「本」の本当の価値とは? ブロックチェーンで出版業界の課題に挑戦(BlockBase 真木大樹/山村賢太郎・あたらしい経済 設楽悠介)

竹田匡宏

ブロックチェーンはコンテンツビジネス/コンテンツ産業にどのようなチャンスをもたらすのか、特集「コンテンツビジネスの未来」の第二回はBlockBase株式会社と幻冬舎「あたらしい経済」編集部の共同プロジェクト「ブロックチェーン技術を活用した電子書籍コンテンツ販売」についてその全貌を公開。

BlockBase株式会社の代表取締役 CEO真木大樹氏と同社取締役 COO山村賢太郎氏、そして「あたらしい経済」編集長であり、今回の電子書籍の著者でもある設楽悠介が、このプロジェクトに込めた想いと、解決したい業界の課題について語った。

出版×ブロックチェーンで実用できるサービスを

−著者/クリエイターという立場で、設楽さんは今回コンテンツをなぜブロックチェーン活用して販売しようと思ったんですか?

設楽悠介(以下 設楽):僕は「あたらしい経済」を通じて、これまで様々な企業のブロックチェーンプロジェクトや実証実験を取材してきたんですけど、やっぱり実証実験から実用に移すフェーズですごく時間がかかるし、課題がたくさん出てくることが多いなと実感していたんです。

ブロックチェーンをマスアダプションさせるためには、実証実験ではなくて、実際動いていて誰でも触ることのできるプロジェクトがもっともっと生まれて来ないといけないと思っています。でもやはり実用化は簡単ではない。

それが簡単ではない理由はいくつかあるのですが、その大きな一つが、ビジネスをブロックチェーンに置き換えようとする際に既存のモデルにおけるステークホルダーや権利者などの関係者が多数いて、全員で同意して動かないといけない点だと思っています。つまり関係者が多すぎて時間がかかるわけです。そこにさらに法律の問題とかが絡んでくるわけです。

これはもちろんブロックチェーンに限ったことではなくて、世の中のサービスがインターネット化していく際にも同様にあった課題です。僕も長年出版業界にいますが、例えば電子書籍というあたらなテクノロジーの普及にも、かなり時間がかかりました。

当時僕がその仕事をしていたのですが、皆さんご存知の某海外の大型プラットフォームが日本でサービスを開始するときも、交渉から契約してローンチまで2年ぐらい時間がかかっていた記憶があります。

電子書籍の場合は、一つの会社といっても出版社の中でも経営部門、書店営業部門、編集部門、などの各セクションの合意が必要でしたし、もちろん著作権者である作家さんの必要でした。さらに話が大きくなってくると出版社の業界団体、作家さんの業界団体の合意も必要になってくるわけです。それにはすごく時間がかかりました。

それがブロックチェーンという話になると、ステークホルダーや権利者の理解も含め、また時間がかかるだろうと感じていたんです。でもせっかく僕は出版社で働きながらブロックチェーンの仕事をしているので、出版×ブロックチェーンの分野で実用できるサービスを作り、微力かもしれませんが少しでもブロックチェーンのマスアダプションに貢献したいとずっと考えていました。

そんな中、プレジデント社さんから僕に出版のオファーをいただけたんです。この本に関しては僕が著者であるので、少なくとも著者の合意とか調整が必要ないわけです。さらにプレジデント社さんもこのような新しい取り組みに柔軟な出版社さんでした。

関係者も最小でできるし、これなら実用できるサービスがスピーディーに作れるかもしれないと思い、それでコンテンツ系のブロックチェーンプロジェクトを手掛けていたBlockBaseさんに相談したんです。

山村賢太郎(以下 山村):設楽さんから相談を受けて、何度か設楽さんとBlockBaseのメンバーとアイデア出しをしました。いくつもアイデアが出たのですが、まずは今回発表した加筆され続けるトークン本を販売しようという企画が生まれたんです。

二次流通したときに著者や出版社に収益が入らない課題を解決

−具体的にはどのような仕組みなのですか?

設楽:まず電子書籍(=トークン)を購入した人だけが、そのコンテンツを利用できる仕組みをBlockBaseさんに作っていただきました。トークンを所持していることがコントラクトで確認できた人だけ、文章を読める仕組みになっています。僕は著者としてその文章をこれからどんどん加筆していくわけです。

真木大樹(以下 真木):トークンの仕様は、EthereumのERC721を利用してます。そしてこの電子書籍(=トークン)は、今後専用のマーケットプレイスで転売することができる仕組みになっています。

設楽:ここがこのプロジェクトのまず一つのポイントです。両社でブロックチェーンを使って今の出版業界の課題を解決したいと話していたんです。そこで今回のプロジェクトで本が古本市場などで二次流通された時に、出版社や著者に1円も収益が入らないという業界課題を解決できないかと考えました。

真木:ブロックチェーンを使って本を管理して、しかるべきマーケットプレイスで転売させることで、セキュアで自動的に、二次流通された際にその収益の一部を出版社と著者に配分することができます。今回はこの仕組みを実装しています。

