インターネットはコンテンツビジネスを幸せにしたのか?

設楽悠介

ブロックチェーンはコンテンツビジネス/コンテンツ産業にどのようなチャンスをもたらすのか、特集企画「コンテンツビジネスの未来」の第1回はこれまでのコンテンツビジネスと技術革新とこれからの課題について考察します。

コンテンツビジネスと技術革新

コンテンツビジネス・コンテンツ産業とは、みなさんもご存知の通り映像(映画、アニメ等)、⾳楽、ゲーム、書籍の制作や流通に関するビジネス/産業のことである。

コンテンツビジネス、そしてそれを支えるコンテンツ産業は、テクノロジーの発展でこれまで大きく進化を遂げてきた。

映像のジャンルであれば、エジソンがキネトスコープを発明し、フランスのリュミエール兄弟のシネマトグラフ、音楽であれば同じくエジソンの蓄音器、出版に関してはグーデンベルグによる活版印刷、これらがコンテンツビジネスを文字通りビジネスにするきっかけとなったイノベーションであり、テクノロジーだったと振り返ることができる。

彼らの発明により、私たちはコンテンツを保存し、再現でき、広く伝播流通することが可能になった。それに合わせて多くの産業が発展した。

その後も各ジャンルで様々なイノベーションは進み、それぞれの産業を成長させていくことになる。詳しくは割愛するが様々な技術の発展に伴い、私たちはより便利に多くコンテンツを消費ができるようになったわけだ。

そしてインターネットがもたらしたもの

そしてコンテンツビジネスに大きなパラダイムシフトをもたらす技術がこの世に生まれた。それはデジタル化とインターネットだ。

デジタル化はコンテンツ自体をより流通しやすいサイズにし、インターネットはその流通インフラとなった。

インターネットは、あらゆる産業において距離とスピードを縮めた。そしてそれまで必要だったアナログなインフラをディスラプトした。もちろんコンテンツビジネスもその恩恵と影響を受けることになる。

それぞれのジャンルによって時期は異なるものの、多くの映像や音楽や書籍はオンライン上で私たちの手元に届くようになった。それはそれまでのコンテンツのパッケージを流通していた流通業者や小売店を脅かすことになる。

またインターネットがもたらした双方向性により、今までは一定の層しかコンテンツビジネスの提供側になれなかった状況も一変した。今なら誰でもスマートフォンで映画のようなクオリティの高い作品を撮影もできるし、その動画をインターネットのプラットフォーム上で販売したり、広告収益を得られるようになった。

誰もがコンテンツビジネスの提供側にも、受け取り側にもなれる時代が、現在だ。

これらの発展には、インターネットにおけるコンテンツの無料化と広告モデルでの収益化というビジネスモデルの台頭も大きく影響している。これについてはまた別の機会で言及しようと思う。

マーケットは消費者にとって都合がいいように動く。消費者がより良いと思った技術の進化は、なかなか止められない。それにルールに反している要素があってもだ(例えば音楽ファイル共有ソフト「ナップスター」のインパクトは、その後の音楽業界の在り方を大きく変えたと考えられる)。

一度かじってしまった果実の甘みを、私たちは忘れることができないかもしれない。

特定のプラットフォーマーを強くしたインターネット

他の産業でも同様だが、インターネットはメーカーよりもプラットフォーマーを強くした。インターネットが生まれる前までは、コンテンツを創り出すプレイヤーの力が強かったが、ネットはその立場を逆転させたのだ。多数の消費者を抱えたプラットフォーマーが、一番強い存在となった。

ではインターネットはコンテンツビジネス・コンテンツ産業を幸せにしたのだろうか。これについては一言で論じることは難しい。その答えは見る角度や立場によって、全く違うからだ。

少なくとも消費者(コンテンツの受け取り手)は幸せになっていると思う。多くのコストや手間をかけず、コンテンツを楽しむことができる状況になった。ただ消費者は確実に質の高いコンテンツを得られているのだろうか、その点を考えると、そもそも幸せという言葉自体曖昧ではあるが、幸せとは言い切れないとも思っている。

また新たなコンテンツメーカー、クリエイターにとっても、その参入チャンスを広げたという意味では幸せをもたらしたかのように思える。ただ本当にそうだろうか?

