LayerX福島良典とNayuta栗元憲一が語る日本の仮想通貨・ブロックチェーン市場の課題 PoT #01-1

藤本真衣

Proof Of Talkについて

「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。

記念すべき第1回は株式会社Gunosyの創業者で8月1日にAnyPay株式会社とブロックチェーンに特化した合弁会社 株式会社LayerXを立ち上げた福島良典氏と、ブロックチェーンとIoTに積極的に取り組む 株式会社Nayuta 栗元憲一氏のトークセッションをお届けします。

イーサリアムの魅力

藤本真衣(以下藤本):栗元さんってイーサリアムが最初に日本に入ってきた時に、ホワイトペーパーを日本語に初めて翻訳したんですよね。

栗元憲一(以下栗元):そうですね、確か2014年の夏ぐらいでした。まだ全然注目されてなかった時だったんですが当時友達からイーサリアムの話を聞いて、これはすごいんじゃないかなと思って翻訳したんです。

藤本:ホワイトペーパーを翻訳されて、イーサリアムの何がすごいと感じていましたか?

写真左から 福島良典、藤本真衣、栗元憲一

栗元:誰のものでもないプログラムが動くところですかね。所有権のないプログラムが、人間とは別世界で動き続けるっていう部分に相当なインパクトがあるんじゃないかなと感じました。

藤本:福島さんがイーサリアムに触れた時はどうでしたか?

福島良典(以下福島):僕もイーサリアムに触れたのは2015年くらいでした。当時仮想通貨取引所で働いている友達に、これは見ておいた方が良いと言われて。それでホワイトペーパーを読んでみたんです。
 
ビットコインって基本的には誰がいくら持っているかを合意してるだけじゃないですか。そうじゃなくてイーサリアムはそこにプログラムがのることによって、いろんなアセットが使えるようになるというところが面白そうだなって思っていました。
 
栗元さん、ちなみに当時どういうインナーサークルの盛り上がり方だったんですか?

栗元:ちなみに僕にホワイトペーパーを読めと勧めてきた友達は、イーサリアムの発表の場にいたらしいんですよ。そこではすごい盛り上がりだったらしいです。
 
でもその後僕が翻訳していろいろな人に話したり、ミートアップしたんですが、あまりみんな響いてくれなくてスルーされてました(笑)。だから当時ヴィタリックが来日した時も人が集まらなくて10人ぐらいで食事したような、まだまだ牧歌的な時代でしたね。今や彼はロックスターみたいになっちゃってますが。

栗元憲一のビットコインとの出会い

藤本:もちろんイーサリアムに出会う前に、お2人は仮想通貨やブロックチェーンのテクノロジーに触れていたと思うんですけど、それはいつぐらいからですか?

栗元:確かにイーサリアムの前からビットコインのことはやんわりと知っていました。当時IoTの仕事をしていたときに、あるプロジェクトで分散型地震計っていうのを作ったんですね。普通の地震計って100万円くらいするんですけど、もっと2,3万でちょっと性能の良い振動センサーとかを中古のスマホに付けて。それを碁盤の目のように並べようってことでやろうとしていました。
 
それを作って、東北に置きに行ったんですよね、確か2012年だったかな。その仕組みの開発は簡単だったんだけど、でも結局デプロイができなかったんです。当時誰がお金を出すかや、どういうビジネスモデルでやるのかが、全然まとまらなかったんですよ。結局どうにもならなくて2012年の終わりくらいそのプロジェクトは消滅したんです。
 
そしてそのあとにわかにメディアなどでビットコインのことが紹介されるようになってきました。その頃ビットコインの仕組みのように、例えば地震計の中に電気代だけを自治体が払うとか測定するとか、波形が取れたら賞金を出すとか、そういうことをすれば、ビットコインと組み合わせたらうまくいくんじゃないかと思って本気で調べ始めたのがきっかけですね。
 
それがブロックチェーンのテクノロジーに触れたきっかけです。その流れで2014年ぐらいからIoT×ブロックチェーンっていうのを本格的に打ち出していくようになりました。

藤本:福島さんどうですか?

福島良典のビットコインとの出会い

福島:2014年ぐらいにビットコイン自体は知りましたね。当時、今のビットフライヤーの加納裕三さんが、Gunosyに遊びに来ていたんですよ。加納さん、アンドロイドエンジニアだったんで。それでGunosyを手伝ってくださいよみたいな話をしていたら、まさに仮想通貨取引所をやるんだって話されていました。その時、加納さんにビットコイン買っといたほうがいいよって言われたのを覚えています。


 
当時はまだ野口悠紀雄さんや大石哲之さんが仮想通貨に関する本を出し始めたくらいのころでしたのでそれを読んで、さらに気になったのでビットコインのホワイトペーパーを読んでみました。
 
当時ホワイトペーパーを読んだ時の感想は、経済的なインパクトよりは単純に面白そうだなっと感じました。中央を介さずにどう合意するかという部分が面白いですよね。マイニングを、ネットワークを破壊するのではなく維持するようにしたほうが儲かりますよという仕組みにした点が。
 
インセンティブ設計をこんなふうに作れるというのが、美しいと思いました。その時に大量に買っておけばよかったなと(笑)。その時はまだ現在のようになるとは正直思っていなかったので。

仮想通貨・ブロックチェーン市場の課題

藤本:現状の日本の仮想通貨・ブロックチェーン市場を見てどのように感じますか?

