ビットコインが秘めた、ポジティブな帰還ループの潜在的可能性

小宮自由

ビットコインが秘めた、ポジティブな帰還ループの潜在的可能性

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第21回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

このフォーラムで、サトシは一般的な概念を説明し、通貨供給量と人口の問題を扱っている。彼はビットコインを貴金属になぞらえ、ビットコインの利用者数が供給量を上まわる速度で増えるときに起こるビットコイン価格への帰還ループに触れている。興味深いことに、これはまさしく現実に起きたことだった。

価値が失われずに増え続ける通貨を使って生活するとどうなるか、人々が現実の生活体験を通じて気づいたときをイメージしてみたい。経済が拡大し、生産力が増大すれば、物価は下がる。品質改良が非常に速く進む製品(例えばコンピューター)は除くとして、今日、物価が下がらない唯一の原因は、政府によって引き起こされる通貨膨張による。

Re:ビットコイン ピアツーピア通貨のオープンソースの実装 サトシ・ナカモト 2009年2月18日 20時50分

それではサトシの2009年02月18日20時50分の投稿を見ていこう。

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ビットコインはグローバルな分散型データベースで、多数派の合意によるデータベースであり、その基礎となる運営ルールがあります。

・プルーフ・オブ・ワークを発見してブロックを生成すると、新たなコインが与えられる。

・プルーフ・オブ・ワークの難易度は、一時間当たり平均六ブロック(ネットワーク全体で)を目標に、二週間ごとに調節される。

・ブロック当たりの報酬コインは四年ごとに半減される。

コインの発行は多数派の手で行われると言えるでしょう。コインの発行数の上限は事前に決まっています。

例として、千のノードがあり、六のノードが一時間ごとにコインを獲得するとすれば、あなたが獲得する番になるまで、一週間かかると見込まれます。

Seppの質問*1 に答えると、利用者数の増加に合わせて通貨供給量の調節を行う中央銀行や連邦準備制度のような機関はありません。これだと、現実世界の物の値段をソフトウェアに判断させる方法を私は知りませんので、信用される第三者による値段の決定が必要です。もしうまい方法があったり、信用される第三者に積極的な通貨供給量の管理をさせて一定化させたいのなら、それに合わせてルールがプログラムされるでしょう。

この意味では、これは貴金属に典型的に起きる話です。価値を同一水準に維持するために供給量を変えるのではなく、供給量があらかじめ決まっていて価値の方が変わります。利用者数が増えれば、1コイン当たりの価値は上がります。ビットコインはポジティブな帰還ループの潜在的可能性を秘めています。つまり、利用者数が増えると価値が上がり、上がった価値を利用したくなってさらに多くの利用者を引き付けます。

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【訳注】
*1 第20回「過去の失敗したデジタル通貨とビットコインの大きな違い」参照

解説

ビットコインの基礎を再度説明しています。ビットコインは価格が不安定ですが、これは価格に応じて通貨供給量を調整する機関が存在しないからです。「価格が不安定だから使い物にならない」ではなく、「価格の安定を犠牲にして第三者機関への信用を不要にした」と考えるべきです。それに、価格が不安定なのは短期的な可能性もあります。ビットコインが将来的に多数の人に日常決済に使われるようになれば、自ずと価格も安定していくでしょう。

サトシは「現実世界の物の値段をソフトウェアに判断させる方法を私は知りません」と述べていますが、現在であればAIによって判断させるという手がありそうです。2023年8月現在は存在しませんが、AIにより通貨供給量を自動調整する暗号資産が出てくる日も近いのではないでしょうか。

小宮自由

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

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