モナド、「耐量子化」ロードマップ公開。アドレス変更不要の認証方式を開発中

モナドが耐量子化ロードマップを公開

レイヤー1ブロックチェーン「モナド(Monad)」の量子コンピューターによる暗号解読リスクに備えるためのロードマップが9月28日に公式サイトで公開された。モナドの開発を手がけるカテゴリー・ラボ(Category Labs)は、利用者がアドレスを変更せずに量子耐性を備えた認証方式へ移行できる仕組みと、コンセンサスの耐量子化を優先して開発している。今後はステーキングやスマートコントラクトの実行環境などにも対応を広げる計画だ。モナドの公式Xアカウントが10月8日に同ロードマップを紹介した。

モナドは、イーサリアム(Ethereum)と互換性のあるスマートコントラクトを実行できるレイヤー1ブロックチェーンだ。今回のロードマップは、ウォレット、コンセンサス、ステーキング、EVM、証明インフラ、暗号化メモリプールの6項目で構成されている。このうち、ウォレットとコンセンサスの耐量子化は開発中であり、残る4項目は計画段階にある。

モナドやイーサリアムでは、一般的な利用者の取引に電子署名方式「ECDSA(楕円曲線デジタル署名アルゴリズム)」が使用されている。ECDSAは、利用者が秘密鍵を使って取引に署名し、対応する公開鍵で署名の正当性を検証する仕組みだ。しかし、十分な性能を持つ量子コンピューターが実現すると、公開鍵から秘密鍵を復元できる可能性がある。一般的なアカウントでは、取引を送信すると公開鍵が第三者に知られるため、攻撃者が秘密鍵を復元した場合、本人になりすまして資産を不正に移動できるおそれがある。

こうした暗号解読について、近年の研究では、必要な計算資源が従来の推計より少なく済む可能性が示されている。グーグル(Google)が2026年3月に発表した研究では、50万個未満の物理量子ビットを備えた量子コンピューターによって、ECDSAで使用される楕円曲線「secp256k1」に対応する秘密鍵を18分または23分で復元できる可能性が示された。物理量子ビットは、量子コンピューターのハードウェア上で実現される情報の基本単位を指す。ただし、これらの数値は将来の量子コンピューターを想定した研究上の推計であり、現在の技術で実証されたものではない。

また、モナドは、量子コンピューターの導入費用が高額でも、複数の攻撃対象に繰り返し利用できる点を指摘した。このため、高額な資産を保有するウォレットへの攻撃は、経済的に成立する可能性があるとのことだ。こうしたリスクを踏まえ、モナドは利用者の資産を保護するウォレットの耐量子化を最優先に位置付けた。

アドレスを変更せずに耐量子認証へ移行

従来型のウォレットでは、取引の署名に使う鍵とアカウントのアドレスが結び付いている。このため、別の鍵や認証方式へ移行する際には、通常、新しいアドレスを作成して資産を移動する必要がある。こうした課題に対応するため、カテゴリー・ラボは「柔軟かつアップグレード可能なアカウント認証(Flexible and Upgradeable Account Authentication)」と呼ばれる技術提案を公開している。

同提案では、アカウントが認証設定を自身の状態情報として保持する仕組みが示された。これにより、利用者は既存のアドレスに量子耐性を備えた認証情報を追加し、従来の認証情報を無効化できるようになる。ただし、同提案は設計段階のドラフトであり、具体的な実装仕様はまだ確定していない。

アドレスを維持できることは、分散型金融(DeFi)サービスの利用者にとっても利点となる。例えば、DeFiでは預け入れた資産や取引上の権利が特定のアドレスにひも付いている場合があり、アドレスの変更には追加の手続きが必要になることがある。モナドは、今回の仕組みによって、DeFiプロトコルの会計処理やアドレス帳への影響を抑えながら移行できると説明している。ただし、量子耐性による保護を得るには、利用者が取引の署名や認証設定の変更に関するルールを新しい方式へ移行する必要がある。

さらに、カテゴリー・ラボは、将来の暗号技術の変更にも対応できる設計を重視している。特定の暗号方式に安全性の問題が見つかった場合でも、プロトコルのアップグレードによって新しい方式を追加し、利用者が認証方法を変更できるようにする計画だ。

ウォレットに続く優先事項は、コンセンサスの耐量子化だ。コンセンサスは、ネットワークの参加者が取引履歴について合意し、取引を確定するための仕組みだ。モナドのコンセンサスでは、取引の検証やブロックの承認を担うバリデーターの署名には「BLS12-381」と呼ばれる暗号技術が使用されている。

しかし、十分な性能を持つ量子コンピューターによってバリデーターの秘密鍵が復元されると、攻撃者が署名を偽造できる可能性がある。十分な署名権限が侵害された場合には、異なる取引履歴を正しいものとして認識させる二重支払い攻撃や、取引確定の妨害につながるおそれがある。ただし、バリデーターの署名を偽造できても、それだけで利用者のウォレットから資産を移動できるわけではない。カテゴリー・ラボは、こうしたネットワーク全体の安全性に関わるリスクに備え、コンセンサス方式「ケイデンス(Cadence)」の耐量子版を開発している。

その後の対応として、ステーキングでは、ウォレットとコンセンサスの耐量子化で導入する仕組みを再利用する計画だ。具体的には、ステーキングされた資産の管理権限を保護するとともに、バリデーターの登録時にも量子耐性を備えた認証情報を利用できるようにする。

また、スマートコントラクトを実行するための仕組みであるイーサリアム仮想マシン(EVM)についても、耐量子化が計画されている。カテゴリー・ラボは、スマートコントラクトで使用される電子署名や暗号学的な証明について、量子耐性を備えた検証手段を提供する方針だ。さらに、プログラムの実行結果が正しいことを暗号技術によって証明するゼロ知識仮想マシン(zkVM)など、証明インフラの耐量子化も計画に含まれている。

最後の優先事項は、暗号化メモリプールの耐量子化だ。暗号化メモリプールは、ブロックに取り込まれる前の取引内容を暗号化し、第三者が事前に確認できないようにする仕組みだ。これにより、取引の順序などを利用して追加的な利益を得る最大抽出可能価値(MEV)の獲得機会を減らすことを目指す。一方、量子コンピューターによって暗号化が破られると、取引内容が予定より早く明らかになる可能性があるため、モナドは暗号化方式も将来的に更新する計画だ。

なお、モナドはロードマップ全体の完了時期を明らかにしていない。一方、グーグルは2029年を耐量子暗号への移行目標に設定しており、イーサリアム財団の耐量子チームも、レイヤー1の主要なプロトコルアップグレードを2029年までに完了可能と見積もっている。ただし、イーサリアムの実行レイヤーや関連アプリケーションの移行には、さらに時間がかかる見通しだ。モナドも、ウォレットやバリデーター、アプリケーションの移行には時間を要するため、量子攻撃が実用化される前から準備を進める必要があると説明した。

参考:モナド
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者
ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。

「あたらしい経済」編集部 記者
ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。

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