エンジニアが語る次世代型SNS「FiNANCiE」 の技術 〜FiNANCiE CTO西出飛鳥氏インタビュー

西出飛鳥

「あなたの夢が、みんなの財産になる」がコンセプトの次世代型SNSサービスFiNANCiEのCTO西出飛鳥氏。そんな西出氏に「ブロックチェーンとの出会い、Quantstampでのコード監査、Bancor Protocolやダッチオークションの採用理由など」について語っていただいた。

ブロックチェーンに出会うまで

-いつからプログラミングを始めたのですか?

僕は小学生の時に、プログラミングに興味を持ち始め、高校に入る前から本格的にコーディングをはじめました。

その時期に僕は「ファイナルファンタジー7」というゲームと出会いました。そのゲームをしてみて「こんな面白いゲームをどうして作れるのだろう」と感動したんです。このゲームようにインパクトのあるものを作っていきたいなと強く感じました。

当時、友達の家に古いベーシックの専用機あって、それを借りて自分がプログラミングしたものが実際に出力されることが面白くなってきました。それは箱庭をいじるような感覚でしたね。コードを書くだけで自分の思い描いたものが動き出すのが楽しくなったんです。

その後、高校の卒業制作で校舎を3Dでモデリングして中を自由に歩けるというプログラムを作成しました。それを1人でガリガリとプログラミングを始めたのはいいものの、モデリングの部分を設計事務所から設計図をもらってすべて数字を手打ちしたので、すごく大変でした(笑)。

しかし数字を打ち込むだけで仮想空間にどんどんプロットされていくっていうのが純粋に楽しかったですね。

大学に入ってからは、開発バイトをして色々作っていました。そこで実際に自分がコードを書いたものがユーザーに使ってもらえるのを体験しました。

そして大学3年時に大学の先輩に、である「未踏」に採択されたプロジェクトを一緒にやらないかと誘われたんです。それがWebブラウザ「Lunascape」のプロジェクトだったんです。それで、そのまま起業することになりました。

※「未踏」とは 経済産業省所管である独立行政法人情報処理推進機構が主催する”突出したIT人材の発掘と育成”を目的として、ITを活用して世の中を変えていく日本の天才的なクリエータを発掘し育てるための事業

-FiNANCiEに入るまではどういうご経歴なのですか?

僕は「Lunascape」を起業してからしばらくはコンシューマー向けアプリケーションを作っていたんです。そんな「Lunascape」時代から僕は現在のFiNANCiEのファウンダーの國光さんやCEOの田中と出会っていたんです。

当時ベンチャー界隈の有志で集まってアナログのボードゲームをやる会があって、そこで彼らに出会いました。その会にはメルカリの山田進太郎さんなんかもいて、今考えると豪華な会でしたね。

それで僕が「Lunascape」を辞めた後に偶然田中から連絡をもらって、彼が地域通貨のプロジェクトとシェアリングエコノミーなどの領域の話してくれてそのジャンルに興味を持ち始めました。それで田中と今のユニコン(※FiNANCiEは株式会社ユニコンとgumiの投資プロジェクト)の前身となるとなる会社を立ち上げることになったんです。そこではその時にやろうと思っていた地域通貨のプロジェクトは時期尚早だったのでいろいろと事業をピボットしていました。当時僕はゲーム向けのSDKを開発などしていましたね。

ただいろいろな事業をしながらブロックチェーンについて勉強して行く過程で、当初やりたかった地域通貨プロジェクトがそれを使えばできるんではないかとここ1、2年で考えるようになりました。やはり通貨はコミュニティそのものなので、通貨というものを軸にしたコミュニティ、経済圏というのをこのタイミングだと作ることができるんじゃないかと思ったんです。

そんなタイミングで國光さんからもブロックチェーンで一緒に何かやろうとお話をいただいて、それでみんなでディスカッション重ねていく中でできたのがFiNANCiEです。

ブロックチェーンに関心を持った理由は、コミュニティの重要性を感じたから

– 一般のエンジニアとして活躍されてきた西出さんがどうしてブロックチェーンに関心を持ったのでしょうか?

