国内外でブームと言える状況のNFTだが、これからどのように市場が成熟していくのだろうか?
前編に引き続き、「あたらしい経済」ではブロックチェーン業界に精通する弁護士の1人である長瀬威志氏に、法律的な観点からNFTにまつわる疑問や、現状のリスクや、その可能性について語ってもらった。
過去のICOブームと今のNFTブーム
−今のNFTブームは過去のICOブームは似ているという人も多いですが、どうお考えですか?
確かにそういう要素はあります。
ICOは結果的に「実はこれは暗号資産でした」というトークンを使って、お金を集めていたケースが多かったです。つまり、ICOは「トークンが欲しければイーサ(ETH)やビットコイン(BTC)で払ってください」という資金調達手法でした。
NFTもICO同様の資金調達ができます。
例えば「先にレアなゲームキャラクターをNFTで販売しますよ」とユーザに伝えたとします。
そして「あるユーザーへ先行販売して、ローンチするゲームの中であなたが有利に戦えます」と伝えて、NFTキャラクターが何百体も存在する環境を生み出します。
もちろん似ているNFTキャラクター数が多いことが問題になるわけではないです。
しかしそのNFTキャラクターが、他のサービスと交換できるお金のような要素があれば、暗号資産を利用した資金調達だと認識されやすくなると思います。
そのような状況になると、そのNFT発行者は暗号資産交換業規制で問題になる可能性があります。そのためNFTに関する事業をこれから始める方は、事前に1つ1つしっかりと法的な確認を取る方が良いと思います。
デジタルデータに所有権はない!?
−NFTは現在でも売り買いされていますが、買い手と売り手の間でどのような権利移転があるのでしょうか?
買い手や売り手がNFTを売買するとき、今のマーケットでは何の権利を売買しているかよく分からないのが現状です。
日本では「NFTを所有すれば、所有権を持つことになります」とよくメディアなどでも伝えられています。しかし、そのような表現は法律的に正確ではありません。
ビットコインにも共通の問題ですが、日本の民法の考え方では、所有権のような強力な物的権利が認められる対象は、有体物であることが大前提になります。
確かにブロックチェーン上でNFT化した場合、その秘密鍵を持っている人だけが、当該NFTに紐づいたデータの唯一の管理者であるとは言えますが、法律的にはそれは形のない無体財産のデータとしか捉えられません。
だからNFT事業者が「NFT化すると権利の所有ができます」と謳いビジネスを行うことは、法的に正しくありません。
そしてNFTアートがハッキングされて盗まれた場合、そのNFTに所有権がないので、ハッカーを特定しても所有権に基づいて返却を求めることが難しいという事態が生じます。
その場合、NFTデータと秘密鍵を持っている人には少なくとも財産的価値はあるので、それに対する違法行為だという一般法での責任追及しかできないと思われます。物権に基づく取り戻し請求は認められないでしょう。
そういう意味では、ビットコインもNFTと同じ、ただのデジタルデータです。
データに対する所有権がそもそも無いので、それを売り買いすることは法的な位置付けが難しいのです。
あえて想像する、NFT最悪の結末
−あえて、NFT市場の今後迎えるかもしれない最悪なケースは、どのような状態だと考えらレますか?
2つのケースが想定できます。
1つは権利関係が何も整理されないままNFTが売買されてしまい、一度バブルが崩壊した後、ユーザー、著作者、マーケットプレイスの間で権利関係の処理をめぐってのトラブルが頻発して、NFTやブロックチェーン技術そのものに対する信用が失墜してしまうパターンです。
もう1つは権利関係の整理やマーケットも順調に成熟していき、ただNFTがマネーロンダリングなど違法な取引の温床になってしまうことです。
両極端なシナリオかもしれませんが、最悪な結末として考えられるのは、この2つのケースではないかと思います。
−いずれの状況でも、弁護士の力がとても重要になると思います。
そうですね。現在、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会では、NFT部会が立ち上げられていろいろなことの整理を進めています。
いずれは所有権や著作権のようなIPの権利関係についても整理していきたいと強く思っています。ただマーケットの成熟スピードが速すぎるので、法的整理のスピードが追いつかないのが現状です。
市場のスピードが早いので、まずは利用規約などをブラッシュアップしていくのが一番にできることだとは思います。
しかし、それが追いつかなければ、トラブルが発生した後、訴訟になり、規制が生まれる形になります。きっと海外でも、高額なNFTアートがハッキングされるなどして、そのあとの法的トラブルになる事例は今後増えてきてしまうのではないでしょうか。
NFTやブロックチェーンが実現しうる素晴らしい社会
−最後に、NFTは社会にどのような価値を生み出してくれると期待していますか?
これまでNFTは論点や問題が多いとこれまで話してきましたが、私自身、NFTの仕組み自体はすごく画期的だと思っています。
NFT化するからといって著作権も所有権も生まれるわけではありませんが、ただNFT化することでデータに財産的価値が加わります。
さらにそのデータの財産的価値がNFT保有者に帰属していると証明しやすくなることは、間違いなくブロックチェーン技術の素晴らしいところです。
「NFTには所有権も著作権もないので、持つ必要がない」という意見もありますが、それはビットコインも法的には全く同じです。だから私はその意見には疑問を感じます。
ビットコインも所有権はないただのデータです。しかしそれが現在、1BTC何百万円もの価値が市場で認められています。
だから「法律的な保護がないから、価値がない」という意見は、実態としてナンセンスです。
−法律的な保護がないから価値がないとはいえない、長瀬さんが断言するのがすごいことですよね?
ブロックチェーンに付随する課題はありつつも、時間をかけて成熟に向けて議論が進んでいます。現状のルール(法律)がブロックチェーン技術と見合っていないのであれば、ルールを変えていけばいいだけの話です。
だから既存のルールと照らし合わせて、整合性がないので、ブロックチェーン技術は価値がないという意見もおかしいと思います。
NFT技術を使えば、いずれ著作権管理やIP管理なども、中央集権的な管理者不在の状態で、秘密鍵を持っている人に権利が移転する状況が生まれると思います。
もしくは部分的に権利を移転するにしても、契約書に「プロトコルに従って一部の権利を移転する」旨を記載しておくことで、当事者の合意が成立したとみなすプラクティス(実務慣行)ができていく可能性もあります。
そしてNFTに関するプラクティスができてきたら、トークンの移転と権利移転の連動性に関する課題も解決できなくはないと思います。
NFT技術を活用することで、アートの世界で生じている不都合な搾取構造が効率的になっていくことだと思います。
だから今のNFT状況だけをみて、早急に金融規制をかけたり、暗号資産にあてはめたりして考えるのは非常にナンセンスだと思っています。さらに、多くの人が規制を好んでいる状況に、私は驚いています。
最近、ビットコインの価格が上がったので、多くの人が騒いでいる状況に寂しさを覚えています。
「皆さん本当に価格さえ上がれば良いのですか?」、「そういう想いでブロックチェーン技術に熱狂してきたのですか?」と私は強く思います。
もちろんNFTやDeFiは流行りのバズワードですし、詐欺はこれからどんどん出てくるだろうなとは思います。
だから詐欺が横行する前にちゃんとあるべきルール、権利関係の整理をしていきたいと思っています。
ICOのように詐欺的な人たちに掻き乱されて、規制当局が動かざるを得ない状況になる前に、バランスの取れた市場プラクティスを確立したいと強く思います。
(おわり)
取材:竹田匡宏(あたらしい経済)
編集:設楽悠介(あたらしい経済)
撮影:大津賀新也(あたらしい経済)