なぜトークンの価値を高めるために流通速度が重要なのか(Understanding Token Velocity / by Kyle Saman)

竹田匡宏

はじめに

通貨(トークン)の価値を上げるために重要なことは、通貨の保有者数を増やすことだけではありません。それよりも重要なことは、どれだけ長い間その通貨(トークン)を保有してもらえるかです。以下のMulticoin Capitalの記事内でも説明されますが、Velocity(ベロシティ)とは通貨の流通速度のことを示します。

このレポートでは、なぜ通貨の流通速度が新たなエコノミクスを創出する上で重要なのかについて具体的かつ論理的に記載されています。

*以下は「Multicoin Capital」より「あたらしい経済」がライセンスを受けて翻訳したものです。

「Understanding Token Velocity(トークンベロシティを理解する)」

基本的に、すべてのトークンの説明には「トークンの供給量は固定されています。 だからトークンの需要が増加すると価格も増加します」と記載されています。

この記事では、詳細な例とともにトークンの流通速度の問題を説明し、 そして次にトークンの流通速度を低下させるメカニズムを共有します。

なおトークンの流通速度とは、そのトークンが利用できる経済圏でユーザーが保有するトークンの所有権がどれくらいのスピードで移転しているかを表すものです。

流通速度が速いトークンの例(A high-velocity example)

現在イベントのチケット詐欺(チケットをリプリントして何度も販売すること)は大きな問題です。そしてライブイベントのチケットはブロックチェーンで発券することが妥当なケースもいくつか存在しています。

もしイベント会場がブロックチェーンベースで発行したチケットを受け入れるようになれば、すべてのチケット詐欺を撲滅できるでしょう。なぜなら、ブロックチェーンベースのアセットを二重に使用することはできないからです。

さらにブロックチェーン上でチケットを発行するメリットがいくつかありますそれは転売を禁止できること、転売の利益をイベント会場に還元できること、転売金額に上限を設けることなどです。そうすることでチケット詐欺の排除、転売を減らすことができ、TicketmasterやStubHubのような中間業者への手数料を削減することができます。

私はブロックチェーンのこのユースケースが大好きです。しかしフルタイムの仮想通貨投資家(投機家)である私が実際にチケット発行プラットフォームである「Aventus(アヴェンタス)、Ticketchain(チケットチェーン)、Blocktix(ブロックティックス)」などが発行するトークンを保有したいとは到底思いません。

なぜならこれらのチケットプラットフォームが広く使われるようになり、数百億ドル規模の取引が処理されるようになったとしても、その基盤となるトークンのメカニズムはトークンの価格が実質的に上昇するような構造になっていないからです。

架空のチケットプラットフォームでイメージしよう

さてここから、私が「Karn」と呼ばれる架空のトークン発行プラットフォームを例に利用して、トークンの流通速度について説明をしていきます。

例えば「Karn」上では、ユーザーがドル建てのチケットの支払いを希望していることとします。ユーザーはチケット購入プロセスの一環としてKarnトークンを購入することはあっても、一度に数分にわたってトークンを保持することはないでしょう。なぜなら単純に保有し続けるインセンティブがなく、ドルに対する価格リスクが発生するからです。

またライブ会場も価格リスクを回避したいと考えているため、Karnトークンを保有するインセンティブはありません。ユーザーがKarnトークンをライブチケットと交換した後、主催者たちトークンを希望する通貨と交換するでしょう。

ちなみにチケットを交換するサイクルは、0x Procotocl(ゼロエックスプロトコル)のような分散型取引所を利用することで、秒単位で交換完了できることに注意してください。

実際にKarnトークンを保有したい人はいないと考えられます。そしてKarnトークンのような独自のトークンの存在は、チケット購入プロセスに不要な摩擦の層を もたらし 、消費者にとってより悪いチケット購入体験(UX)を生じさせています。

Karnトークンの取引量が増加することで利益を生む初期のステークホルダーたちは、市場に出入りする人々に流動性を提供するマーケットメーカーになるでしょう。

誰もがKarnトークンを受け取った瞬間、それを何か別のもの、チケット(消費者)かドル(会場)に交換するでしょう。これは悪いことではありません。 資産ペアのボリュームが増加し、流動性が高くなるとBid-ask spreads (ビッド-アスク-スプレッド)、つまり買い手と売り手の幅は0%近くまで崩壊するということになります。これは買い手とプラットフォーマーに適している状況と言えます。