僕がブロックチェーンに関心を持った主な理由は自律性、透明性、持続性」があるところです。初めは、その3つに非常に着目していました。でもブロックチェーンを扱っていくうちに、次第にこの3つの要素は「マイナーとノードを支える人・組織」が支え続けてくれないと、成り立たないことが分かってきました。つまりブロックチェーンの背後にあるコミュニティの重要性に気づいたんです。

Quantstampによるコード監査

– FiNANCiEはなぜQuantstampにコード監査してもらおうと思ったのですか?

なぜFiNANCiEがQuantstampからコード監査を受けようと思ったかというと、ブロックチェーン事業は透明性ありきだからです。ユーザーがコードを見られるようにしないと、透明性を担保できない。

つまり、自分達の書いたプログラムが全部オープンになるので、なにか不具合があったとしてもそれもオープンになってしまいます。もちろんクリティカルな不具合でなければ問題ないかもしれませんが、ただスマートコントラクトは一度動き始めると簡単に変えることができません。

自分達でスマートコントラクトのコード監査をすれば良いという意見もあると思いますが、自分達の知識の及ばないハッキングの手口がある可能性もあります。

残念ですがブロックチェーンのハッキング被害は後を絶たない状況です。ハッキング被害にあったプロジェクトは「自分達がハッキング被害にあうはずない」と自信を持ってコントラクトを書いていたと思うんですよね。ただそんな多くのプロジェクトも蓋を開けてみると、思いもよらなかったところにエラーが出てききてしまってハッキングされていました。

だからこそFiNANCiEではそんなことが起こらないようにコードの隅々までQuantstampにチェックしもらおうと思いました。

例えば企業が業務上、大きな契約を結ぶ際は必ず弁護士にチェックを依頼しまよね。もちろん自分達のビジネスのフィールドであれば自分達で判断ができると思いますが、そうではないテクニカルな法律的な知識によって、予想外のトラブルが起こりうる可能性があるからです。

QuantStampでのコード監査は一般のビジネスでいう弁護士チェックに近い意味合いもあると思っています。

技術から読み解くFiNANCiEの構造

– FiNANCiEはパブリックチェーンのDappsではなくて、裏側で台帳コントラクトを作って動かしているとのことですが、その台帳コントラクトの役割はどういったものでしょうか?

まずユーザーからFiNANCiEに入金があると、入金額が台帳コントラクトに記録されます。ちなみにFiNANCiEも内部的にはERCの規格で作られているので、入金額に基づきヒーローカードがコントラクトの中で発行されています。それによってオフチェーンとオンチェーンが結びつきます。

-ユーザーがクレジット支払いをした後のトランザクションの流れはどのようなものでしょうか?

私たちがコーディングした台帳コントラクトがユーザーの資産の一括管理と取引実行を代行しています。だからクレジットカードからFiNANCiEに入金されたお金は、台帳コントラクトで管理されて、ダッチオークション/Bancorコントラクトが呼び出されます。その後FiNANCiEのユーザーのヒーローカードの所持量の管理も、台帳コントラクトが行なっています。

-トラストレスな状態がユーザーファーストな状態なのでしょうか?

「ブロックチェーンでサービス全体をトラストレスにするべきか」という議論については、ユーザーとサービスとの信頼関係を重要視して考えるべきだと思っています。

スマートコントラクトのプラットフォームはトラストレスであることを一般的には奨励されています。だから、ユーザーに信頼してもらう行為は、矛盾するところではあると思います。ブロックチェーンを活用することによって、何もかもトラストレスにしなければならないというわけではありません。

FiNANCiEでは、実際に見知らぬ人ユーザー同士のカード取引がトラストレスに成立する状態も必要だとは思っていますが、現在はサービスとしてまだまだ未成熟なので、我々の信頼なしにサービスを成長させることはできないと考えています。

具体的にいうと、ヒーローとFiNANCiE運営側が契約を結び、ヒーローの認知を高める施策なども一緒に企画してやっていくというところです。

なぜならヒーローカードのFiNANCiE上での価値提供が一番大切だからです。そうでなければ、コントラクトやサービス上の数字は何も表現していない数字になってしまいます。

需要と供給のバランスが取れて、不満足を生まないオークション形式「ダッチオークション」

-なぜFiNANCiEはダッチオークション形式を選んだでしょうか?