価値によって市場で価格が変動する本

設楽:さらにこの仕組みが面白いのは、その電子書籍が二次流通される際に、その価値によって値段が市場で決められていくという点です。今回僕の本は100冊限定で販売します。つまりトークンの発行数が限られているわけです。僕の加筆する内容に価値がある、と読者の方々が思っていただければ、この電子書籍の価格は上がっていくはず。その逆ももちろんあります。

実はこの企画、僕みたいな新人ではなく、将来的にはめちゃくちゃ人気のある作家さんに使ってもらいたいと思っているんです。この仕組みを日本中の誰もが読みたいと思うような作家さんの新作小説を100人だけが読めて、それを二次流通でしか手に入れることができないということが可能になります。

そしてそのようにして100人から手渡しで流通されて行った本が転売され続けて、100万人まで行き渡ったとします。その時の読者の価値って、単純に今の100万ベストセラーと、同じ100万人が買ったとしても違った意味合いを持ってくるんじゃないかと思っています。

そしてもちろん、その二次流通の都度、作家さんにも出版社にも収益が分配されます。つまり現在の定価で本を100万部売った時と、市場価格で流通し続けた最終的に100万部売れた時の、作家さんと出版社の収益がどのようになるのかを知りたいんです。

これはデータを取らないとわからないですが、現在の定価で本を売り読者が買うというのが、果たして読者にとっても出版社にとっても作家さんにとっても最適なのか、ということも検証できるかもしれないと思っています。

真木:そしてこの電子書籍がどのように人の手に渡って行ったのか、ブロックチェーン上でトラッキングできるという点も面白いですよね。これも今まで古本屋で本が流通しても、誰から誰に渡ったのか確認できなかった。もちろん個人情報はわからない状況にした上ですが、そういったデータを出版社や著者が見ることができれば、今まで出版業界では得ることのできなかったマーケティングデータになるかもしれません。

山村:これからサービスを拡大していく際に、この辺りはルールを作りますが、やり方によっては作家さんや出版社の方が、自分の本がどのように流通していったか、読者と読者のどのようなつながりがあるかといったデータをマーケティングに使うということもできるようになるわけです。

設楽:現在の出版業界は市場の仕組みの問題で、その辺りのデータマーケティングもちゃんとできていないですからね、それが実現できると面白いですよね。

多くの人にチャンスをもたらす新しい出版モデル

−その他に出版業界の課題を解決できるポイントはありますか?

山村:この仕組みをうまく使えば、今までの出版業界で実現が難しかった小ロットの出版もちゃんとビジネスにできるのではと思ってます。

設楽:おっしゃる通り、今出版社は市場の仕組み上、少なくとも数千人が買ってくれると想定できる本しか出版できないですからね。もちろん物理的には本を作って流通させることは可能ですが、数千ロットは売れないと赤字になるのでビジネスとして成立できなかった。

山村:はい、それがこの仕組みを使えば、ニッチだけど10人や100人だけが読みたい本を作って、その場合だと二次流通価格は高くなるとは思いますが、それがちゃんと価格形成されれば、ビジネス化できるケースも生み出してけますよね。

設楽:例えばBlockBaseさんが書いた『ブロックチェーンのNFTマーケットの作り方』みたいな技術書は、正直現状の一般の出版市場では数千人の需要があるか判断するのは難しいですが、でも絶対読みたいブロックチェーンエンジニアの方も多いと思うんです。この仕組みを使えばそれが実現できるかもしれませんね。

UIとUXのために秘密鍵とアカウントの最適な管理方法を

−今回開発でこだわった点はどこですか?

真木:ブロックチェーンのサービスは使いにくいというイメージがあると思うんですけど、僕はそうではないなと思っています。実装をちゃんとやれば、ウェブアプリケーションとして使いやすいものは作れるんです。

それで今回こだわったことの一つは、ブロックチェーンのアカウント管理についてです。それをできるだけシンプルにしようと思いました。初めはメタマスクを使ってその辺りの認証を考えていたんですが、それだとUIやUXがよくないですよね。特に一般の人にはハードルが高い。

だからブロックチェーンの認証のセキュリティを既存のデータアプリと同じような感じで使えるようにしたいと思ってました。

その辺りに関して、国内外で課題なのは秘密鍵をユーザーに持たせるか持たせないかですよね。持たせるならメタマスクのようなウォレットを使う、持たせずに預かるならカストディとなるというように二極化しているじゃないですか。

でもそのアプローチには、必ず中間のアプローチがあるんじゃないかなと思っていて、秘密鍵はある程度預かるんだけど、カストディじゃなくて、かつ使いやすい丁度いい秘密鍵の管理の方法があるんじゃないかなと考えました。

そこで今回の仕組みにはコントラクトウォレットをうまく有効活用して、そのコントラクトウォレットにアクセスする鍵をユーザーのローカルに保存しつつ、サーバー上に暗号化したものを保存するみたいな形式にしています。

