どのように企業はDX戦略を立てるべきか〜須藤憲司(株式会社Kaizen Platform) Shital Sevekari(アクセンチュア株式会社) 山田宗俊(SBI R3 Japan株式会社)

あたらしい経済とSBI R3 Japan 株式会社の共催オンラインイベント「企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)とブロックチェーンの実用化」の第1セッション「どのように企業はDX戦略を立てるべきか」のイベントレポートです。

どのように企業はDX戦略を立てるべきか

左上:設楽悠介 左下:須藤憲司 右上:山田宗俊 右下:Shital Sevekari

登壇者
須藤憲司(株式会社Kaizen Platform)

Shital Sevekari(アクセンチュア株式会社)
山田宗俊(SBI R3 Japan株式会社)
モデレート 設楽悠介(株式会社幻冬舎)

DXとは何か?

−ずばり、DX(デジタルトランス・フォーメーション)ってなんですか? ITと何が違うのでしょうか?

須藤憲司(以下 須藤):僕の定義するDXは、非デジタルな領域の企業がこれまでの業態でデジタルを使ってお客さんの体験を「いい感じ」にすることで売上を伸ばすこと。今までのIT化は業務フローの改善などコスト削減が多かったですが、DXは顧客体験を変えて、あたらしい競争力につなげることだと定義をしています。

山田宗俊(以下 山田):IT化は個社の現場の業務をあるべき姿を実現していくことでした。一方DXはあるべき業界の姿を実現すること、個社だけではなく複数の会社の業務を変えることだと思ってます。これまでの低コストで高品質なものが売れたという時代から、須藤さんがおっしゃるように顧客体験をどう提供するかという時代になってきています。それは個社だけでは難しい、だから複数の会社が共同して、技術もブロックチェーンだけでなくAIやIoTも組み合わせて変えていこうというのがDXだと定義しています。

Shital Sevekari(以下 シタル):アクセンチュアではDXとは「顧客中心のデジタル変革」と定義しています。「利用者あるいは顧客を中心にして、顧客の体験をどう変えていくか、より良くしていくか」を考えるのがDX。一方、IT化は業務システムなどで手動なものをオンライン化する、システムをアップグレードするというようなものだったが、DXは業務自体を変える可能性があります。業務自体をガラッと変える、もしくはあたらしい業務を生むというのがDXです。

山田:リテールの世界で顧客体験というのはイメージしやすいですが、B to Bの世界で顧客体験って何かというと、例えばワンクリックで必要なデータが見られる、商取引がアプリだけで完結できるといったものです。やはりこれを変えていくとなると個社だけでは難しい、複数の会社がいろいろな技術を組み合わせてその仕組みを顧客のために作り、結果個別社の利益にもつながるとうようなものをイメージしていただけるといいと思います。

シタル:海外では社員のこともインターナルカスタマーということがあります。今山田さんが言っていた、BtoBの中でも社員の体験をどう良くしていくか、というのもDXに繋がっていきます。

DXが進んでいく企業や業界

−どういう企業や業界のDXは進んでいくと考えていますか?

須藤:まずは企業の意思決定に関してリスクがあげられると思っています。GAFAのような巨大プラットフォームが拡大していく中、そんな彼らが自分たちの業界にきた時に、自分たちはどうなるんだろう?と考えるはずです。そのリスクシナリオを考える企業、もしくはその危機意識を強く持っている企業がDXに関して取り組みを開始しています。実際海外ではGAFAが進出してきたところが動いています。

また進んでいるのは特定の業界、会社というよりは、オーナー企業はDXに取り組みやすいんではないかと思っています。オーナーは自分たちのビジネスを立ち帰って、何をすべきかと言うロングレンジの視点、もしくは危機意識を強く持っているからです。

山田:日本に関してはまだDXが進んでいないのが現状です。その原因はITとDXの違いも理解されていない、それをITの延長でしか考えられていないからです。また今までのIT化はボトムアップなアプローチで進みましたが、DXはトップダウンの話が多いのでなかなか進まない状況もあります。さらに日本は大企業ほどオープンイノベーションではなく、クローズドイノベーションの進め方が一般的です。でもDXは一社では無理なので、それに慣れていないという点もあります。

こういった日本的な要素のある企業がDX始めるのは結構難しいです。ただすでに日本的要素のないところ、例えば貿易金融、グローバルサプライチェーンなどグローバルでDXがはまっているところに乗っかる、と言うのがはじやすいのではないかと。そしてその成果を徐々にトップに理解してもらって進めと言う流れがはじめやすいのではないかと思います。

シタル:DXが進むのはBtoC の企業が多いと思います。ユーザーエクスペリエンス、カスマターエクスペリエンスに繋がって、顧客自体は次々とあたらしいものを求めているからです。例えばコロナ禍においてレストランがデリバリーをスタートしたり、ビジネス自体をトランスフォームしたりしています。前からある「出前」だけではなく高級レストランの料理をタクシードライバーが運ぶというようなビジネス展開もあります。そういったエンドユーザーにつながるところでDXが起きています。

一方でB to Bでもまだ少数ですが取り組んでいる日本の企業もあります。一つ例を挙げると、日本通運さんは医薬品サプライネットワークのDXを進めています。その取り組みはBlockchainやIOTなどテクノロジーを活用するだけではなく、「GDP」(Good Distribution Practice:適正な流通基準)など世界基準を積極的に取り入れ、日本発となる医療品サプライチェーンを設立させていくことです。

ブロックチェーンとDX

−ブロックチェーンはDXにおいてどのように使われるようになると考えますか?