福島:一時期日本では取引所がすごく盛り上がっていましたよね。たぶんそのおかげでここまで普通の人が仮想通貨を持っている国って他にないと思います。そういう意味ではすごいと思う反面、技術的な側面やプロジェクト的な側面よりも、何を買ったら儲かるんですか?というような話が先行しすぎていると感じます。
 
でも僕は今後の5年10年を考えると、どの仮想通貨を買ったら儲かるとかいった投機の側面よりも、ブロックチェーンがもたらす技術的なインパクトの方が本当は大きいと思っています。だから投機的な盛り上がりが過熱しすぎて、変な方向に行かなければいいですね。
 
日本にはもっと技術革新の進行を捉えて、ちゃんと実装できるプレイヤーがいなければならないと思っています。LayerXという会社を立ち上げたのも、そういった危機感からです。
 
日本でも、もうちょっと技術的な話題が盛り上がるといいと思います。そして実際に開発者がコアなプロジェクトにどんどん参加していって、日本発のイーサリアムの次の仕組みのようなものが出てきて欲しいですね。

栗元:僕も同じです。今この業界で一番声が大きいのは投機を推進する人たちなんですよね。そして次に声が大きいのは投機はけしからんと言っている人たちで。この状況に僕も違和感を感じています。あんまり重要じゃないところでみんながワーワー言っていても仕方ないんじゃないかと。
 
本当に大事なところ、社会にインパクトをもたらすところは全然声が通らないというのは残念です。
 
もちろん海外にもそういった投機まわりの層はいて、うるさいんですが、それと同じぐらいブロックチェーンのテクノロジー面で本質的なことをやっているコミュニティは日本よりしっかりしていますよね。

仮想通貨と規制

福島:今の日本は、仮想通貨はどちらかというと規制したい、それなのにブロックチェーンは進めたいという雰囲気を感じています。本当はこの2つは切っても切り離せないものなのに。

藤本: 本来はブロックチェーンを伸ばすなら、仮想通貨というものをどうちゃんと使えるようにしていくかというのがセットで考えないと難しいですもんね。

福島:そうですね。それを無理に切り離そうとしているように思えて、違和感を持っています。というのはブロックチェーンって、通貨自体というよりは媒介するトークンをインセンティブとして使うというところに大きなポイントがあるので一緒にちゃんと進めていかなければならないんです。

栗元:それは仮想通貨プロジェクトのお金を発行するという行為に、なんだか嫌悪感を持っている人が結構いるからじゃないですかね。お金は中央集権的に発行されるべきだというような、今までの経済の刷り込みみたいなものがあるので。

藤本:お金=通貨の捉え方の話は面白いですね。私はいわゆるお金じゃなくて、仮想通貨トークンが好きなんですよ。なんで好きなのか、まだ自分の中で消化できていなくてうまく説明できないですが。

でもお金、つまり私たちにとって日本円って生まれたときから普通にあるんですが、特にその通貨自体になんといっていいか、強い愛着があるわけではないんですよね。
 
もちろん生活するために日本円を使っていますが、それがその金額以外の価値があるかどうかは考えたことがないわけです。
 
逆に仮想通貨のトークンって私は出来上がるところから立ち会えて、そして自分が価値があると思ったものを自由に所有することができるわけです。そしてそれが使えるようになると、本当の意味での価値の交換ができている気分になるんです。
 
そういう意味でトークンエコノミーという言葉をもう一度考えた時に、なんでトークンエコノミーの方が良いかというと、本当に価値の交換をしている感覚があるからって思っています。

さっき栗元さんが言った投機的な人たちの気持ちもわかるんですが、自分はその値段がどうこうよりも、本当に自分の想いがのっかった価値の交換によるトークンエコノミー実現の方により興味がありますね。

第2回につづく

→第2回はこちら「トークンが実現するトラストレスな未来とIoT×ブロックチェーン PoT #01-2 LayerX福島良典×Nayuta栗元憲一」

インタビューイ・プロフィール

福島良典(ふくしま・よしのり)
株式会社LayerX 代表取締役社長
1988年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院工学系研究科修了。大学院在学中に「Gunosy(グノシー)」のサービスを開発し、2012年11月に当社を創業、代表取締役に就任後、2013年11月代表取締役最高経営責任者に就任。同社は創業より約2年半というスピードで東証マザーズに上場、2017年12月には東証第一部へ市場変更する。2018年8月よりブロックチェーン領域の技術開発のために新たに設立した、Gunosyの子会社である「株式会社LayerX」の代表取締役社長に注力するために異動。2012年度情報処理推進機構(IPA)「未踏スーパークリエータ」。2016年にはForbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出される。

栗元憲一(くりもと・けんいち)
株式会社Nayuta 代表取締役CEO
福岡市出身。先端SoCの開発やLSI開発のためのEDAソフトウェアアルゴリズム研究などに十数年取り組む。2011年からAndroidとハードウェアを組み合わせたソリューションを開発している。2011年 google developer day の developer sandbox採択。著書に「FPGAキットで始めるハード&ソフト丸ごと設計」がある。

(編集:設楽悠介

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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