コントラクトウォレットにトークンの情報であったり、KYCの情報とかを載せていけば、今までのアカウント管理よりもシンプルで、かつ使いやすいプラットフォームができるんじゃないかと考えました。

トークンにアクセスする権利みたいなものを既存のWEBの技術を使って実装して、そのトークンを持っている状態だと、書き込みができる、トークンの閲覧ができるという認証基盤を作りました。

僕はブロックチェーンがもっと使われるためには、円滑なアカウント管理プラットフォームが必要になると思っています。そこを通常のWEBと変わらない、Google認証とかFacebook認証などと同じ要領で使えるくらいに落とし込めば、既存のブロックチェーンサービスの使いにくさを廃止した上で、ブロックチェーンのセキュアな部分、インターオペラビリティを有効活用できるプラットフォームになるんじゃないかなと思っています。

山村:今回は設楽さんの本を第一弾プロジェクトとしましたが、この仕組みのベースを拡張すれば、使えば本に限らず、音声や動画などのコンテンツの販売も可能にできると思ってます。だから出版社や作家さんはもちろん、出版業界以外のコンテンツ業界の方からも是非お問い合わせいただきたいと思ってます。

加筆できる本、これから書き始める本を売れる仕組み

−最後に、加筆されていく本というアイデアはどのように出たんでしょうか

設楽:これまで話したようにブロックチェーンを使って自由な読者同士の市場でコンテンツを流通販売されていく場合、そのコンテンツ自体が固定されているよりも、変動要素があるとよりそのコンテンツ自体の価値、つまり流通価格に影響が出せると考えました。だから加筆されていく本にしたんです。

何やら「畳み人という選択」は本で読んだけど、加筆されていく内容がものすごく良いと噂に聞くので、こちらも買ってみようかな、読みたいな、なんて状況を作れたら素敵ですよね。だから頑張って加筆していこうと思ってます。

あと、これは今思いついたんですが、僕は今回加筆できる本を実現しましたが、この仕組みを使えばこれから書く本を販売することもできますね。コンテンツメーカーが作品を作り上げる過程自体を見せて販売していくようなこともできますね。

有名作家さんが、書き上げるまでの小説100人にだけ販売し、それが転売できるみたいなことも実現できるかもしれない!

山村:設楽さん、是非2冊目の出版のお話があれば、次は書く前からこの仕組みで販売しましょう!

『加筆されていく「畳み人」という選択』商品情報

このコンテンツはブロックチェーン上でトークンとして管理されており、購入・利用後、必要に応じて他人への譲渡が可能となります。(譲渡機能の追加は2020年4月上旬を予定しています)

また、当コンテンツに含まれる内容は、書籍版の「畳み人」という選択に含まれる全てのテキストコンテンツに加え、特典として著者自らが定期的に加筆更新(2022年2月迄を予定)をしていく内容が含まれています。

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書籍情報

書名:「畳み人」という選択 「本当にやりたいこと」ができるようになる働き方の教科書
著者:設楽悠介
価格:1400円+税
出版社:プレジデント社

 幻冬舎で「あたらしい経済」編集長や関連会社の役員を兼務し、Voicyで総再生回数60万回突破した人気パーソナリティ、初の著書!
 「畳み人(たたみにん)」とは、仕事のアイデアを実行可能な状態までに設計し、着実に実行に移す人を指します。ビジネスにおいて突飛なアイデアの大風呂敷を広げる経営者やリーダーを「風呂敷広げ人」とするならば、この本で定義する「風呂敷畳み人」は、そのアイデアを着実に実行する(畳む)リーダーに対する「名参謀」や「右腕」のような存在。これからの時代に求められるのは、リーダーをサポートしながらときにチームの先導役、ときにプレイヤーとして変幻自在に活躍する「畳み人」ビジネスパーソンなのです。
 幻冬舎のカリスマ社長・見城徹氏や、メディアで話題の編集者・箕輪厚介氏が次々に立てる突飛なプランを影ながら実行に移してきた著者が、これまでに培ってきた「畳む技術」を惜しげもなく披露するのが本書です。

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お問い合わせについて

このプロジェクトは今後他の書籍コンテンツや、メディアコンテンツの販売も検討していきます。このブロックチェーンプロジェクトご興味のある作家様、出版社様、その他コンテンツ業界の皆様は、以下からお問い合わせください。

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この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学卒業。
幻冬舎で「あたらしい経済」の編集者・記者。
また個人活動としては「死ぬまで毎日ブログを書く」という約束をもとにブログ「たっけのメモ」を4年間運営。ラジオ番組「ミレニアル世代のアタマの中」のパーソナリティー。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学卒業。
幻冬舎で「あたらしい経済」の編集者・記者。
また個人活動としては「死ぬまで毎日ブログを書く」という約束をもとにブログ「たっけのメモ」を4年間運営。ラジオ番組「ミレニアル世代のアタマの中」のパーソナリティー。

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