバルトである。このコバルトは携帯電話や電気自動車(EV)で使われるリチウムイオン電池の原材料となっている。

コバルトは全体の6割がコンゴ民主共和国にて採掘されているが、そのうちの2割が倫理的に正しく生産されているかを立証できない小規模な採掘所で採掘されているという。またそういった採掘場では4万人以上の子供たちが採掘に従事しており、児童労働や強制労働などの深刻な人権侵害があることが国際人権NGOやメディアから指摘を受けている。

先に挙げた「RSBN」に自動車大手らが参画するのは、電気自動車を製造するにあたってコバルトの利用が欠かせないという背景がある。

なお日本でもコバルトのサプライチェーンの透明化を目的に、ブロックチェーン技術を活用した希少金属のトレーサビリティプラットフォームの構築をみんな電力株式会社が昨年6月に発表している。

このプラットフォームにはみんな電力が提供する電力のブロックチェーントレーサビリティシステム「ENECTION」が応用展開されるとのことだ。

あたらしい経済編集部が発表当時にみんな電力社広報担当へ問い合わせを行ったところ、この取り組みにおいて将来的にはコバルトを第一生産者から消費者が購入・利用・リサイクルするまでを追跡する取り組みについても検討をしているとのことだ。

おわりに

現在日本において紛争鉱物についての規制はない。

しかし、日本企業のサプライチェーンがグローバルに拡大している中で、自社だけでなくサプライチェーン全体でのサステナビリティ計画やCSR戦略が必要だと以前から叫ばれてきたが、この紛争鉱物問題を契機にますますその必要性が増してくると思われる。

企業に対する責任が問われる社会に進んでいるなかで、SDGsに準拠したような規制が導入される流れは止められず、持続可能な社会をつくるためにもESG投資への流れは国内においても益々進んでいくだろう。また消費者目線からも、ブロックチェーンの利用によりサプライチェーンが透明化することで消費者から生産者までを繋ぐことができ、私たち消費者がどこにお金を払っていて、そのお金がどのように利用されているのかが明確になる。

資金の動きが透明化されることで、私たちは不正の無い、SDGsなどの取り組みを行う応援したい企業に対し、自らのお金を支払う先が選択できるということだ。反対に今後正確なトレーサビリティの確保が出来ていない企業は、消費者の購買の選択肢から外されてしまうことにもなりうるだろう。

ブロックチェーンによる「情報の真正性」は、これからの社会においてより必要なものになる。

(おわり)

参考サイト
Nornickel joins IBM’s Responsible Sourcing Blockchain Network

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)2020年度責任ある鉱物調達の最新動向

サスティナブルジャパン  【人権】紛争鉱物規制/OECD紛争鉱物ガイダンス・ドッドフランク法・CMRT・CFSI 

IBM Responsible Sourcing Blockchain Network

(images:iStocks/La_Corivo・artas)

この記事の著者・インタビューイ

大津賀新也

あたらしい経済編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

あたらしい経済編集部
記者・編集者
ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

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紛争鉱物問題を解決する、ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーン技術は現在、物流や貿易などサプライチェーン・マネージメントにおけるトレーサビリティシステムへの活用事例が多く発表されている。 ブロックチェーン技術をサプライチェーンに応用することにより、コストが削減される他、トレーサビリティに関する情報に真正性を保つことができる。 今回はその「情報の真正性」がどのように有効に利用されているのかを「紛争鉱物」のユースケースを紹介する