FiNANCiEのユーザー体験(UX)はまずダッチオークションの部分から始まります。サービス設計初期段階から、オークション形式にしようとは考えていたのですが、一般的なオークションサービスは初期価格の値決め方法が民主的ではないなと感じていました。

そう考えた時に民主的に価格を決めることのできる仕組みを洗い出しました。一般的なのはイングリッシュオークションで値段が上がっていくタイプのオークションです。ただこのやり方だと最後の入札から上書き入札がなければ終了となるので、オークション終了のタイミングが決めづらいんです。

-イングリッシュオークションであれば、最後の入札からオークション終了までの時間はどれくらいですか?

それはサービスによって違っていて、そのオークションオーナーが決める部分だと思います。「どういうルールでオークションをするか」は主催側の意向が反映されます。

それに対し主催者側の意向を排除し、オークション参加者が商品や権利を保有しやすくなるオークションの形がダッチオークションです。

ダッチオークションの仕組み

ダッチオークションの仕組みは、自動的に、そして強制的に最初に決めた「発行枚数と上限価格」に基づく曲線に従い、オークションされる仕組みとなっています。

ダッチオークションの終了タイミングは、入札するユーザーさんの意向が反映されています。一人だけがカードを買い占めるのではなくて、多くの人が上限価格と発行枚数に応じて、購入することができる仕組みです。

-なぜBancor Protocolを選定したのでしょうか? 他に検討したプロトコルはありましたか?

ヒーローカードの取引成立の可能性を高めたいからです。ビットコインのような取引板の厚さがあれば、大体の取引は成立すると思います。しかし、FiNANCiEを含めた新規のブロックチェーン基盤のマーケットプレイスであれば、まだまだ取引量が少ないので、その取引板の厚さがユーザーにとって問題になります。つまり売りたいときに売れないということになってしまう。

その課題解決策として販売所形式があります。仮想通貨取引所は販売所の形で、販売所側が値段を決めて、買い取ったり売ったりします。販売所形式ではタイミングを気にせずユーザーは売買ができるメリットはあると思います。

ただそのやり方は、販売所側が値段をきめなくてはならない仕様です。だから、値段をどう決めるかを販売所側はメンテナンスしなくてはいけないのです。

一方、Bancorl Protocolは自動的に価格を決められる仕組みです。だから私たちはこのプロトコルに注目したわけです。

FiNANCiEの今後の技術的アップデートに関して

-FiNANCiEは、今後どのような機能を実装していく予定ですか?

僕はFiNANCiEでもっとヒーローとファンの間でコミュニケーションがきちんととれるような機能を作っていきたいです。FiNANCiEがよりユーザーにとって使いやすいツールとして、足りない機能を加えて、余計なものはそぎ落とす作業を徹底的にやっていきたいです。

FiNANCiEは投機的な金額の動きがメインのサービスではないです。理想の形は、きちんとヒーローとヒーローの夢をサポートするファンがいて、そのファンに報いるためのヒーローがリワード的なものを提供する流れを生み出し続けることです。その流れを生み出し続けるプラットフォームにしたいですし、実際にFiNANCiEを使って多くのヒーローが夢を叶えて欲しいと思っています。

そしてそれには追加した機能をもっと使ってもらえるようにする必要もあると思っています。僕たちもどのように機能を使うのかヒーローにもっと詳しく説明していかなければいけないと思ってます。

そして新しい機能を開発する際も、ヒーローとコミュニケーションして「どういう形が理想でどんな機能が欲しいか」を聞いて、運営側が洗練して実装していかねばならないと考えています。

-今、西出さんは技術では何を重視していますか?