そして従来からこの業界にいるコンテンツメーカーや、その周辺事業者にとっては、恩恵よりも害悪の方が大きかったかもしれない(もちろんそのテクノロジーの変化に柔軟に対応できたかどうかで明暗は大きく分かれている)。

そして出版という、いちコンテンツビジネス業界に身を置くものとして、私はインターネットがもたらした様々なコンテンツビジネスの変化の多くを評価している。ただ現状がコンテンツビジネスにとって最適な状況かと問われれば、そうではないと感じている。

あくまでもコンテンツメーカーの立場としてのポジショントークではあるが、現在のプラットフォームの寡占状態は、コンテンツビジネスにとって、その参加する多くのプレイヤーにとっては最適なものではないと感じている。

もちろん、今後も現在の巨大なプラットフォーマーは新しい何かにディスプトされて、どんどんと入れ替わっていくかもしれない。その度に私たちコンテンツメーカーは、右往左往せざるを得ないのかもしれない。

私はここがプラットフォームに優位に力学が働く、現在のインターネットの限界点だと思っている。

ブロックチェーンという、あたらしい可能性

そして今から約10年、今までの様々なインターネットの技術を組み合わせた、新しいテクノロジーが生まれた。ブロックチェーンだ。

サトシ・ナカモトと名乗る人物(団体、現在まだ特定されていない)が、論文を発表した。彼はビットコインという、国や銀行に管理されずともみんなで安全に使えるお金を設計したのだ。彼はまずはビットコインでお金の本当の民主化を目指したと考えられている。

そのビットコインを動かす仕組みがブロックチェーンだ。ブロックチェーン技術は、あらゆる中央管理を不要にする、あらゆるものを民主化する可能性を秘めた技術だ。

すでに多くの産業分野に、世界中、そしてこの日本においても、この技術を使った多くのプロジェクトが動き始めている。それはコンテンツビジネス業界においてもだ。

ブロックチェーンは、コンテンツビジネスを幸せにできるだろうか。その答えはまだわからない。ただその脱中央集権型の仕組みは、可能性を秘めている。現在のコンテンツビジネスにおける、大きくなりすぎたプラットフォームの問題を解決するために、ブロックチェーンは有用かもしれない。

この特集ではコンテンツビジネス業界で、果敢にブロックチェーンを活用し、新たなビジネスの未来を切り開こうとするプレイヤーを紹介していく。

どんどんと便利になっていく、インターネット。それは私たちに多くの幸せをもたらしたのは間違いがない。しかし、今私たちか感じているのは、本当にこれ以上ない最高の幸せなのだろうか。

できればそのような疑問を持って、この特集を読み進めてほしい。

「あたらしい経済」編集長 設楽悠介

→特集「コンテンツビジネスの未来」第1回対談「「本」の本当の価値とは? ブロックチェーンで出版業界の課題に挑戦(BlockBase 真木大樹/山村賢太郎・あたらしい経済 設楽悠介)」はこちら

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設楽悠介

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長
幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で編集や電子書籍事業、新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役を兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」のボードメンバー。テレビ番組「スポットライト」(RKB)、ラジオ「テンカイズ」(TBS)にレギュラー出演。「みんなのメンタールーム(Amazon audible)」「風呂敷畳み人ラジオ(Voicy)」「あたらしい経済ニュース」等のポッドキャストも配信。著書に『畳み人という選択』(プレジデント社)。

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長
幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で編集や電子書籍事業、新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役を兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」のボードメンバー。テレビ番組「スポットライト」(RKB)、ラジオ「テンカイズ」(TBS)にレギュラー出演。「みんなのメンタールーム(Amazon audible)」「風呂敷畳み人ラジオ(Voicy)」「あたらしい経済ニュース」等のポッドキャストも配信。著書に『畳み人という選択』(プレジデント社)。

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BlockBase株式会社の代表取締役 CEO真木大樹氏と同社取締役 COO山村賢太郎氏、そして「あたらしい経済」編集長であり、今回の電子書籍の著者でもある設楽悠介が、「ブロックチェーン技術を活用した電子書籍コンテンツ販売プロジェクト」に込めた想いと、解決したい業界の課題について語った。