既存ウォレットや取引所から入金、5ネットワークに対応
プライバシー送金ツール「zERC20」を開発するzERC20 Limitedが、新バージョン「zERC20 v2」をメインネットで公開したと11月4日に発表した。
zERC20は、レイヤー2プロジェクト「イントマックス(INTMAX)」のコア開発者らが手がけるプライバシー送金プロトコルだ。
v2では、ブラウザ上でパスキーを使ってアカウントを作成し、顔認証や指紋認証でアクセスできる。専用アプリのインストールは不要で、24語のリカバリーフレーズによるバックアップにも対応するという。
対応ネットワーク上の対象トークンを保有していれば、新しいチェーンへの移動や新たなトークンの購入は必要ないとする。
利用者は、既存のウォレットや暗号資産(仮想通貨)取引所から、zERC20のワンタイムアドレスへ対応トークンを送ることで、外部に保有額を公開しない「プライベート残高」に入金できる。出金時には、残高の全部または一部を元のトークンとして任意のアドレスへ送れるとのこと。
送金や出金の際には、トランザクションの送信を代行する「リレイヤー」がネットワーク手数料を支払い、利用者が送るトークンから手数料を受け取る。このため、利用者はガス代の支払いに使うトークンを別途用意する必要がない。ただし、手数料自体が無料になるわけではない。
zERC20は、入金されたトークンを、元の資産に1対1で裏付けられた「z」版のトークンにラップする仕組みだ。例えば、米ドル建てステーブルコイン「ユーエスディーシー(USDC)」を入金すると「zUSDC」になり、出金時にはUSDCへ戻せる。
同社によると、ゼロ知識証明を使い、支払人や資金の出所となる入金を明かさずに支払いの正当性を証明する。zERC20アカウント間の送金では、送信者・受取人・金額がチェーン上に公開されない。また、運営にも利用者の取引詳細が見えないよう設計されていると説明している。一方、入金と出金そのものは公開記録に残るという。
ローンチ時点では5ネットワークに対応する。イーサリアム(Ethereum)、ベース(Base)、アービトラム・ワン(Arbitrum One)ではzETHとzUSDCが利用できる。
また、BNBスマートチェーン(BNB Smart Chain)ではzBNB、ポリゴン(Polygon)ではzPOL、zUSDC、zJPYCに対応する。
このうちzJPYCは、日本円建てステーブルコイン「JPYC」をラップしたトークンだ。
また、QRコードやリンクを共有し、zERC20 IDを相手に伝えずに他のzERC20アカウントから支払いを受け取る機能も備える。オンラインショップ向けの決済ページも提供し、店舗がトークンをプライベート残高で直接受け取ることで、顧客のプライバシーや店舗の売上情報を保護できると伝えられている。
残高と履歴の閲覧権限を、会計士などに共有する「ビューキー」にも対応する。ビューキーは閲覧用であり、資金を動かすことはできない。
不正利用への対策として、ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)による、入金の送信者と出金の受取人のスクリーニングを行う。問題が検知された入金はプライベート残高へ入れず、送信者への返金のみ可能とする。制裁対象などのアドレスを登録するブロックリストも設け、対象アドレスではzトークンの送受信やラップ・アンラップができないようにするという。
ブロックリストの変更はすべて公開する。ハッキング事案などでは、この機能を使って個別のアドレス単位で凍結できるとのこと。
さらに、すべてのプライベート送金と出金について、チェーンに受け付けられる前に「アテスターサーバー」が確認する。法的要請に基づく監査では、指定された監査人が承認手続きを経て対象アカウントの履歴を閲覧でき、監査用のビューキーが使われた事実は公開ログに残るとのこと。
同社は、運営であっても利用者の資金を動かせないノンカストディアル型の設計を採用したと説明する。サービス側で入金を処理できない場合には、スマートコントラクトのみを使って送信者へ返金する「Exit」機能も備える。
安全対策について、zERC20 Limitedは、スマートコントラクトから「Groth16」、「Nova」を利用するすべてのゼロ知識証明回路までを「Lean4」でモデル化し、設計上の性質を数学的に確認する形式検証を行ったと説明されている。
具体的には、離散対数問題やハッシュ関数の衝突発見の困難性といった暗号学的仮定の下で、正当な所有者以外が資金を使用できないこと、二重使用ができないこと、すべての残高を裏付ける十分なトークンをプールが保有することを形式的に証明したという。
また、信頼された実行環境「TEE(Trusted Execution Environment)」を活用し、証明に必要な秘密情報(witness)を外部に開示せず、その正当性を独立した仕組みで検証する。この検証を通過した場合のみZK証明の利用を認めることで、形式検証に加え、ZK回路の不具合に対する追加の安全対策を講じたとのこと。
プロトコルの管理には、独立した外部の署名者を含むマルチシグを採用し、zERC20社単独では利用者の資金に関わるプロトコルを更新できないとのことだ。
zERC20 LimitedのCEOである藤本真衣(Mai Fujimoto)氏は、v2の開発ではプライバシーとコンプライアンスのバランスを考慮し、プライベートな送受金の使いやすさを追求したと述べている。また、ガス用トークンの補充が不要なため、補充に伴うプライバシー漏洩の懸念も解消できると説明している。
zERC20では今年9月13日、ポリゴン上で996万5,000zJPYCの不正発行(ミント)が発生していた。運営チームの報告によると、攻撃者がその一部をJPYCに交換したことで、約335万JPYC(約335万円相当)が外部流出した。
原因は、暗号学的な証明システム「Nova」の既知の脆弱性に加え、本来無効化すべき一括出金機能が設定ミスで利用可能になっていたことだと説明されている。運営チームは当時、影響を受けた利用者資産を全額補償する方針を示し、再発防止策として、稼働後のコントラクト設定を確認する「デプロイ後監査」やオンチェーン監視の強化などを公表していた。
なお、2026年2月に公開された旧バージョン「v1」は、11月4日9:00(日本時間)をもってラップとプライベート送金を停止した。v1からの出金は2027年4月30日まで継続する。v1の利用者は、資金を出金したうえでv2へ入金し直す必要がある。
また、zJPYCとzUSDCは、zERC20が独自に提供する非公式のラップトークンだ。JPYC社およびUSDC発行元のサークル(Circle)は、これらの提供、共同開発、審査、推奨に関与していないと明記されている。
zERC20 v2 is live. The easiest way to send crypto privately!! https://t.co/J8KkTocTXa
— zERC20 (@zERC20io) November 4, 2026
画像:PIXTA