僕は、あたらしい技術のパフォーマンスとノードを支えてくれるコミュニティのポリシーや今後のコミュニティの発展度合いを重要視しています。

FiNANCiEはイーサリアム(Ethereum)を採用していますが、将来Ethereum以外のものに乗せ換える可能性を見込んだ上で、現在のアーキテクチャにしました。アーキテクチャとしては全体を入れ替えることも不可能ではない仕様になっています。

イーサリアムはプロジェクト自体すごくいいプロジェクトだと思いますし、今のところすごく有力プロジェクトであると考えています。ただ一方でもちろんコミュニティの動きも色々とあるので、よりよい動きをするものがあって、より良いものが出てくればそちらを採用していくことも十分考えられると思います。

-FiNANCiEではあたらしい技術をどのように採用しますか?

まずは世の中的に発表されている資料を参考にします。あと他の実験データや内部のテスト環境で採用するかどうかテストします。例えばその技術にサーバーが必要なら、それ用にサーバーを一時的に立てて構築し、サンドボックスで色々いじりながらパフォーマンスを確認していきます。またパフォーマンス以外にも技術はメンテナンス性も重要ですので、その点も考慮してテストして採用を検討しています。

-西出さんの2019年の目標を教えてください。

僕は今まではエンジニアとしてプロダクト作りに専念するタイプでした。

しかしFiNANCiEは世界でしっかりと戦えるレベルのプロダクトにしたいと思っています。それには自分の力だけでは、限界があります。だから僕は、今FiNANCiEのチーム作りにすごくフォーカスしています。きちんと僕たちがやっていることをPRして、共感を得られるエンジニアをどんどん採用していきたいです。

ドリーム・シェアリング・サービス「FiNANCiE(フィナンシェ)」はこちら
https://financie.jp/

編集:竹田匡弘/撮影:大津賀新也

この記事の著者・インタビューイ

西出飛鳥

株式会社フィナンシェ 取締役CTO
大学在籍中にIPA未踏ソフトウェアプロジェクトに採択されたPC用ウェブブラウザ「Lunascape」の開発メンバーとして参画。同プロジェクトはスーパークリエイター認定を受ける事となる。翌年、製品と同名の株式会社を共同創業し、CTOに就任。以降、退社までの約7年間にわたりコンシューマー向けクライアントアプリケーションの開発を自らが中心となって行う。
株式会社アマテラルにてソーシャルゲームの開発、運営を経験。
2012年、株式会社ユニコンの前身となる株式会社ウォルラスデザインを共同創業し、CTOに就任。
2019年、株式会社ユニコンの子会社である株式会社フィナンシェを共同創業し、取締役CTOに就任。同社のサービスFiNANCiEにおける基盤技術となるブロックチェーンに関する技術の研究及び開発に従事する。

株式会社フィナンシェ 取締役CTO
大学在籍中にIPA未踏ソフトウェアプロジェクトに採択されたPC用ウェブブラウザ「Lunascape」の開発メンバーとして参画。同プロジェクトはスーパークリエイター認定を受ける事となる。翌年、製品と同名の株式会社を共同創業し、CTOに就任。以降、退社までの約7年間にわたりコンシューマー向けクライアントアプリケーションの開発を自らが中心となって行う。
株式会社アマテラルにてソーシャルゲームの開発、運営を経験。
2012年、株式会社ユニコンの前身となる株式会社ウォルラスデザインを共同創業し、CTOに就任。
2019年、株式会社ユニコンの子会社である株式会社フィナンシェを共同創業し、取締役CTOに就任。同社のサービスFiNANCiEにおける基盤技術となるブロックチェーンに関する技術の研究及び開発に従事する。

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