このような状況では明らかにプラットフォームの取引ホストは利ざや稼ぎをする人たちを排除することができ、消費者は詐欺防止の強化によって有利な状況を得られます。

しかしこのKarnトークンは、市場参加者に実際の具体的なメリットを提供しているにもかかわらず、プロトコルが生み出している価値を実際に獲得しません。

流通速度の定量化(Quantifying velocity)

ようやく流通速度(Velocity)の議論の出番です。流通速度を次のように定義します。

1.流通速度(Velocity)=
ネットワーク内の総トランザクション数(Total Transaction Volume)/トークンの時価総額(Average Network  Value)」

2.トークンの時価総額(Average Network  Value)=
ネットワーク内の総トランザクション数(Total Transaction Volume)/流通速度(Velocity)

流通速度に関しては、任意の期間にわたって測定できます。通常の場合は毎年測定されています。

しかし、取引量は測定が難しい場合があります。その理由は取引所で発生する取引量だけでなく、店頭取引(OTC取引)やプラットフォームの使用も含まれるからです。

そして資産が1年間にわたって誰も売買しない場合、資産のVelocityはゼロであると考えられます。 流動性の欠如により、資産はその固有の価値まで割引価格で取引されます。 資産は本質的な価値を完全に発揮するために、ある程度の流通速度が必要です。 違いはLiquidity Premiumとして考えられます。

誰も保持したくない独自トークンの場合、トークンの流通速度はトランザクション量に比例して増加します。上記の2番目の式によると、トランザクション量は100万倍に増加し、ネットワークの価値は一定のままになる可能性があります。 ほとんどすべてのユーティリティトークンがこの問題の影響を受けています。

流通速度を下げる(Reducing Velocity)

プロトコルが関連するアセットの速度を低下させる方法はいくつかあります。

1.利益分配(buy and burn)メカニズムの導入

たとえば、Augur($ REP)ネットワークは、ネットワークの作業を実行するために協力してくれた$ REP保有者に$ REPを支払います。 REPトークンはタクシーのメダリオン(タクシー会社が発行した証)のようなものです。
つまりメダリオンを持つと、あなたはネットワークで働くための権利を支払う必要があります。

具体的には、REP保有者は予測市場を解決するためにイベントの結果を報告しなければなりません。資産の市場価格が低下すると、その利回りが増加するため利益分配メカニズムはトークンの速度を低下させます。利回りが高くなりすぎると、利回りを求める市場参加者が資産を買い持ち、価格が上昇して速度を低下させます。

またキャッシュフローストリームを使用すると、従来の割引キャッシュフロー(DCF)モデルを使用してトークンの価値を簡単に評価できます。

2.資産をロックするプロトコルにステーキング機能を組み込む

これにはネットワーク層のコンセンサスを達成するための証拠のメカニズムが含まれます。 しかしこの場合、単にコンセンサスノードを得ることより、ステーキングができるという理由の方が強いでしょう。

例えばFunFairは、オンラインカジノをより充実させるためのプラットフォームです。 FunFairは1対1のゲームのみをサポートしているため、プレーヤーはポーカーのように番人を用意することなくゲームを楽しむことができます。

ハウスはユーザーがスロットで大勝したり、ブラックジャックで10回連続で勝つなど、非常に稀なイベントを支払うための準備金を維持する必要があります。 その為カジノの運営者はすべてのトークンの50%以上をロックする必要があります。

3.バランスのとれたトークンの焼却と鋳造のメカニズム

ファクトム(Fuctom)は最高でおそらく唯一の例です。

多くのプロトコルは、特にFunFairの焼却コンセプト(新たに通貨を発行しない)を実装しています。私はトークンの価格を高めるために明らかなデフレ状態である通貨に非常に懐疑的です。

長期的にはデフレ通貨は保有者に奇妙なインセンティブを生み出し、過剰な投機による不必要なボラティリティを引き起こします。 Burn-and-mintはこの問題に対処します。

Factomでは、プロトコルの使用コストは米ドルで0.001ドルです。 FCTの価格に関係なく、使用毎に0 .001ドルです。

ユーザーは設計されたプロトコルを使用するためにトークンを書き込みます。自立的にプロトコルは毎月73,000個の新しいトークンを作成し、それらをバリデーターに配布します(FactomはERC20トークンではなく、独自のチェーンです)。