山田:弊社は企業間取引に使えるブロックチェーンは「Corda(コルダ)」を提供しています。そして例えばサプライチェーンのDXにおいてはどれだけ在庫を適正化して、販売ロスをなくすかがテーマになりますが、多くのサプライヤーとバイヤーが関わる中で、一社だけだと実現できません。

そこでもしブロックチェーンを使ってサプライチェーン間で情報をシームレスに繋ぐことができれば、迅速に動く事ができるようになります。

シタル:顧客目線で考えなければいけないのがDX。つまりカスタマーエクスペリエンスをリッチにするためにカスマターの情報をいろいろなところで連携してリッチな体験を提供しなければいけません。ユーザーはエクスペリエンスにうるさくなってきてる一方、自分の情報を企業に渡したくないと言う考えも強くなってきています。

そこで、「個人情報をどう取り扱うのか。セキュリティをどう担保するか。」これが重要になってきます。従来の技術で解決困難だったこのような課題はブロックチェーンで解決できる可能性があります。ユーザーアイデンティティを分散的に管理でき、かつ、情報利用に関する権利はすべてユーザー側に渡すと言う事ができるようになればDXを進めやすくなる会社が増えると思います。サプライチェーンや金融分野以外にDigital Identityにもブロックチェーンの活用は大きな変革が齎すのではないかと思います。

須藤:最初にDXがはじまるのはUX、顧客体験から。先ほどから話にあったように、ブロックチェーンを使った魅力的なユースケースが出てくると普及していくと思います。技術的な部分もあると思いますがそれが成熟してくれば一気に拡がる可能性があるのではないでしょうか。

どんなユースケースかというと、ユーザーは個人情報を自分で管理したい、さらに企業も各国それぞれのトランスペアレンシーの在り方やプライバシーの考え方にすべて対応するのが難しい、そういったところで魅力的なユースケースが生まれそうだと思います。

また今菅政権で紙を無くそうという話がありますが、「印紙のデジタル化どうするんだっけ?」と考えていくと「ブロックチェーンにした方がいいよね」というようになることも考えられます。このようにDXにおけるブロックチェーンはいくつかの特定のユースケースから広がっていくんではないかという仮説を持っています。

(この記事はイベント内容をダイジェスト編集したものです。イベントの全ての内容は以下動画からお楽しみください)

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登壇者プロフィール

須藤憲司
株式会社Kaizen Platform/代表取締役。 2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。企業のDXを支援する「KAIZEN DX」、Webサービスやモバイルや動画広告などのUI/UX改善をする「KAIZEN UX」を提供。著書に『ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜』 (NewsPicks Book)『90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門』(日本経済新聞出版社)

Shital Sevekari(シタル セウェカリ)
アクセンチュア株式会社/Senior Manager。 2005年より日系企業にて様々なIT系の仕事を経験。主に金融系の案件をアカウントマネージャーとしてリードし、オフショアを活用したデリバリ体制強化などを実施。社内でブロックチェーンやAI・チャットボットに関するケイパビリティを作り上げ、オフショアではゼロからブロックチェーンCOEチームを設立。お客様のビジネス・トランスフォーメーション実現に寄与する技術の検討・提案を実施。2019年7月にアクセンチュアへ入社し、アクセンチュアグローバルのブロックチェーンに関するケイパビリティやこれまでの自身の経験を活かして、BlockchainのSME(Subject Matter Expert)として日本のお客様のビジネスを支援している。

山田宗俊
SBI R3 Japan株式会社/ビジネス開発部長 。Cordaエバンジェリスト 日立コンサルティングにて金融機関向けITコンサルティングの経験を経て、2016年、エンタープライズ・ブロックチェーンCordaを開発するR3に、日本人社員第一号として参画。業務改善の視点を軸に、日本企業へのブロックチェーン導入を推進。R3 Cordaを活用したビジネス開発における第一人者。2019年からは、R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanにて、営業およびマーケティングの責任者として陣頭指揮を執る。FLOCブロックチェーン大学校では、ビジネスコースのクラス(金融・証券分野への応用)を担当。Mediumブログを通じて、ブロックチェーン情報を発信中。ブロックチェーン・イベントでの登壇経験多数あり。

設楽悠介
株式会社幻冬舎/あたらしい経済編集長 幻冬舎のブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済(New economy)」を創刊。同社コンテンツビジネス局で新規事業や電子書籍事業、コンテンツマーケティング事業を担当。幻冬舎コミックス、エクソダス等の取締役も兼務。また複数企業の社外アドバイザーも務める。個人活動としてVoicyでビジネス系音声番組「風呂敷畳み人ラジオ」や、カルチャー系Podcast/YouTube番組「#欲望のSNS」等の数々のコンテンツの発信やコミュニティを運営。著書に『「畳み人」という選択 「本当にやりたいこと」ができるようになる働き方の教科書』(プレジデント社)。

 

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

ブロックチェーン、仮想通貨(暗号通貨)、トークンエコノミー、評価経済、シェアリングエコノミーなどの「あたらしい経済」をテーマにしたWEBメディアです。「あたらしい経済」モデルやそこでの稼ぎ方、そこで未来を切り開く人々のエピソード、あたらしい時代における働き方や学ぶべきことなどを、紹介します。これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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