ブロックチェーンの誕生は、インターネット成長における必然である/村井純

特集 インターネットの父が語る、ブロックチェーン

村井純

ブロックチェーンの役割

—インターネットの父である村井先生は、ブロックチェーンのインターネットにおける役割は何であると考えますか?

まずブロックチェーンを語る前に、そのベースにあるインターネットというものをどうとらえるかという話をします。みなさんはインターネットって何って聞かれたら、何て答えますか。

私はインターネットについて重要な2つの要素を答えます。

まず一つ目。インターネットは国を飛び越えた空間として作られてきました。インターネットは米国では「The Internet」と書きます。Theという定冠詞があって、さらにIが大文字の表現です。またネットと省略して言われる時でも英語では「Net」と書きます。Nが大文字なんですね。つまり固有名詞になっていて「世界に一つのものがインターネット」という意味合いがあります。

日本ではカタカナでインターネットと書くのでよくわかりませんが、英語だとそのあたりの定義がはっきりしています。定冠詞がついて頭文字が大文字ということは、インターネットという「1つの空間」を人類が持っているということを表しています。まずこれが重要なポイントだと思います。

二つ目に重要なポイントは、このインターネットの仕組みを誰か一人が持っているわけではないということです。つまり独占的に持っている人がいない、みんなで持ち合って全員の力で動かしているのがインターネットです。システム的に言えばインターネットは分散してネットワーク化されて動いている自律分散システムです。

まとめると、インターネットは「人類がみんなで一緒に持っている」「1つの空間」だということです。

では現在インターネットは人類にとって完全な仕組みでしょうか。残念ながらまだまだ全人類が使うには課題が残っていると思います。

人類にたった1つのインターネットという空間の中で、「信頼」をどう作るか、そして「経済圏」を動かしていくか、というのがアフターインターネットである現在の課題です。インターネットを前提とした社会がすでに出来つつありますが、このポイントは未解決のまま残ってきていると思います。

インターネットの課題「信頼をどう作るか」

まずは「信頼」をどう作るかという課題についてお話しします。

インターネットを私たちが作りはじめていた頃は、「信頼」が実はあったんです。はじめたころは基本的に、「みんないい奴」だったわけですよ。信頼できる人たちのコミュニティから始まったのがインターネットでしたから。

しかしインターネットの人口カバー率が100%に向かっていくと、すべての人が参加するようになる。すると悪用とか濫用する奴が出てくる。それは避けられないことでした。常に良い技術が出てくれば、悪用や濫用する奴が必ず出てくる。

だから良いことでインターネットを使っている人を、悪用する人から何らかの形で守らなければならない。それには「信頼」の課題解決が必要です。

前置きが長くなりましたが、インターネットが積み残した課題を解決することに、ブロックチェーンの役割はあると思っています。

特に私たちが作ったインターネットが、すべての人のためのインターネットになったこの切り替えのタイミングで、ブロックチェーンは必要な技術です。ブロックチェーンはインターネットにとってのインフラストラクチャーの一つだと考えることができると思います。

インターネットが世界中に広がった今、国ごとの現実社会つまりリアルスペースと、一つのインターネット空間であるサイバースペースが完全に重なり合っているのです

現実社会は、国という単位で動いていますがサイバースペースは一つの空間でできています。でもサイバースペースにはオーナーもいないし、全体を管理する警察もいないんです。1つの共通した法律もない。そうなるとみんなでそれぞれサイバースペースをリアルスペースにマップして、いろいろなルールを決めなければならない。

まさに今はブロックチェーンを使ってどのようにその「信頼」できるルールを作れるのか、という面白いタイミングだと思います。

インターネットにおける信頼のフレームワークという課題

—村井先生はインターネットの創世記から、いずれブロックチェーンのような技術が生まれるということ予測はされていましたか?

予測していたというか、その課題はインターネットがやり残しているとずっと思っていました。ですからいつかはそれを解決する技術が生まれるとは考えていました。とにかくインターネットはこれまでの成長の中で、その全体の信頼性をどういう風に作るか、「信頼」というフレームワークをどういう風にしてつくるかが後回しになっていたと思います。

現在のブロックチェーンの仕組みが、このままでは技術的にはまだ完全ではないかもしれないです。たとえばスケーラビリティの問題など、いくつか検証していくプロセスが必要です。しかし、現在でもこれだけ大規模に使われるということは大きな意味が出てきます。インターネットの後回しにした宿題の解決に対する大きな一歩ですね。

この記事の著者

村井純

慶應義塾大学環境情報学部教授。工学博士。
1984年、国内のインターネットの祖となった日本の大学間ネットワーク「JUNET」を設立。1988年、インターネットに関する研究プロジェクト「WIDEプロジェクト」を設立。内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員、社団法人情報処理学会フェロー。その他、各省庁委員会の主査や委員などを多数務め、国際学会などでも活動する。日本人で初めてIEEE Internet Awardを受賞。ISOC(インターネットソサエティ)の選ぶPostel Awardを受賞し、2013年には「インターネットの殿堂(パイオニア部門)」入りを果たす。「日本のインターネットの父」「インターネットサムライ」として知られる。

慶應義塾大学環境情報学部教授。工学博士。
1984年、国内のインターネットの祖となった日本の大学間ネットワーク「JUNET」を設立。1988年、インターネットに関する研究プロジェクト「WIDEプロジェクト」を設立。内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)有識者本部員、社団法人情報処理学会フェロー。その他、各省庁委員会の主査や委員などを多数務め、国際学会などでも活動する。日本人で初めてIEEE Internet Awardを受賞。ISOC(インターネットソサエティ)の選ぶPostel Awardを受賞し、2013年には「インターネットの殿堂(パイオニア部門)」入りを果たす。「日本のインターネットの父」「インターネットサムライ」として知られる。