ユーザーが1ヶ月間に73,000トークンを燃やさないと、供給量が増加し価格の下落圧力がかかります。逆にユーザーが1ヶ月あたり73,000を超えるトークンを消費すると、供給が減少し価格の上昇圧力がかかります。長期的にはプロトコルの使用と価格の間に線形関係があるはずです。

Burn-and-mint dynamicが可能なのは、Factomが独自のチェーンだからです。ERC20 トークンにはインフレーションによって補償されるネットワークバリデーターがありません。burn-and-mintは ERC20 トークンで可能ですが、より困難です。インフレによって生成されたトークンを受け取るべきネットワーク参加者は、属性がはっきりとわからない場合が多いです。また技術的には、スマートコントラクトは自動インフレーションするマルチオペレーションソフトウェアとして実行できないため、インフレーションを実装するのは難しいです。

4.通貨のホールドを促進するゲーミフィケーション

チケットの発券について考えてみましょう。多くのコンサートはすぐに完売するため、会場はXトークンをY日間保持したことに基づいて顧客に優先順位を付けることができると思います。多くのコンサート会場がこの方法を採用すれば、通貨の流通速度は下がるでしょう。

また別の事例で説明します。ライブストリーミングサービスであるYouNowはPROPSと呼ばれる独自のアプリ内通貨を展開していて、ライブビデオ放送中にユーザーがコンテンツ制作者にチップを渡すことができます。またYouNowには「発見」タブもあります。

そしてYouNowではクリエイターがトークンを持っている場合、そのクリエイターのコンテンツを高くランク付けされる可能性が高くなります。これによりコンテンツ・クリエイターはPROPSで投げ銭などが行われますが、請求書を支払うために一般紙幣に変換する必要があるという興味深い環境が生まれています。一方でクリエイターはトークンを保持して、より発見されやすくなり、より多くの注目を集め、より多くのチップベースの収入を得たいと考えています。

5.価値を保存する機能を持つ

これは特定の設計メカニズムの機能ではなく、より広範な技術的実現性と市場での受容性の問題であるため、これを達成するのが最も困難です。もし人々が純粋にトークンを価値のあるものとして信じるようになれば、余ったトークンを他のものと交換するのではなく、所有したいと思うようになる可能性が高くなるでしょう。

資産を保有する理由の一つに資産の価格が上昇するという期待があります。理論的には、これは流通速度を減少させ資産の価格を押し上げるでしょう。

これが基本的に今日のビットコインを定義しています。ビットコインの価値は決済システムとしての本質的な効用からではなく、投機的な価値ゲームの関数から表現されます。

資産を保有するもう1つの理由は、その価値が安定するという期待です。 MakerやBasecoinなどの多くのステーブルコインプロジェクトは、公開市場で価格が安定した信頼できる資産を作成しようとしています。

ある通貨が価値保存機能を持つことは非常に難しいです。現在このビジョンを実現しようとしているプロジェクトは数えるほどしかありません。長期的に価値を高め続けた通貨がどれほどのドミナンスを持つかは明らかではないでしょう。

世界の価値の20~30%の通貨がそれぞれ一握り、75-5-5-5-5-5%の分割、80~20%の分割など、完全に合理的な議論をすることができます。お金には強力なネットワーク効果がありますが、その効果がどれほど強力なのか、あるいは単一のメガ通貨に関連したマクロレベルのリスクを軽減するために市場がどれほど実行可能な競争を要求するのかは明らかではありません。

抑えておくべきポイント(Takeaways)

Velocity(流通速度)は、長期的な非投機的価値に影響を与える重要な作用を生み出す一つです。

ほとんどのユーティリティー・トークンは、トークンを数秒以上保有する理由を提供していません。投機がなければ、流動性の高い資産は長期的な価格上昇を維持するのに苦労します。

したがって、プロトコル設計者は、単に使用するだけではなく、保有を促すメカニズムをプロトコルに組み込むことが有益と言えるでしょう。

 

元記事:「Understandign Token Velocityby Kyle Samani /Multicoin Capital
翻訳/編集:竹田匡宏(あたらしい経済編集部)

(images:iStock/artsstock/Tzido)

 

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。